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私
のように——
「お兄ちゃん!起きて!」
朝から妹の美羽の声を聞いて起きるなんて、幸せすぎる日常だ。
今日もいい日になりそうだ……と思いきや、カーテンを開ける音が聞こえたあと、部屋の扉を勢いよく閉める音が続く。
「なんなんだ?」
俺は寝ぼけたままベッドの上で身体を起こすと、枕元に置いてあるスマホを手に取る。時刻はまだ七時前だった。
いつもなら俺が起きるまで起こさないのに、珍しいこともあるものだ。
まあ何か用事があるのかもしれないし、とりあえず着替えてからリビングに行くとしよう。
***
「おはよう、美羽。どうかしたのかい?」
ダイニングテーブルにはもう朝食が用意されており、キッチンではエプロン姿の妹がフライパンを振るっていた。
「えっ!?あっ、その……うん。ちょっとね。昨日の夜、電話しても出なかったから心配になって。それで早く起きたらまだ寝てるみたいだから、つい声をかけちゃったの」
振り返らず料理をしながら答える妹。どうやら本当にただの早とちりらしい。
「ああ、悪い。昨夜は友達と遅くまで飲んでいたんだ。今度からは気をつけるよ」
嘘だけど。
「そう、それじゃ仕方ないわよね。はい、できたわよ」
食卓に並ぶ目玉焼きとベーコンとトースト。シンプルなメニューだったが、とても美味しそうだ。
椅子に座って食べようとすると、ふとテレビに目がいった。
ちょうど朝の情報番組が放送されている時間だったので、リモコンを操作してチャンネルを変える。
すると画面いっぱいに美少女の顔が現れた。
『みなさん、おはようございます!』
元気な挨拶とともに微笑む君の顔を見た時、僕は恋に落ちた。
君の笑顔はまるで向日葵のように明るくて眩しくて……その花言葉の通り僕に勇気を与えてくれた。だけど君は僕の初恋の相手であると同時に憧れの存在でもあった。
だから最初はただ見ているだけで良かったんだ。
でもそれは長く続かなかった。
なぜならある日を境に君は変わってしまったから。
いつも明るいはずの君は笑わなくなった。
話しかけても返事をしなくなってしまった。
もうあの頃の君は戻ってこないのだね。
あの時の君の瞳はこんなに濁っていなかったし、君の声はこんなに震えていなかった。
あの頃、僕は何度でも君を助けられたはずなのに……。
ああ神様どうかお願いします。
今一度僕から大切なものを奪わないでください。
どうか、僕の願いを聞き届けてください。
僕の世界を変えてくれた彼女を返してください。
――それが叶わぬなら、いっそのこと、彼女のいない世界に連れ去ってくれても構いません。
だからどうか、彼女だけは幸せにしてあげて下さい。
それが出来ないと言うのであれば、代わりに僕を殺してもいい。僕はもう長くないからね。
だから、君の手で終わらせて欲しい。
君はきっとその願いを叶えてくれると信じてる。
僕の名はラフィア=ハーデス。かつてこの銀河の覇王だった者だ。
今はただの老いた死に損ないが一人。
この身体では、もはや何も成し得ない。
だからこそ、僕を殺すという君の決意に敬意を表して、君に僕の秘密を教えてあげよう。
どうだい?少しは面白い話になったかな? そうだ!君にいい物をあげよう。
これは……ああ、これじゃ駄目か。ちょっと待っていてくれ。
お待たせしたね。今度こそ大丈夫だよ。
さあ、これを見てくれ。何に見える? そう、正解だ。それは君と同じ姿形をした人形なんだ。
ただし中身は全く違うけどね。
ほら、よく見てごらん。ここに映っているのは誰だと思う? 君だろ? 正確には君の意識をコピーしたものだけどね。
驚いたかい? 実はそれ、魂の無いロボットなんだ。
といっても機械仕掛けじゃないよ。魔法で作った擬似生命体のようなものさ。
でも性能は本物の人間の脳に匹敵するくらい精巧に作ってあるんだよ。
どうしてそんなことをするか気になるよね? 実はね、このアンドロイドに僕の記憶を全て移すつもりなのさ。
僕の全てを君に託したいんだ。
そして僕の代わりに世界を救ってくれないか? えっ?嫌だって!?なんで!? 理由を聞かせてもらえるかしら? ふむふむ。なるほど。確かに一理ありますわね。
しかし、やはり納得できません。
貴方が死ぬ必要なんてありませんもの。
いえ、そもそも私が言い出したことです。
私が死ねば済む話ではありませんか。