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「……阿部ちゃん?舘さん?」
ふと目黒が彼女達の名前を呼ぶ。俺はなんだと思い、視線を下におろした。
… そこには椅子から崩れ落ち蹲る涼太と、さっきまでと間違う切羽詰まった表情をする阿部。俺は考えるより先に足が動いた。
「涼太!!」
「翔太!どうしよう…!舘さんが!!」
今にも泣きそうな阿部の声。微かに聞こえる涼太の唸り声。俺はまた涼太が遠くなるのではないかと怖くなった。
そんな中でも冷静だったのが目黒だ。目黒の一声にはっとする。
「翔太くん!救急車!!」
「ビクッ!!あ、あぁ!! 」
この時の目黒には本当に感謝しかない。
見慣れた病院の窓の外に咲く金木犀。ふわっと風が吹けばその花たちは風に乗り、何処か遠くへと行ってしまう。
…また、涼太の命が遠のいてしまうように…。
「涼太…金木犀、綺麗だよ…」
漆黒で艶のある涼太の髪は俺の自慢。俺が毎日欠かさず手入れをすれば涼太はふにゃっと笑って「ありがとう」と言ってくれる。
今、毎日は手入れ出来ないけど、まだ艶のある涼太の髪はサラサラで撫でる手は止まらない。
「涼太…まだ寝るの?」
誰にも聞こえない小さな声でつぶやく。早く涼太といたい。話したい。色々な感情が混ざる俺の心の中。眠り姫はまだ目を覚さない。
俺はそっと涼太の髪にキスを落とし、病室を後にした。
「翔太…舘さんは…」
「まだ、寝てるよ」
「大丈夫。回復はしてるって」
「そうですか…」
社内のオフィス。朝日が差し込んで本当なら明るいはずなのに、この3人の周りだけはどよんとした空気が広がっている。
阿部は今にも泣きそうで目黒は悔やむような顔を見せる。別に、死んだわけじゃないのに…
「ほら、暗い顔せずに働くぞ」
「…翔太くんは、大丈夫なの?」
「…あのなぁ…お前たちだろ?『涼太が目覚ました時にそんな悲しい顔したら不安にさせる』って言ったの。いつ言われたかは忘れたけど…」
「あ…」
2人は思い出したかのように顔を上げる。俺はやれやれと言わんばかりに2人に言った。
「俺は涼太を信じてる。」
「それに俺言ったし。『置いていったら天国で1回殴らせろ』って」
「…いや、それは怖いよ」
「うんうん…」
「でも、それぐらい本当に心配だし信じてもいる。だから大丈夫なの」
俺は2人に言い聞かせるように、俺自身に言い聞かせるように「大丈夫、大丈夫」と何度も口に出して唱え続けた。
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