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第130話:限界VTuber配信に乱入する巨大な影。ハリウッド女優絶賛のモンスターパニック
ドバイの石油王とスイスの銀行家の「資本の暴力」によって、限界集落の古民家の庭に『ベルサイユ宮殿風庭園』と『大理石の特設ラグジュアリープール』が爆誕した日の午後。
真夏のジリジリとした陽射しを避けるように、俺たちは冷房の効いた居間へと避難していた。
「あー……。緊張するけど、やりますか!」
居間の片隅で、小春ちゃんがパソコンとリングライト、そしてトラッキング用のiPhone miniをセッティングし、気合を入れるように両頬をパンッと叩いた。
今日は、彼女が以前から準備を進めていた『VTuber(バーチャルYouTuber)』としてのテスト配信の日である。
可愛いキツネ耳を生やした2Dアバターを画面に映し出し、彼女の表情や動きをiPhone miniのカメラでトラッキング(追従)して動かすという、現代の高度なデジタル・ロジスティクスだ。
「皆さん、こんこはー! 新人VTuberの小春です! 今日は雑談配信をやっていきたいと思います!」
小春ちゃんがマイクに向かって明るい声で語りかけると、画面の中のキツネ耳アバターも可愛らしくウインクをした。
『小春ちゃんキターーー!!』
『VTuberデビューおめでとう!!』
『アバターの動きめっちゃ滑らかで可愛い!』
【日常チャンネル】の視聴者たちが大挙して押し寄せ、開始数分で同接(同時接続者数)はあっという間に十万人を突破。
コメント欄は温かい祝福の声で溢れ返っていた。
俺はカメラの画角に入らない定位置(ローデスクの前)に座り、パソコンの排熱効率とトラッキングソフトのCPU占有率を冷徹な目でモニタリングしていた。
だが、この『世界一バグった聖域』において、平穏な配信が最後まで続くことなどあり得ないのだ。
ペチャッ……ペチャッ……。
縁側の開け放たれたガラス戸の向こうから、濡れた雑巾を引きずるような、重く湿った足音が近づいてきた。
「えっとですね、今日の配信では、うちのモフモフたちの日常の裏話なんかも……」
小春ちゃんがリスナーに語りかけていた、その背後。
iPhone miniの死角から、ぬぅっと『巨大な黒い山』が顔を出した。
先ほどまで特設ラグジュアリープールで、アヒルを頭に乗せて優雅に入浴していた『体長3メートルの巨大ヒグマ』である。
全身の分厚い毛皮にたっぷりと水を含み、まだ生温かい水滴をポタポタと滴らせながら、ヒグマは興味津々な様子で小春ちゃんの背後に回った。
「グルォォ?(何してんだ?)」
ヒグマが小春ちゃんの肩越しに、iPhone miniのレンズを覗き込んだ、次の瞬間だった。
ピピッ!
「えっ……? きゃあああっ!?」
小春ちゃんの悲鳴と同時に、配信画面に映っていた可愛いキツネ耳の2Dアバターが、信じられない挙動を起こした。
高精度の顔認証トラッキングシステムが、小春ちゃんの顔ではなく、背後に迫った『巨大ヒグマの顔』を誤認識してしまったのだ。
可愛いアニメ美少女の顔が、突如として『ヒグマの骨格』に合わせて縦と横に異常に引き伸ばされ、口が画面の端から端まで裂けたような、とんでもないホラー顔に変貌を遂げた。
『ぎゃあああああああ!?!?』
『アバターの顔がバグった!? 呪い!?』
『放送事故www クリーチャー化してんぞww』
さらに最悪なことに、ヒグマは自分の顔に合わせて動く画面の中のクリーチャー(アバター)に興味を持ったのか、巨大な顔をiPhone miniにさらに近づけた。
ズンッ! とヒグマの鼻先がiPhone miniにぶつかり、端末がデスクからゴトッと転げ落ちる。
トラッキングが外れ、配信画面はVTuberアバターの映像から、『実写カメラ』の映像へと強制的に切り替わった。
そこに映し出されたのは。
「グルルルル……ペロッ」
画面全体を覆い尽くすほどの、巨大な獣の鼻息。
そして、レンズを丸飲みにせんばかりに迫りくる、ザラザラとした巨大なピンク色の『舌』だった。
ジュルンッ! ベチャァァァ……。
「ひっ、ヒグマさん!? ダメ! カメラ舐めないで!!」
小春ちゃんがパニックになって止めるが、時すでに遅し。
ヒグマの強烈な舌なめずりによって、iPhone miniのレンズは一瞬にしてドロドロのよだれと水滴まみれになり、配信画面は『怪物の口内ドキュメンタリー』と化した。
この圧倒的なモンスター視点と、小春ちゃんのリアルな悲鳴。
そして実写で映し出される、リアルすぎる巨大ヒグマの迫力に、配信の同接数は瞬く間に跳ね上がり、一千万人の大台をあっさりと突破した。
『うわああああ!! 食べられるぅぅぅ!!』
『リアル・ジュラシック・パークじゃねぇかww』
『VTuberの配信見てたはずなのに、いつの間にアニマルプラネットになったんだ!?』
『レンズ舐める音のASMR(死の恐怖)』
阿鼻叫喚のチャット欄の上部に、あの見慣れた『VIPバッジ』をつけたアカウントが、信じられない金額のスーパーチャットと共に降臨した。
『(ハリウッド女優シャーロットからの¥1,000,000MeTubeギフト)=”Oh my God! This is the most thrilling monster panic movie of the century! The realistic drool and camera work are genius! Academy Award for Best Visual Effects!“(なんてこと! 今世紀最大のスリリングなモンスターパニック映画よ! リアルなよだれとカメラワークは天才的! アカデミー視覚効果賞ね!)』
「……あのハリウッドの暴君。ついに円建てで百万円も投げ銭しやがったか」
俺は深い溜め息を吐きながら、ローデスクから立ち上がった。
そして、マイクロファイバーのクリーニングクロスを手に、ヒグマの巨大な顔を軽く押し退けてiPhone miniを救出した。
「よし。通信機材の奪還と、レンズのクリアリング(清掃)を完了した。これより、指揮官の補給を再開する」
俺はドロドロになった端末を綺麗に拭き上げると、何事もなかったかのように定位置に戻り、いつものタッパーを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減の『玄米』と、備蓄用の『大豆ミートのスティックジャーキー』である。
俺は一切の表情を崩すことなく、画面の向こうの一千万人のパニックをよそに、大豆ジャーキーをストイックに咀嚼し始めた。
「お、お兄さん……! 初配信がヒグマさんのよだれで放送事故になって、シャーロットさんから百万円も投げられてるのに、なんで無表情で大豆ジャーキーかじれるんですか!?」
小春ちゃんが涙目でツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。戦場において、不測の事態による通信障害は日常茶飯事だ。機材が復旧したのなら、速やかに己の兵站(ロジスティクス)を回復させる。大豆由来の代替肉は、ヒグマのよだれを見た後でもその栄養価を失うことはない」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、綺麗になったiPhone miniの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。新人VTuberの配信に本物の巨大ヒグマが乱入してレンズを舐め回し、パニック映画のようになったと思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『同接一千万人の前で、百万円のスパチャも無視して言い訳開始ww』
『主の限界言い訳タイム・VTuber放送事故編ww』
『さあ、このリアルなよだれをどう論破するww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは本物のヒグマではありません。配信の没入感を高めるために導入した『最新鋭の4Dインタラクティブ・システム』のテスト稼働です。アバターの顔が歪んだのは意図的な演出であり、レンズに付着した粘液は、臨場感を演出するために射出された『水溶性の無害なスクリーン清掃用ジェル』です。ええ、ただの『次世代型VR配信の技術実証実験』が成功しただけですね」
「百万円のスパチャが飛ぶ実証実験があるかあああ!!!」
小春ちゃんが、ヒグマの体を拭くために用意していた『絞りたての巨大なプール用バスタオル』で、俺の後頭部に完璧なスナイプ・ツッコミを見舞った。
「清掃用ジェルってなんですか!! 生臭いクマのよだれでレンズ綺麗になるわけないでしょうが!! どう見てもプール上がりで構ってほしいヒグマさんが、カメラに興味津々で突撃してきただけでしょうが!! 素直に『うちのクマの可愛さはハリウッド級だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの濡れタオルスナイプ炸裂ww』
『4Dインタラクティブ(ただの物理攻撃)』
『清掃用ジェル(リアルな猛獣のよだれ)』
『適応力バグおじさん、ついにヒグマの乱入をVR技術のせいにするww』
『言い訳のスケールが最先端すぎて腹痛いww』
俺の理不尽極まりないIT技術的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの濡れタオルツッコミに、一千万人の視聴者たちは恐怖を忘れ去り、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ふん。あたしより目立つなんて百年早いわよ)』
騒動の元凶であるヒグマは、いつの間にか居間に侵入していたシロに、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――で冷たく見下ろされながら無慈悲な猫パンチを食らい、「クゥン……」と反省したように小さくなって丸まっていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。初配信でこれだけ集客できたのなら、作戦としては大成功だ」
俺は苦笑いしながら、十勝の青空の下、カオスな初配信を終えてぐったりしている小春ちゃんを見つめた。
VIPの圧倒的な資本の暴力と、もふもふたちの規格外のハプニング。
そしてどんな事態にもブレない、元・需品科の『ストイックな大豆ミート』。
限界集落の古民家から発信される新しい日常は、世界一バグっていて、世界一大爆笑を巻き起こしながら、どこまでも突き進んでいくのだった。
ゆうき あきや
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ゆうき あきや
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キュルノ
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コメント
1件
あおいです🌷 今回も最高にカオスで笑い転げました! 小春ちゃんの初VTuber配信にまさか本物のヒグマ乱入とは…アバターがヒグマの顔にトラッキングされてホラー映画みたいになるの、想像しただけで吹き出しました。しかもハリウッド女優が百万円スパチャ投げるって、スケールがバグりすぎてる😂 それでも冷静に「4Dインタラクティブシステム」って言い放つ主人公、もう尊敬しかないです。シロの猫パンチでヒグマが小さくなるラストも可愛くて、この家族のバランス感覚が大好きです!