TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




本作は以前投稿しました読切

「 ス ト ッ ク ホ ル ム 症 候 群 」

から読むことを強くオススメします






















この世の中には、二つの人種がある。

陽キャ ’ と ‘ 陰キャ ’ 。


月と太陽なんかじゃない。

ただ対極で交わらない、影と太陽。




皮肉にも、影から生まれた俺は

太陽のフリして、毎日を過ごしていた。


今まで影のニンゲンって事は、一回もバレたことなんてないし

これからバレるなんて微塵も思わない。




… 否、それは嘘だ。

一厘程度の不安はある。




あんな親のもとで育ってしまったからだろうか。


「 他人の不幸は蜜の味


その言葉が、幼き頃から俺には染み付いていた。


他人が、本気で困っている様子が

他人が、本気で憎んでいる様子が

他人が、本気で泣いて喚く様子が


たまらなく大好きだった。




そんなの可笑しいと思う奴が過半数だろう。

でも、それが俺だ。

俺が患う病の故だ。




ただしかし、ヒトとは常に誰かを攻撃したいモノらしく


『 気持ち悪い 』

『 社会のゴミ 』

『 死んじまえ 』


そんな言葉が、世界には多く蔓延っている。




この世界の方程式。


ニンゲン = human = 不満


ニンゲンと不満がイコールで繋がるとは、よく出来た御伽噺だ。

human をニンゲンと訳した奴は、きっと俺と同じく世界に居場所が無かった奴だろう。

不満だらけのイキモノが、ニンゲンと定義付けられているのだから。




「 くっだらねぇ … 」




欠伸する程退屈で、窮屈。

息すらの仕難いこの世界で、フツウと違う俺が羽を伸ばせる場所なんて

精々、暗くて狭い地下室ぐらいだろう。




居場所の無い俺に遺る2つの選択肢

1.太陽のフリして息辛いきづらく生きる

2.影だとバレて、世界から堕とされる


どちらにせよ、希望なんて見出せない。

最悪の末路しか、俺には遺っていない。




性格はひねくれた。

でもそれに相対するように、顔だけは秀逸。


この顔だけでも、何処かの誰かを救って堕とすのには十分だった。




「 なんでそんな酷い事するの …!? 」


何故?

それが楽しいから




「 好きって言ってくれたじゃん … ッ 」


好き?

感情ってのは移り変わるもんだよ




「 最ッッ低!アンタなんて大っ嫌い! 」


嫌い?

どーぞご勝手に嫌ってくれ




勝手に俺に幻想抱いて

堕ちて壊れて縋って泣いて




「 泣き止んだのなら帰ってくださーい 」




オンナ共の赤い目と、悔しそうな顔。

嗚呼、愉快愉快。




「 くだらねぇ … 笑 」




屑で結構。寧ろ本望だ。




他人の不幸は蜜の味。

常識中の常識。


だってみーんな、自分より幸福な奴が憎いだろ?




自分より幸福な奴は、不幸になっていいって

当然のように考えてるんだろ?




『 … くだらないのは貴方では? 』




だから。

そんな当然の通用しない。


フツウじゃない、御前に。

通りすがりの、見ず知らずの御前に。

















惚れた。
















一目で溺れた。





















俺のモノにしたくなった。












「 へー、御前ツツジっつーんだ 」


「 ええ、まあ。貴方は? 」


「 ンー、俺の名前は企業秘密かな 」




暗くて狭い地下室。

ジトっとした目で俺を見るオンナ。


手入れされた黒髪にキッチリした見た目。俺を捕らえて離さない、眼鏡の奥の漆黒の瞳に、長袖ブラウスから覗く白い肌。

世間一般でいう、美少女。




勿論、知り合いでも顔見知りでもない。

彼女にとっては


誘拐犯と被害者。

この関係は、それ以上でもそれ以下でもない。




「 ツツジはさぁ、高校生?」


「 知らずに連れ去ったんですか? 」




ううん、知ってるよ?

君が自称進学校に通ってる事も、親から育児放棄されてる事も、学校で虐められてる事も。

ぜーんぶ知ってる。

知らないって言うのは、ただの嘘。




「 あーウン、まーね? ツツジ、俺のタイプだったから一目惚れで 」




これは本当。

フツウに成りたかった、フツウじゃない御前に

ソッコー惚れたのは事実。




「 … それは光栄です 」


「 あ、ツツジ今照れたでしょ? 」


「 別に、照れてませんけど 」




ははっ …

本当に、愛くるしいな。


そのムッとした顔が、もっとぐちゃぐちゃに歪めば

アドレナリンの出すぎで死んじゃいそう。




「 キスでもする? 」


「 話聞いてます?ちゃんと文脈を読んでください 」




こんな状況下でも、俺を探るような目つきは変わらない。

フツウなら、恐怖で顔も心も歪むだろうに。




「 貴方 … と呼ぶのは少々呼びずらいですね、

何と呼べばいいのでしょうか … 」


「 呼び方かぁ、確かに重要だよね … 」




もっとも、俺の名前を彼女が呼んでくれるのが一番だけど

誘拐犯という手前、本名は避けた方がいいか


そんなことを吟味してると、昔見た本に載っていた病名が思いついた。




「 … リマ。そう呼んでよ 」


「 リマ、ですか? 」


「 そ。俺にピッタリだからさ 」


「 はぁ … 」




リマ症候群

誘拐犯が被害者に好意を寄せる心理現象の事。


やっぱ俺にピッタリだ。


対する彼女は、呆れと困惑の混ざった顔色。


 俺が欲しいのは、そんな顔じゃない。




「 … つくづく変わった人ですね 」


「 お互い様じゃない?」




冗談と、望んだ顔が見れないという、ほんの少しの当て付けで言ったその言葉。




「 … はい?私は至って普通ですけど? 」




でも微かに、彼女は動揺した。

自分の口角が嫌に上がっていくのがわかった。




「 … じゃあ何で誘拐されてもこんな冷静で居らんの? 何にも叫ばず、抵抗せずに居れんの? 」


「 は、 」




きっと彼女が一番言われたくない言葉は、「 変わった人 」。

フツウに成りたい彼女にとって、地雷と言ってもいいだろう。


予想通り、彼女の眉間に皺が寄り、すぐさま険しい顔になる。




「 … 私をクラスで浮いてる奴ランキング一位の、カワイソウな人間にしないでください 」




咄嗟の言い返しだって、声が震えてる。

彼女の強がりは、俺にとっての栄養剤と同じらしい。


もっと虐めたい。

なんて加虐心さえ生まれてしまった。


だから、




「 えーでも俺知ってるよー?



── ツツジが学校で浮いてるって事 」




息を呑む彼女の、その。

歪んだ顔。歪んだ声。歪んだ心。


亜霧 榴 ’ と言う人間が壊れるサマは、どうにも俺の心を踊らせた。


他人の不幸は蜜の味。

それなら、君の不幸は何の味




「 カワイソウだよね、ツツジも。唯々だぁい好きな先輩に一途なだけだったのに、クラスメイトからハブられてさ?

… しかも、両親からも愛されずに育児放棄されてさ、 」


「 な … んで、其れを …? 」


「 ふふふ、

俺ツツジの事なら何でも解るよ? 」




恐怖か。憎悪か。絶望か。

溺れた人魚のような彼女の顔は、きっと蜜より甘いチョコの味。


どんどん甘くなって、俺を満たして。

どんな蜜より、俺の事を引き寄せて。


もっと。




「 俺ならちゃんと、ツツジを見てさ。沢山たーっくさん愛すと思うよ? 」


「 愛して、くれる …? 」




ほら、もっともっと堕ちて。




「 ねぇ、それ本当 …? アイシテくれるの? 」




もっともっと、甘くなって。




「 うん。君の親より。親友より。一途に思ってたオトコよりも。


今迄ツツジがアイされなかった分、俺がアイシテあげる 」




俺という屑に堕ちる不幸を、吸い取らせて。

チョコレートみたく、融けて、蕩けて、堕ちて逝って。




「 うん、だからツツジ。俺と ──


ううん、季京と。


愛し合お? 」




他人の不幸は蜜の味。


君の不幸は、蜜より甘いチョコレート恋の味




「 … ウン、ちゃんとアイシテよ? 」




虚ろな瞳の君から奪った唇。


誰かの不幸よりも、俺のせいでの君の不幸を眺めていたい。




「 ははっ … 激甘 」




甘ったるしく纏わりついて、離れない。


花 の 蜜 さ え む せ る 香 り で 。

狂 っ た 不 幸 の 病 名 は

シ ャ ー デ ン フ ロ イ デ 症 候 群コ イ ワ ズ ラ イ











ス ト ッ ク ホ ル ム 症 候 群

【 すとっくほるむしょうこうぐん 】

誘拐事件の被害者が、被疑者に好意を寄せる心理現象。症状としては、主に相手に依存感情を持つ事が多い。


リ マ 症 候 群

【 りましょうこうぐん 】

誘拐事件の被疑者が、被害者に好意を寄せる心理現象。症状としては、主に相手を自分に依存させたいという独占感情を持つ事が多い。


シ ャ ー デ ン フ ロ イ デ 症 候 群

【 しゃーでんふろいでしょうこうぐん 】

他者の不幸をひたすらに喜んでしまう心理現象。他人の不幸は蜜の味という言葉も類義に存在する。




吉野 季京よしの ききょう × 亜霧 榴あぎり つつじ

loading

この作品はいかがでしたか?

5,555

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚