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メンバー揃っての打ち合わせ後。
さぁ帰るかという段になって、太智から声を掛けられた。
どうやら話があるらしく、大人しく太智の後ろにくっついて別の会議室へ移動し、促されるままに椅子へ座った途端。
「佐野さん、なんで呼び出されたかわ・か・り・ま・す・か?」
隣に座った太智から、わかりますかのタイミングに合わせて机を叩かれ、思わず吹き出す。
「なにこれ、説教でも始まんの?」
「笑ってる場合とちゃうでほんま。佐野さん、吉田さんとのことでしゅんちゃんとバトってんやろ?」
そうさらりと言われ、一瞬で笑いが引っ込む。
「…なんで、」
「なんでて、何年一緒にいるおもてんの。そんなんお見通しに決まってるやん。」
大袈裟に肩をすくめた太智を前に、そらそうかと脱力する。
そりゃあんな微妙な空気感、こいつが気付かない訳ねぇか。いや、こいつらが、か。
「で、実際どうなん。せんきょーは有利に進んでる?」
「戦況もなにも、俺は別に戦ってるつもりねぇから」
「ほぇ〜、戦わんでも勝てるってコト?えらい余裕ですねぇ」
「ちが、そもそも勝ち負けとかじゃねぇだろ!それはあいつが…仁人が、決めることであって俺がどうこうできるもんじゃ、」
「じゃあちゃんと伝えたん?自分の気持ち、吉田さんにさ」
「それは…」
「ほらぁ!やっぱそうやんなぁ?佐野さんちゃんと言うてへんやんなぁ吉田さんに。それってなんで?」
「なんで、って」
「なんで、ちゃんと言葉にしやんの?」
真っ直ぐに、どストレートにそう聞いてくる太智の目が見れず、視線を逸らしながら口ごもる。
そしたら、太智は呆れたように盛大なため息を吐き出した。
「あのさぁ佐野さん。それさぁ、逃げてるだけとちゃうん」
「…は?」
「逃げてるやん。佐野さんは吉田さんから」
逃げてる。
太智から言われた言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「まぁ、付き合い長いからなぁ〜。それも原因やとは思うけどさ、ヘンなとこで意地はるやん佐野さんって」
「でも、そろそろ素直になる必要あんじゃない?やって、そもそもあかんやん。」
逸らしていた視線を、のろのろと太智に戻す。
「勇斗には、仁人しかあかんのやろ?」
いつもはなかなか見られない、太智の真剣な表情にあてられて、胸がぐっと熱くなる。
「……そう、だよ。」
「ほらぁぁ〜!やったら、」
「でも…」
「んん?」
「…でも、アイツにとってはどうかわからんやん」
そう、分からない。確証がない。
だから、打たれ弱くて臆病な俺は逃げてる。
そんな俺の情けない顔を見て、太智ははぁぁ〜とまた深いため息を吐いた。
「勇斗がそんなんなら、実際ヤバいかもしれやんで」
「ヤバい?」
「おん。しゅんちゃんもたいがい本気やから、アレ。」
舜太の名前を出されて、一気に体温が下がる。
思い出すのは、舜太と一対一で話したあの時の顔。
あいつが本気なんてことは。本気で、仁人を好きなことは俺が痛いくらい分かってる。
「…ええの?そんなくだくだくだくだしてたら、しゅんちゃんからバァーって吉田サンかっさらわれてまうで?」
何も言えずにいる俺を見限ったように、太智は椅子から立ち上がって俺を見下ろす。
「もうええ。オレもう知らんから。そもそもさぁ、オレどっちの味方でもないし。ただ、勇斗がそんなんやったら舜太も仁人も報われへんやん」
「でもとかだってとかいらんって。お前いったいいくつやねんアホらしい」
「いつまでも逃げてやんと、決着付けてこんかい佐野勇斗」
next….