「じゃあ、みんな死んでたのか?」
おっさんを連れてライルの元へと戻った俺は、簡単に報告をした。
「ああ。生きていた城の者におっさんから聞いてもらったけど、誰も見つかっていないって言ってた」
「じゃあ、目的達成か?」
「そうだ。もちろん送り届けるまでが目的だけどな」
お家に帰るまでが遠足だからっ!
「あのー私達は?」
「お前達はここで解放してやる。
だが、俺達の事を誰かに話したら、必ず見つけ出して・・殺す」
「ひぃっ!?」
大剣を一閃して見せると、おっさんは尻もちをつき、他の奴らは首を振って了承を示した。
生き残り達は歩いて帝都に向かわせた。
「じゃあ転移するぞ?」
「おう」
『テレポート』
皇帝達を連れて転移した。行き先は・・・
「確かに預かった」
ここはナターリア城の一室。皇帝以外の皇族をカイザー様に預ける事に決めていた。
「よろしくお願いします。後ほどナターリア王国軍へと援軍に駆けつけますので、ご了承ください」
「わかっておる。ほれ。セーナ達が待っておるであろう?」
「はい。失礼します」
カイザー様に皇族を預け、城で朝まで仮眠させてもらった後、俺達は二人で転移した。
何故なら、聖奈さんと合流するまでは、皇帝は足手纏いだからだ!
他の皇族をカイザー様に預けたのは、エンガード王国が手柄を独占しないようにするためだ。
よくわからんが、聖奈さんが気にしていたから間違いない!
一度リゴルドーへバイクを取りに戻ってから、聖奈さん達と別れたところへと転移した。
「流石にもういないな」
「そりゃそうだろ。早くいこーぜ」
バイクに二人乗りして、皇国方面へと向かった。
向こうが大軍だという事を考えなくとも、この速さなら1時間くらいで追いつくはずだ。
王国軍の予想現在地は、恐らく国境を少し越えたあたりだろう。
ある程度見当をつけていたが、これは外れることになった。
「なぁ…この音…いや声って、開戦してないか?」
1時間も走らせる前に異変を感じ取ったので、急遽バイクを降りた。
一先ずバイクをリゴルドーへ置きに戻り、身軽になってから音のする方へ走って向かう。
キンッキンッガンッドンッ
少し走ると、様々な音や怒声が響き渡る戦場が目に入った。
「何でだ?開戦予定地はまだずっと先だろ?」
「わかんねーよ。とりあえずセーナ達を探そうぜ!」
そうだな……
俺達は帝国兵と思われる奴らを斬り伏せながら、王国軍の中央へと向かっていく。
なんで乱戦なんだ?
時は遡り、聖達が帝都へ向けて出て行った頃。
side聖奈
「前進!」
私達はアンダーソン殿下と行動を共にすることになった。
シュバルツさんは前に聖くんが嫉妬したこともあってか、馬車への同乗はしなかった。
「狭くてすまんな」
私が難しい顔をしていたせいか、殿下が思ってもいなかったことで謝罪してきた。
「いえ。むしろ私どもの所為です。
それよりもいいでしょうか?」
私は気になっていたことを聞いた。
「殿下は第二王子とのことですが、お兄様は?」
そこで殿下は答えづらそうに、しかし全てを話してくれた。
私は軽率な質問を後悔した。
「よい。しかしこの話は聞かなかったことにしてくれ。
私も話すなと言われていたが、恩人のセーナであるから話したのだ」
謝った私に殿下は気にする素振りもなく、許しを与えてくれた。
初めは仲間や店の為に参加したけど、今では殿下を助けたくなっていた。
流石王族だね…まさか魅了魔法じゃないよね?
「次の休憩はありません。野営地までこのまま向かいます」
どうやら進軍は順調の様だね。
殿下に報告に来た騎士は、報告を終えるとすぐに離れて行った。
「すまんが聞いての通りだ」
「いえ、大丈夫です。私達は冒険者ですよ?」
「そうだったな!はっはっは」
見た目は普通の女の子ばかりだもんね。
女性に優しい紳士な殿下はさぞモテるでしょうね。
どこかの誰かに見習わせたいけど…私の揶揄いすぎも悪いから仕方ないかな。
後1時間程で野営地に着くところまできていた時に、異変が起こった。
「敵襲!!」
カンカンカンッ
異常を報せる鐘の音が木霊する。
まさかこんな普通の街道で襲撃?
私が思考の渦に飲み込まれそうになっていたところで、ミランちゃんが声を掛けてくれた。
「セーナさん!まずは状況を確認しませんか?」
「…そうだね。現状は森に挟まれた普通サイズの街道での襲撃だね。
こちらは大軍だけど、向こうの凡その数だけでも知りたいな」
私の言葉にミランちゃんは双眼鏡を手にして、馬車の上へと上がっていった。
こちらは隊列が伸びてしまっている為、横からの攻撃に弱くなっているね。
でも…それでも大軍だよ?
ちょっとちょっかいかけたくらいじゃ行軍の速さは変わらないし、相手は何を狙って……
「もしかして、ここが本命?」
普通の合戦だと、決着がつくまで時間がかかることが多い。
それは偏に大将が一番奥にいるからなんだけど、ここでは簡単に横を突くことが出来る……
少数なら数で勝るこちらの守りが突破される心配はないけど、もし敵が全軍で街道ではなく、森の中を突破してきたとしたら?
「殿下!敵の数が多いようです。いかが致しますか?」
「うむ…セーナどう思う?」
「敵の狙いは殿下です。
しかも奇襲が失敗に終わったのに、まだ攻撃してくるところを見ると…こちらの数の優位はないと考えるべきです」
「それは敵の本隊もすぐそばに?」
「はい。敵軍すべてが森を抜けて、一気呵成の決着を仕掛けてきたのです」
流石の殿下も心の準備をする前に戦闘に突入してしまい、目を丸くしていた。
「こちら方面の敵の数は予想では25万です。
対するこちら側は28万です。
この場所では、数を生かすことは出来ませんが、それは向こうも同じことです。
森の中を歩いて来ている向こうの方が体力的に不利です。
そして、向こうは早期の決着が必要ですが、私達は時間が稼げれば良いのです!
敵軍の最大の目標である殿下を守り切る為に、守りの堅い部隊をここへ召集してください」
木が生い茂っている為、弓兵と槍兵はほぼ無力。
向こうはこれを想定した部隊編成で来ているはずだから、実際の戦力数でも負けてるよね。
ただ、向こうは早期決着を目指していて、私達は時間を稼げばいい。
それも多分そんなに長くないと信じてる。
セイくん急いでね。
時は戻り。
side聖
「どうなっている?」
俺は帝国兵を斬り伏せてから、指揮を取っていたエンガード王国軍の将兵に聞いた。
「わからん!昨日の夕方に奇襲を受けてから、ずっとこの場から動けていない!」
「殿下は!?」
「援軍を送っているが…状況が伝わってこない」
報告を受け取り、ライルの元へと向かう。
「どうだった?」
「結局分からなかった。襲撃は昨日からのようだ」
まずい…こんな狭い戦場で、一方からだけとはいえひっきりなしに攻撃を受けているのだとしたら……
「どうやって行く?」
「わからん…道が人で詰まっているからな…」
多分殆どの部隊長は殿下の援軍に人を出したのだろう。
それにより伸び切った隊列の真ん中に人が殺到して、身動き出来なくなってしまっているんだ。
「じゃあ、する事は一つだな」
「?なんだ?」
「森の中に敵がいるんだろ?じゃあ敵を倒したらお終いじゃねーか」
そんなアホな……いや、それしか無いな。
多分ここまで事態が収まらないという事は、敵も相当数いるはずだ。
敵の本陣か本隊に、どうにかして一撃お見舞い出来たら何とかなるかもな。
「よし。一旦離脱しよう」
「おう。任せるぜ」
結局俺達は街道では前に進めない為、引き返す事にした。
頼むから、無事でいてくれ。
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