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────その夜、村がいつもより賑わいを見せる一方で、イルネスは吼えることになる。彼女は非常に憤慨した様子で、自宅に改装した大きな納屋の前に仁王立ちをして、苛立ちを隠そうともせずヒルデガルドを睨んだ。


というのも、彼女が連れてきた仲間のせいだった。


「ボクはイーリス・ローゼンフェルトだ、よろしく」


「アーネスト・プリスコット。あなたの話は聞いている」


二人も増えた、と気に入らなさそうに。


「儂の家は下宿屋か、ああん? 先に連れてきたコボルト共もそうじゃが、全部で何人おるんじゃ。馬鹿なのか。二階建てにまでして普通なら快適なのに、もういっぱいではないか! 言っておくが寝る毛布も用意しとらんぞ!?」


せっかく人が来るので家具でも持ち込んでおしゃれでも、と考えていたら、突然ヒルデガルドがさらに人数を増やしてきたので、怒り心頭だ。今にも火を吐きそうな雰囲気に、申し訳なさばかりで頭を下げるしかなかった。


「すまない、本当に。行くと言って聞かないもので……」


「ぬしは阿呆か、阿呆なのか? 観光に来てるんじゃないじゃろうが」


「いやまったくその通りだ。言い訳のしようもない」


事情を知るイーリスやアーネストには、わざわざ包み隠す理由もないだろうとイルネスのいる村へ滞在することを伝えると、どうあっても自分たちもついて行くと言い出して聞かず、結局、その押しの強さに負けて、ヒルデガルドは二人を連れてくるしかなかった。怒られるだろうな、とは思っていた。


「ねえ、ヒルデガルド。ボクらはどこで寝ればいい?」


「儂の家じゃろうが、なんでヒルデガルドに聞くんじゃ!」


「あっ、ごめん。枕は持ってきたからどこでも寝れるよ」


「なんじゃ、この厚かましさは……」


村の人間は好きでも、他の連中は殲滅して良いのではないだろうか、と不意に思ってしまうほどの腹立たしさも、同居人のことを想えば抑えられた。もうあきらめるしかない、とがっくり肩を落とす。


「二階に寝室がある。儂とアッシュはベッドで寝るが、ぬしらは床で寝ろ。他に毛布が余ってないか、ちょっとミモネに聞いてくるから待っておれ、馬鹿共」


「私もいっしょに行こう。挨拶をしておかないと」


イーリスたちを残すのに一抹の不安を残しつつ、イルネスが暮らしていたぼろ家の中でゆっくり過ごしているミモネに会いにいく。


窓の外からちらと見えた女性は、真っ青に染めた髪を姿見の前で弄りながら、コーヒーを片手にリラックス中だ。扉が開く音で、彼女はパッと手を離して振り返り、入ってきたイルネスに優しく微笑む。


「開けるときはノック。約束でしょ、イルネス」


「あ、すまぬ。ちょっと友達が挨拶したいと言っての」


後から入ってきたヒルデガルドの姿を見て、ミモネはぎょっとする。


「初めまして、ミモネ。私はヒルデガルド・イェンネマン。……と、自己紹介をしてみたが、君のほうは私のことを知っていそうだな」


「も、もちろんです。大賢者様を知らない人なんかいません!」


一歩前に出て、感激に目を潤ませた。わざわざ挨拶に来たイルネスの友人というのが大賢者であることに、彼女は驚きを隠せないまま握手を求めた。


「まさかイルネスの言っていた友達が、大賢者様のことだったなんて。すみません、なんのおもてなしも用意してなくて……でも、どうしてここへ?」


急に、ミモネは不安になった。イルネスは魔物で、ましてやかつては大賢者ヒルデガルドとの激しい闘争の末に敗れている。よもや彼女を匿っていたことについて問いただされるのではないだろうか、と穏やかにはいられない。


「イルネスから事情は聞いている。君の優しさには頭があがらない。……と、そのついでに、予定になかった私の友人が二人ほど増えてしまって。毛布か、大きいタオルでもいい。寝るのに必要なんだ、余っていたら借りたいのだが」


ああ、と部屋の奥に積んであった毛布を取りに行く。二枚と言わず余分に持っていかせようとして、両手いっぱいに抱えた。


「どうぞ、大賢者様。ここにあるものはなんでも」


「いや、二枚だけでいいんだが……まあ、ありがとう」


「いえいえ。ところでもうお食事は済ませましたか?」


「先ほど着いたばかりでね。村で食事ができるところはあるか」


ミモネは申し訳なさそうに首を横に振る。


「観光地というわけでもないので、そういった場所はないんです。首都や近隣の町に農業を営んでいるばかりでして。でも、食事なら腕に自信がありますよ!」


服の袖をまくって、自信たっぷりに言う。ヒルデガルドは「だったら」と、イルネスに視線を送った。無理をさせるつもりはないが、甘えられるところは甘えたいと思ったのだ。彼女も同意見だと頷いて「みなで食べようぞ」と笑顔を咲かせた。


「では、私も何か手伝わせてくれないか? 泊めてくれる礼だ、料理なら多少の心得はある。……芋の皮を剥く程度だが」


「十分です。では、こちらへ。シチューでも作りましょう」


三人がキッチンへ立とうとすると、家の扉がノックされる。そっと扉を開けて顔を覗かせたのは、イーリスだった。


「どうした、イーリス。何かあったのか」


「ううん、ボクも挨拶がしたくて」


少し照れくさそうに入ってきた彼女は、ローブを脱いで丸めて両手に抱えながら、ミモネに深々と頭を下げた。


「ヒルデガルドの弟子をさせてもらっている、イーリス・ローゼンフェルトです。よろしくお願いします」


「あら、可愛い子ね。私はミモネよ。よろしくね、イーリスさん」

大賢者ヒルデガルドの気侭な革命譚

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