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穏やかな陽光が降り注ぐ午後の街角。しのぶは、ふっくらと大きく膨らんだお腹をいたわるように、ゆったりとした羽織を纏っていました。その隣には、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩を進める童磨の姿があります。
二人の手は、指と指を深く絡ませた「恋人繋ぎ」で固く結ばれていました。
「しのぶちゃん、足元に気をつけて。あそこの段差、僕が支えるからね」
童磨は、まるでもろい硝子細工を扱うような手つきで、しのぶの腰に手を添えます。かつての教祖としての威圧感は消え失せ、今の彼は、愛する妻とお腹の子に全神経を注ぐ、一人の献身的な夫そのものでした。
「……ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はこれでも元剣士ですから」
しのぶは困ったように笑いながらも、繋いだ手に力を込め、彼の大きな掌から伝わる確かな熱を確かめました。
産婦人科の待合室では、童磨は片時もしのぶの側を離れようとしません。検診の間も、エコーに映る小さな命の影を見ては「見て、しのぶちゃん! 動いたよ! 僕に似て元気な子だね」と、子供のように瞳を輝かせて感動していました。その真っ直ぐな喜びに、しのぶも自然と目尻を下げ、幸せな涙を浮かべるのでした。
検診の後は、生まれてくる赤ちゃんのベビー服を選ぶための買い物です。
「ねえ、この小さな靴下を見て。君の足よりずっと小さいよ。……可愛いなあ、早くこの子に履かせてあげたいね」
「そうですね。でも、そんなにたくさん買ったら、お部屋に入りきらなくなってしまいますよ」
童磨は次から次へと可愛らしい服を手に取っては、しのぶに当てて楽しそうに笑っています。街ゆく人々は、そんな仲睦まじい二人を「素敵なご夫婦ね」と微笑ましく見守っていました。
帰り道、荷物をすべて両手に提げた童磨は、それでも空いた小指をしのぶの指に絡ませて歩きました。
「しのぶちゃん、今日は楽しかったね。君とこうして普通に街を歩けるなんて、なんだか夢みたいだ」
「夢ではありませんよ。……ほら、こうして手を繋いでいる感触も、お腹の中でこの子が動く重みも、全部本物です」
しのぶは彼の腕に頭を預け、夕暮れに染まる街路樹を眺めました。
かつては決して交わることのなかった二つの道が、今、一本の幸福な家族の道として繋がっている。繋いだ手から伝わる温もりは、どんな言葉よりも深く、二人のこれからの未来を約束しているようでした。
「帰ったら、また美味しい夕飯を作るからね。……あと、夜はまた、ゆっくり僕に甘えてくれるかな?」
童磨の甘い囁きに、しのぶは顔を赤らめながらも、幸せそうに「はい」と頷くのでした。
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