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#オフィスラブ
ゆうクロ。
724
#イラスト部屋
ゆるまくさん
208
寝台の上で、じっと耐える。
目の前の職員――龍清さんは、何も知らない顔で書類をめくっている。
胸板。腕。首筋。
視線を逸らそうとしても、獣としての勘が許してくれない。全身の毛が逆立つほど、彼を欲している。
身体の奥に熱が溜まり、喉の奥から低い唸りが漏れそうになる。
「どうした? 具合でも悪い?」
龍清さんが顔を上げた。
まずい。
そう思った時には、もう遅かった。
彼が近づき、心配そうに俺の額へ手を伸ばす。
ひんやりした指先が、火照った皮膚に触れた。
その瞬間だった。
張り詰めていたものが、弾けた。
俺は反射的にその腕を掴み、そのまま寝台へ引き倒した。
「あっ……! ちょっと、おい!」
龍清さんの身体へ覆いかぶさる。
「……すまない」
謝罪は出た。
だが、身体は退かなかった。
「我慢していたんだ。だが……お前が、あまりに近くへ来るから」
「いや、それ俺のせいにするなよ」
即座に返された。
低い声だった。
怒鳴ってはいない。だが、はっきりと俺を止める声だった。
龍清さんは一瞬だけ目を見開いていたものの、すぐに落ち着きを取り戻していた。
俺の腕に、自分の手を重ねる。
「あんたがそういう状態になるのは知ってる。ここ最近、発情期が近いって栖梧さんからも聞いてた」
「……ああ」
「だからって、俺に何してもいいわけじゃない」
その一言が、熱に霞んでいた頭へ落ちた。
龍清さんは俺の肩をゆっくり押す。
力なら、俺の方がずっと強い。
それなのに、その手には逆らえなかった。
「俺のこと、信用してるんだろ?」
「……している」
「なら離れろ。まず、それができるところ見せてくれ」
俺は喉の奥で唸った。
身体が嫌がっている。
もっと近づけと、本能が喚いている。
けれど。
俺は腕に力を入れ、ゆっくりと身体を起こした。
龍清さんとの間に、わずかな隙間ができる。
「そう。それでいい」
彼の声が少し柔らかくなった。
「深呼吸。ゆっくりな」
言われるまま息を吸う。
吐く。
また吸う。
龍清さんの匂いはまだ近い。
それでも、さっきまで何も考えられなかった頭に、少しずつ言葉が戻ってくる。
「……すまない」
「うん」
「怖かったか」
聞くと、龍清さんは少しだけ考えた。
「まあ、びっくりはした」
そして俺を見る。
「でも、あんたが止まれる奴だってことも知ってる」
その言葉の方が、よほど効いた。
胸の奥が痛くなる。
誠実な男だ。
こんな状態の俺にまで、まだ信用を残してくれている。
「……龍清」
名前を呼ぶ。
「ん?」
目の前にある首筋へ、どうしても視線が落ちた。
白い皮膚。
その下で動く脈。
また喉が鳴る。
「触れたい」
龍清さんの目が、少しだけ細くなった。
「どこに」
「首に」
「……噛むなよ」
「噛まない」
「舐めるのも、一回だけ」
思わず顔を上げた。
「いいのか」
「今度はちゃんと聞いただろ」
口元に、少しだけ笑みが浮かんでいる。
俺はゆっくりと顔を寄せた。
先ほどのように奪うのではなく、龍清さんが逃げられるだけの間を残して。
首筋へ唇を触れさせる。
「……っ」
彼の身体が小さく震えた。
舌先でほんのわずかに触れると、脈が速くなる。
獣の感覚は、そんな些細な変化まで拾ってしまう。
思わずもう一度追いかけそうになったところで、
「一回」
龍清さんが言った。
俺は止まった。
「……そうだった」
「危ないなぁ、熊さん」
呆れた声。
けれど、少し掠れている。
俺は首筋から離れ、彼を見る。
龍清さんは頬をわずかに赤くしていた。
「お前も、平気ではないんだな」
「そりゃあな」
彼は額を押さえた。
「こんなでかい男に真顔で『触れたい』とか言われて、何も感じないほど枯れてない」
その言葉に、また腹の底が熱くなる。
「龍清」
「だからって戻ってくるな」
額を手のひらで押し返された。
「今は職員と利用者。そこは変えない」
「……卒業したら?」
思わず聞いた。
龍清さんが黙った。
俺も黙った。
数秒後。
彼は盛大にため息をついた。
「そう来るかぁ……」
「答えてくれ」
「今その顔で迫るな。卑怯だぞ」
「本気だ」
「分かってるから困ってんの」
龍清さんはしばらく天井を見上げていた。
職員として何を言うべきか。
一人の男として、何を言いたいのか。
その二つを頭の中で必死に分けているようだった。
やがて、ぽん、と自分の膝を叩く。
「よし」
「うん」
「卒業までちゃんと我慢できたら、その時は俺も逃げない」
俺は瞬いた。
「……それは」
「付き合うかどうか、ちゃんと二人で話すってこと」
龍清さんは俺をまっすぐ見た。
「職員と利用者じゃなくなってからな」
「本当か」
「本当」
発情の熱とは違うものが、胸の奥へ一気に広がった。
「証拠が欲しい」
「なんでそうなるんだよ」
「言っただろう。忘れられたくない」
「誓約書でも書けって?」
「そこまでは言わない」
少し考えてから、俺は小指を差し出した。
「指切り」
龍清さんが目を丸くする。
「……あんた、見た目に反して妙に古風だな」
「昔の人間はこういう時、指切りげんまんをするんだろう」
「誰に教わったんだ、それ」
「知っている」
「絶対どっかで変な知識仕入れただろ」
笑いながらも、龍清さんは小指を出した。
俺の小指と絡む。
たったそれだけの接触なのに、先ほど首へ触れた時より、ずっと胸が騒いだ。
「約束な」
「ああ」
「卒業までは、職員と利用者」
「ああ」
「無理矢理触らない」
「……ああ」
「今、ちょっと間があったな?」
「努力する」
「そこは即答しろよ」
龍清さんが笑った。
俺も少しだけ笑う。
だが、絡めた指を離す前に、一つだけ欲が出た。
「龍清」
「今度は何だ」
「もう一つ、頼みがある」
「内容による」
俺は彼の首筋を見る。
龍清さんも視線の意味に気づいたらしい。
「……まさか」
「印を付けたい」
「おい」
「一度だけ」
「明日、俺仕事なんだけど」
「見えないところなら」
「妙に冷静になった途端、交渉が上手くなってないか?」
龍清さんは呆れたように言った。
それでも、しばらく考えてから首元を少し指で押さえた。
「……ここより下。服で隠れるところ」
俺は息を呑んだ。
「いいのか」
「聞いたから答えてる」
その言葉を確認してから、俺はゆっくり顔を寄せた。
首の付け根。
服に隠れる位置へ唇を置く。
今度は勝手に奪わない。
龍清さんが退かないことを確かめてから、少し強く吸った。
「っ……!」
彼の息が詰まる。
唇を離すと、肌に赤い痕が残っていた。
龍清さんはそこへ手を当て、呆れ半分の顔で俺を見る。
「本当に付けやがった」
「約束の証だ」
「指切りしただろ」
「そっちは俺に残らない」
「欲張りな熊だなぁ……」
そう言いながら、龍清さんは笑っていた。
俺はその笑みに安心して、ようやく完全に身体を離した。
「卒業まで、あと半年か」
「ああ」
「長いな」
「ちゃんと過ごせ」
龍清さんは、今度こそ職員の顔に戻って言った。
「半年後、今と同じ気持ちなら。その時はちゃんと聞かせてくれ」
「変わらない」
「半年後に言え」
「分かった」
俺は頷いた。
身体の奥の熱は、まだ消えていない。
けれど今は、それよりずっと強く残っているものがある。
半年。
長い。
だが、待てる。
龍清さんがくれた約束なら。
俺はもう一度、服の下へ隠れた赤い印を見る。
「……消えたら、また付けたい」
「卒業してからな」
「分かった」
「素直になったな」
「約束したからな」
龍清さんは一瞬きょとんとして、それから声を立てて笑った。
「ほんと、物騒なくせに律儀な熊だよ。あんたは」
その笑顔を見ながら思った。
半年後。
今度は、本能に押されてではなく。
俺自身の意思で、この男を欲しいと言おう。
コメント
1件
え、待って、めちゃくちゃ良かったんですけど!?😳💕 発情期の獣人×職員さんって時点で既に最高なのに、本能に負けそうになりながらも「触れたい」ってちゃんと聞いてから行動する律儀さが尊すぎる…!指切りであっさり受け入れる龍清さんの懐の深さにもグッときました。半年後の二人が楽しみすぎる…!👏✨