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「カリスマ」とは民衆をひきつけ心酔させる力のこと。またはそうした力を持つ人のこと。
俺はなぜかずっといじめられてきた。声がキモい、とか言われて。そんなこと言われても、俺にはどうしょうもないじゃないか。先生も俺の味方にはなってくれなかった。面には出さないけれど、たぶん俺のことが嫌いなんだ。なんだったら、両親すらそうなんだと思う。
ただ、いじめられると言っても、殴ったり蹴られたりするわけじゃないし、物を隠したりされるわけでもない。ただ、避けられるんだ。俺と関わるのが嫌みたいだ。なんで、って理由を聞いたとき、言われたのがさっきの「声がキモい」ってやつだ。
小学校が終わるとすぐ、俺は裏山に向かった。「声がキモい」って言われてから、俺はずっと学校では黙っている。でも、そうしているとイライラしてくる。だから放課後、ここで大声を出すようにしている。誰もいないから、どれだけ叫んでも誰にも迷惑はかからない。それにここなら誰に聞かれることもないし、ストレスを発散するのにちょうどいい場所だと思ったからだ。
今日もいつものように裏山に入り、大きな声で叫んだりしてストレスを解消していた。すると突然、背後から誰かが声をかけてきた。
「君、素晴らしい声を持っているね」
驚いて振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。年齢は……五十代後半くらいだろうか? 白衣を着ていて、髪はボサボサ。いかにも不潔そうだ。こんな奴、見たことないぞ。誰だろう?
「おっと、驚かせてしまったかな? 私は音声の研究者なんだが、君に研究を手伝ってもらいたいんだ」
研究者……? 怪しい男だなぁ。絶対関わっちゃいけないタイプの人間だと思うんだけど……。
「あの……」
「まあ、とりあえず私の研究所まで来てくれ」
そう言うと男は歩き出した。ついて行くべきかどうか迷ったけど、仕方なくついていくことにした。いつもなら黙っているところだが、このおっさんは俺の声に興味があるらしい。だから、思い切って話しかけてみた。
「あの……、あなたは何の研究をしているんですか?」
「ああ、私の専門は催眠術だ。長年の研究の結果、あと一歩で100%成功する催眠術が完成しそうなんだ! だけど、その一歩がなかなか……。けれど、君の協力があれば、きっとうまくいく」
「俺の……?」
しばらく歩くと小さな小屋が見えてきて、その中へと入っていった。中にはパソコンやよくわからない機械なんかが置かれていて、確かに研究室のような雰囲気があった。
「そこに座って待っていてくれ」
言われるままに椅子に座る。しばらくしてそのおっさんは、何台かのスマホを持ってきた。
「私の研究はね、機械で声を増幅させ、完璧な催眠術を作ることなんだ。だけど、研究の結果、どんな声でもいいわけじゃないことがわかった。完璧になるのは、特殊な声の持ち主の場合だけだったんだ。だが、その声の持ち主を今まで見つけることが出来なかった。ところがさっき、君の声が私の測定機に反応したんだよ! 君こそが、私の探していた声の持ち主だったんだ!」
そんなこと、急に言われても信じられない。
「俺、ずっと声のことで嫌われてたんですよ? そんなやつの声が……」
「なるほど、それはきっと、君の声の魔力に、みんな無意識のうちに怯えていたんだよ」
「そんなことが……」
「まあ、論より証拠、実験をしてみよう。私の作った機械が、これらのスマホに入れてある。君がこのスマホを通して話しかければ、催眠術がかかる。ただし、いくつか条件がある。まず、相手に話しかけられているのは自分だ、思わせる必要がある。だから、催眠術にかかるのは基本的に一人だ。上手くすれば複数人にもかかるかもしれないがね。まあそのおかげで、自分の声を聴いても自分が催眠術にかかる心配はない。それから、君がはい、終わり、といえば催眠術はとける。君がとかないといつまで続くか、それはこれから実験してみないとわからないな。というわけで、さっそく実験をやってみよう」
そういうとその男は隣りの部屋に俺を案内した。そこは大きな窓があり、そこから別の部屋が覗けるようになっていた。のぞいてみると、中には女の人が椅子に座っている。
「彼女はね、これまでどんな催眠術師でも催眠術にかけられなかった女性だ。そういのにかかりにくいのだろう。彼女に催眠術をかけられれば、実験は成功といっていい。さあ、そのスマホに登録してある番号の、実験用1に電話して、試してくれ」
そのスマホには他にもいくつか番号が登録してあった。きっと予備だろう。俺は一番上の番号をタップし、耳に当ててみる。
『もしもーし』
受話器の向こうから声が聞こえてきた。隣りの部屋では女性が電話に出ている。これが彼女の声だろう。ええっと、自分のことだと思わせる、まあこの場合電話がかかっているからなんでもいいんだろう。
「ええっと……椅子に座っているお姉さん」
『はい?』
これでもう催眠術にかかっているのだろうか?
「今から俺の言葉通りに動いてください」
そう言ってから、俺は次の言葉を紡ぐ。
「あなたはだんだん眠くなってきます。そして寝てしまいました。目を覚ましてもまだあなたの意識は夢の中のままです。いいですか? はい、といいなさい」
「はい」
そういうと彼女は滑り落ちるように倒れた。その倒れ方はとても演技とは思えなかった。
「おお、やったぞ! すごいじゃないか! これは大成功だ! ありがとう! ああ、ちなみに隣りの床はマットのように柔らかいから、彼女は怪我はしていないはずだ。こういうことも想定してね」
「本当に成功なんですか……?」
「ああ、間違いないよ。ああ、でも一応隣りの部屋にいって彼女が本当に寝ているか確かめてくるよ。いかんいかん、私としたことが興奮して、確認をおろそかにするなんて……」
そういいながら男は隣りの部屋に向っていった。そのとき、俺はふと思いついてしまった。彼女はすぐに寝てしまった。スマホはつながったままだ。ということは……。
「もしもし、博士」
『あっ、君はなんということを!』
「このスマホ、2つ俺にください。そして自由に使わせてください」
『ああ、もちろんだとも! 自由に使うといい』
やった! 思った通りだ! だけど、この催眠術でどこまでのことが出来るんだろう?
「博士、答えてください。この催眠術はどこまでのことができるんですか?」
『ううむ、そいつは実験してみないと分らない部分もあるが、理論上は普通の催眠術では出来ないようなことも出来るはずだ』
そうか、じゃあいろいろと試してみないとな。
「もしもし、椅子に座っていたお姉さん」
『はい』
彼女はさっきまで眠っていたことが嘘のようにはっきりと返事した。寝ていても声が聞こえていれば反応するってことか。よし、次はもっと面白いことをしよう!
「あなたは俺の命令に逆らえません。はい、と答えなさい」
『はい』
「あなたは段々服を脱ぎたくなります。脱いだら、あなたは裸になります」
すると、彼女は自分の意思とは無関係に、上着に手をかけ、それを脱いでいった。そしてすぐに全裸になってしまった。
「おおっ、すげぇ!」
彼女は命令されるがままに体を動かしている。まるでロボットみたいだ! どうやら服を脱がすくらいは簡単みたいだ。これなら……。いや、楽しむのは後だ。今は、ここから離れないと。でも、今催眠術を解くと、博士にかけた催眠術もとけてしまう。だから、彼女にはスマホを持ったままここから離れてもらうことにしよう。俺は予備のスマホを持って行けばいいし。
「もしもし、椅子に座っていたお姉さん」
『はい』
「あなたはそのままスマホをもって、ここから逃げてください」
『はい』
そういうと、彼女はスマホをもって裸のまま部屋から出て行った。そうか、「そのまま」といったから、そのかっこうのまま出ていったのか。使い方を気を付けないとな。まあ、服を取りに戻って来させるのは面倒だし、そのままでいいか。
俺は予備のスマホを手に取ると、小屋を後にした。そしてしばらくしてから、
「もしもし、椅子に座っていたお姉さん」
『はい』
「はい、終わり」
といった後すかさず、
「もしもし!」
『は、はい?』
「僕のことは忘れてください。今日小屋であったことも」
『はい』
これでよしっと。それにしても面白いものを手に入れたぞ! これを使って何をしよう? まず、どこまでのことが出来るのか、いろいろ試してみないとなぁ。(続く)