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ジーク「……。」
ハベイ。恒陽の国に所属する者。体が弱く病状の重い妹、メイアの為に、王城の兵士として志願。結果、見事採用。恒陽の国にはない医療技術、つまるところセヌス国の医者を遠いところでありながら大金を叩いて呼ぶ。結果、見事に完治。伝手は国際商会。フワラフィ大陸支部。この大陸。物心ついた時に父親はおらず。母であるミヘイに育てられる。その後、心中に失敗。子供二人を置いてミヘイは先立つ。
ジーク「別にメイアちゃんに酷いことはしないから安心しな。」
剥ぎ取った鎧を纏い、ジークは一言小さく呟く。
ジーク「さっ、本物は隠したし…」
性格は問題ない。癖も問題ない。ただ1つ懸念点があるとすれば、声だ。ただし、
ジーク「…伊達に修羅場くぐってないんでね。」
右手でハベイの喉を触る。左手で、小さな機械のダイヤルを回し、ボタンを押す。
ジーク「…相変わらずこの不快感…どうにかならねぇのか…。お。」
不快感を感じながらも、ジークは自身の声の違和感に気づく。ジークの喉からはハベイの声が出ていた。
ジーク「まさか逃げる以外に使う日が来るとは…行きますか。」
金属音を鳴らし、ジークは歩いていく。
ジーク「…?」
目の端にちらりと黒い人影のようなものが見える。
ジーク(銀じゃなくて…黒…?)
他の兵士であれば納得はいく。しかし、この鎧は銀色だ。
ジーク(不確定要素は消すに限る…。ついでに他の奴らの信用も勝ち取れるしな。)
巡回兵「お疲れー、あっちの巡回終わったか?」
ジーク「お疲れー。」
巡回兵「お前いっつも頭の鎧被ってるよな。暑くねぇの?俺は絶対無理。」
ジーク「真面目さが俺の唯一の取り柄なんでね。んなことより巡回してた時の話なんだけど…」
巡回兵「ん?」
ジーク「今日って誰か客人来てたか?ゲティア。」
ゲティアと呼ばれた兵士は答える。
ゲティア「いーや。聞いてないな。なんかおかしい事でもあったか?」
ジーク「なーんかさっき、一瞬、いや本当に一瞬だけ黒い人影が見えて…」
ゲティア「黒い人影…」
ジーク「すぐ見失っちまってな…」
ゲティア「闇雲に探しても見つからないだろうしな。分かった、気にかけておく。他の奴らにも巡回ついでに伝えとくよ。ハベイはもう、宝物庫近くの巡回の時間だろ?そっちの方に居るやつに伝えてくれ。」
ジーク「もちろ…うぇげっほ!」
ジークは返事をしようとして、思い切り咳き込む。
ゲティア「おいおい…大丈夫か?」
ジーク「大丈夫だ、少しむせただけだ。」
ゲティア「気をつけろよ。」
ジーク(やっぱりあの変声調節機、不快感が凄いな…。あまり喋りたくは無い…。早めにやることを済まさないと。)
ゲティアと別れた後、ジークは宝物庫に向かう。
ジーク(兵士の巡回ルートはコフリーから教えてもらったけど…まさか交代直前の時間だったとは。こりゃ運がいい。)
ジーク「…ん”ん”ッッ。あー…。」
(まぁ使いたくはなかったけど…。しかし…あの人影…騒ぎに乗じて入ってきた不審者…?でも、なんの対策もなしに入れば速攻捕まるはずなのに…。いや、王城に忍び込んだんだ。何かしら対策はしてるはず…目的は…王族の暗殺?)
ジーク「まさかな。」
考え込みながら、ジークは歩いてゆく。
巡回兵「おいおい、どこ行くんだ。お前の持ち場はここだろ?」
ジーク「ぐえっ。」
巡回兵の1人に首根っこを捕まれ、ジークは動きを止められる。
ジーク「あれ?俺もう着いてた?」
巡回兵「おうよ、そのまま角をぐるーっと曲がろうとしてくから焦ったわ。」
ジーク「悪ぃ悪ぃ。」
巡回兵「んで?妹のことか?」
ジーク「もちろんメイアのことはいつだって思ってるぞ?それとこれとは別だ。不審人物を見かけてな。」
巡回兵「まじかよ!?それやべえじゃん!」
高い声の兵士「見つけたのに、どうして放ったらかしたのかしら。情けない。」
宝物庫を見張っていた兵士と会話をしていると、一際と声の高い声が後ろから飛ぶ。
ジーク(…ウェシア。)
ジーク「ウェシア、そう幻滅しないでくれよ〜。俺はちゃあんと追いかけたんだぜ?でも、すぐ見失っちまって…」
ウェシアと呼ばれた兵士はただ一言。
ウェシア「情けない。」
ジーク「容赦ない!」
(ウェシアは…ハベイの想い人。妹のこともあり、直接口にだすことはない。ただし、態度は明らか。本人的には隠してるつもりなんだろうけど。)
ジーク「ま、それは本当に悪いって思ってるよ。でも交代の時間も近いしな。」
ウェシア「それじゃ、私達は行くから。ツアィ。」
ツアィと呼ばれた兵士は慌てて、ウェシアと並ぶ。
ツアィ「それじゃ、後はよろしく〜。」
ジーク「もちのろんよ。」
ツアィとウェシアが離れていくのをジークは見届ける。
ジーク(さて…目的地にはたどり着いたが…しばらくは本当に見張っているか。ウェシアに警戒されている気がする…戻ってこないとも限らない…。…2人とももう少しだけ、頑張って耐えてくれ。)
隊長らしき兵士「止まれと言っているだろう!」
アリィ「だあああああ!!しつこい!!」
アマラ「誰が止まるかよ!それにおっさんしつこい男は女に嫌われるぜ!」
隊長らしき兵士「はっ!兵士になった時にもう色恋沙汰は捨てたさ!」
2対1。
人数はこちらの方が優勢。ただし、メシュエネ。
ほとんどの兵士はメクチカの花で眠らせた。
数少ない残りの兵士も、瓦礫を利用し気絶や分断に成功済。ただ1人を除いて。
アマラ「アイツ、まずいぞ…。昂ってやがる。」
隊長らしき兵士「どうした?こんなものか!」
アリィ「ちっ…!」
アリィは小さく舌打ちをして、その体には大きすぎる斬撃を避け切る。
アリィ「つまり!?」
アマラ「本来兵士としては、殺さず捕まえるのが道理だ。色々聞くことがあるからな。でもアイツは今手加減無しだ。…ただの無差別な殺し合いになってやがる!1度ああなったメシュエネは止まらない!止め方も知らない!」
アリィ「アマラ、落ち着いて。不安なのは分かるけれど、まだ死ぬって決まったわけじゃない。」
アマラ「自分が死ぬのは別に不安なんかじゃない!!ずっと前に尽きるはずだった命だ!アタシが不安なのは民間人だ!!」
アマラの不安な心情が、雪崩のように吐露される。
アリィ(この状況で大声を出したところで、どうにもならない。むしろ逃げる体力が減るだけなのは、アマラも分かってるはず。…どんなものを抱えていたとしても。ならこれは)
アリィの思考を遮るように、アマラは斧を持ち構える。
アリィ(やっぱりあの人の昂りに当てられてる…!)
アリィ「もうっ…!雇用主なんだからしっかりして!!」
そう言い、アリィはアマラの頬をビンタする。
アマラ「いっっっ…たぁ!おまっ…力強っ!?」
アリィ「そんなことはどうでもいいでしょ!あなたの力の使い道はここじゃない!」
アマラはハッとした顔をする。
アマラ「…悪い。もう正気に戻った。この戦い好きな性分だけは血を呪いたくなるよ。でも、民間人に被害が及ぶのは別に嘘じゃないし、時間の問題だ。」
アリィ「…でもその人自身の性質が消える訳ではないみたいだね。どうせ、貴方には聞こえてるでしょ?そんな剣をぶんぶん振り回して、まるで芸がない。これでも、私達は民間人が被害に遭わないように努めてるんだよ?それが…困るなあ。貴方のせいで、何人の怪我人が生まれると思ってるの?」
アマラ「…そうだな。それは否定しない。なんの武器も持たないヒトに一方的な攻撃など、どんな理由があったとして許されない。砂漠の民の恥だ。」
隊長らしき兵士「言ってくれるじゃあないか!」
アリィ(挑発自体は成功した。)
アリィ「しばらくこれでヘイトが向くのは私達だけだと思う。次は…」
アマラ「使いたくなかった駒だが…今からコフリーのところに行く。」
アリィ「逃げるってこと?」
アマラ「確かに逃げた方がいいのは間違いないが、まだ方法がある。ただ、一か八かになる。どうだ?アタシの勘を信じてくれるか?雇用関係じゃなくて、直感で言ってくれ。」
そう言うアマラの顔はどこか不安なままで。
アリィ(でも…私はアマラがこんな時に冗談を言うヒトじゃないって、この数日間で理解した。)
アリィ「アマラの勘にかけてみようと思うよ。」