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石の回廊が揺れている。
揺れているのは空間そのもの。
壁がわずかに歪む。
直線が直線でなくなる。
レンは足を止めない。
ただ前を見る。
🖤…間に合え
低く、呟く。
息が荒い。
鼓動が速い。
理由は分かっている。
これは、ダイスケだ。
後ろから足音。
一定のリズム。
迷いのない歩幅のリョウヘイ。
💚走っても無駄だ
静かな声。
レンは振り返らない。
🖤黙れ
短く返す。
🖤無駄かどうかは俺が決める
一瞬の沈黙。
だが、リョウヘイは否定しない。
ただ続ける。
💚…状況は最悪だ
事実だけを言う。
💚ダイスケが制御を失っている
レンの拳が強く握られる。
🖤分かってる
吐き出すように。
🖤だから行くんだろ
リョウヘイの視線がわずかに細くなる。
💚救うためか
レンは即答する。
🖤当たり前だろ
迷いがないそれを聞いて、リョウヘイは一瞬だけ目を伏せる。
💚(変わらないな)
心の奥で、何かが揺れる。
でも、すぐに想いを消す。
🖤…ダイスケ
名前が漏れる。
その声に感情が滲む。
リョウヘイも足を止める。
顔をしかめる。
💚これは…
理解している。
だが、言葉にしない。
したくない。
🖤行くぞ
レンが先に動く。
迷いなく走る。
リョウヘイも続く。
その背を見ながら小さく呟く。
💚…お前は強いな
レンには届かない。
階段が現れる。
塔へ続く螺旋。
だが、形が歪んでいる。
段差がずれている。
角度がおかしい。
世界が正しく組み上がっていないようだ。
レンが足をかける。
躊躇しない。
💚崩れるぞ
🖤崩れる前に登る
即答。
レンらしい。
リョウヘイは一瞬だけ口元を歪める。
💚合理性がない
🖤感情で動いてる
レンは振り返る。
一瞬だけ目が合う。
🖤悪いか
低く、強く。
リョウヘイは答えない。
ただその目を見て理解する。
💚(勝てないな、この男には)
戦いじゃない。
もっと別の意味で。
💚…行け
短く言う。
その声にはわずかな“譲り”が混じる。
レンはもう振り返らない。
階段を駆け上がる。
崩れかける足場。
歪む空間。
それでも止まらない。
リョウヘイも影のように続く。
だが、その心はもう完全には“影”ではない。
途中、空間が裂ける。
足場が消える。
レンが踏み外しかける。
その瞬間、腕が掴まれる。
🖤…っ
無言で引き上げる。
レンが舌打ちする。
🖤助けるな
反射的に言う。
リョウヘイは離さない。
💚任務だ
半分は嘘。
レンは分かっている。
でも、何も言わない。
一瞬の沈黙。
そして二人で再び走る。
上へ上へ。
歌が強くなる。
近い。
確実に。
レンの目が揺れる。
恐れじゃなく、焦り。
🖤待ってろ…今、行く
リョウヘイはその背を見る。
何も言わない。
ただ一つだけ心の奥で認める。
💚(…俺は)
目を細める。
💚(もう、完全には戻れない)
ラウールの影。
そのはずだった。
だが今は違う。
この道の先にいるのは“標的”ではない。
“奪うべき存在”でもない。
ダイスケ。
そしてその隣に立つのはこの男だ。
レン。
階段の最上部が見える。
塔の中枢にある扉。
だが、その扉は歪んでいる。
半分ほど空間に溶けている。
存在が不安定。
レンが立ち止まる。
一瞬だけ息を整える。
リョウヘイも横に立つ。
沈黙。
歌が響く。
もうすぐそこ。
🖤ここから先は俺が行く
リョウヘイは即答しない。
数秒静かに考える。
そして
💚…一人では無理だ
現実だけを言う。
レンが睨む。
だが、反論はしない。
分かっているから。
リョウヘイが続ける。
💚今のダイスケは
わずかに言葉を選ぶ。
💚敵でも味方でもない、“現象”だ
レンが目を伏せる。
ダイスケの状態を理解している。
でも、それでも。
🖤だから行く
変わらない。
リョウヘイは小さく息を吐く。
💚…なら
剣に手をかける。
静かに抜く。
💚最後まで付き合う
レンが一瞬だけ目を見開く。
予想外だが何も言わない。
ただ一言。
🖤…来い
それで十分。
二人は歪んだ扉の前で並ぶ。
歌が響く。
世界が軋む。
その中心へ、レンが手を伸ばす。
扉に触れる。
その空間が裂ける。
光。
音。
崩壊。
そして、二人は踏み込む。
空間が悲鳴を上げている。
歪みは限界に近い。
床はひび割れ、壁は波打ち、現実そのものが崩れかけている。
それでも、三人は立っている。
管理者。
ヒカル。
タツヤ。
「…もう遅い」
静かに管理者が言う。
だがその声には焦りが混じっている。
「セイレーンは制御を離れた」
「この世界は再構築される」
タツヤが息を切らしながら言い返す。
💜違う…!
声は震えているが、否定は揺れない。
💜“再構築”じゃない、崩壊だ
管理者の目が細くなる。
「同じことだ」
迷いがない。
ヒカルが一歩前に出る。
剣を握り直す。
💛違うな、そこに“人”が残るかどうかだ
管理者がヒカルを見る。
「人は不完全だ」
静かに言う。
「だからこそ、正しい形に導く必要がある」
タツヤが歯を食いしばる。
💜それを決めるのがお前かよ…!
限界に近い声。
だが止まらない。
💜違うだろ…!
一歩、踏み出す。
💜決めるのは“歌う側”だ
その言葉に空気がわずかに揺れる。
ほんの一瞬管理者の表情が変わる。
「…セイレーンか」
低く呟く。
理解している。
だが、受け入れてはいない。
💛違う
一拍置く。
💛“選ぶ側”だ
タツヤを見る。
そして 遠くを見る。
ダイスケがいる方向を。
💜誰のために歌うか、それはあいつが決める
管理者がゆっくりと息を吐く。
「だから危険だ」
「個に委ねるには、力が大きすぎる」
かすかにタツヤが笑う。
💜それでもだよ
小さく言う。
💜だから意味がある
その言葉は、まっすぐで未完成で。
でも、強い。
管理者が数秒目を閉じる。
そして、開く。
「…結論は出ている」
空気が変わる。
圧が増す。
最後の一撃。
「ここで終わる」
その瞬間、世界が沈む。
重圧に動けない。
ヒカルの膝がわずかに沈む。
タツヤの呼吸が止まりかける。
だが、二人とも倒れない。
ヒカルが低く言う。
💛タツヤ
💜…ああ
それだけで通じる。
言葉はいらない。
タツヤが手を上げる。
震えは止まらない。
でも、意志は揺れない。
💜もう一回だけ…
息を吸う。
限界を超える。
💜“繋ぐ”
空気が軋む。
ダイスケの歌が再び強く響く。
共鳴。
タツヤが無理やりそれを掴む。
理論を越えて、ヒカルが踏み込む。
重圧を無視して、筋肉が軋む。
骨が悲鳴を上げる。
それでも前へ。
管理者が手を振り下ろす。
空間が圧縮される。
潰される。
その直前、タツヤが叫ぶ。
💜今だ!!
“外側”と“内側”が重なる。
一瞬で ヒカルの剣が振り抜かれる。
止まらない。
防げない。
一直線に斬る。
音が消える。
時間が止まったように。
管理者の体に一本の線が走る。
ゆっくりと崩れる。
膝が折れ、床に触れる。
その瞬間圧が消える。
世界が戻る。
しかし、崩れながらも “留まる”。
タツヤが膝から崩れ落ちる。
💜っ…は…
呼吸が荒い。
限界を超えた。
ヒカルもその場で息を吐く。
剣を下ろす。
管理者は動かない。
だが、まだ消えてはいない。
わずかに顔を上げる。
ヒカルを見る。
「…なぜだ」
掠れた声。
ヒカルは短く答える。
💛簡単だ、俺達は諦めないからだ
管理者が目を閉じる。
そして 小さく呟く。
「…不完全だな」
だが、その言葉にはどこか穏やかさが混じっている。
タツヤが息を整えながら言う。
💜だからいいんだよ
管理者はそれを聞き何も言わない。
静かに、その存在が薄れていく。
完全に消える。
残されたのは崩れかけの空間と二人。
ヒカルが顔を上げる。
上を見上げる。
塔の方向。
💛…まだ終わってない
タツヤも震える体を支えながら視線を上げる。
💜うん…
小さく頷く。
💜ここからが本番だ
その瞬間―歌が、爆発する。
さっきまでとは比べものにならない。
空間が裂け、世界が歪む。
タツヤの顔が強張る。
💜…覚醒が来る
ヒカルが剣を握り直す。
💛行くぞ
二人は限界の体で立ち上がる。
それでも止まらない。
ダイスケの元へ。
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