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#BL
くるみ_226
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「おはようございます、柊吾さん」
「……おはようございます。待たせちゃいましたか?」
「いえ、俺も今来たとこです。……その服、すごくよく似合ってますね」
眩しそうに目を細め、屈託のない笑顔を向けてくる瑞樹に、柊吾は咄嗟にシャツの襟元を隠すように視線を泳がせた。
「……ありがとうございます。適当に選んだだけですけど」
何気ない態度を装いながらも、耳たぶにカッと熱が集まっていくのを止められない。
(……カッコいいな、黒瀬さん)
下から見上げる瑞樹の姿に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
ネイビーのリネンシャツに黒のスラックスという、なんてことのないシンプルなコーディネートだ。それなのに、仕立ての良い生地から透ける鍛えられた体躯や、長い脚、すっと通った鼻筋のラインが嫌味なく引き立ち、まるでファッション誌の1ページから抜け出してきたかのように洗練されて見える。
この人は、本当にただの介護士なんだろうか。
普段の仕事着姿だって清潔感があって素敵だと思っていたけれど、こうして私服で並ぶと、自分の垢抜けなさがより際立つようで急激に気後れしてしまう。
(僕なんて、部屋着に毛が生えたような恰好なのに……)
褒められた嬉しさと同時に、自分が惨めに見えてしまわないかという不安が押し寄せ、柊吾は照れくささと恥ずかしさを誤魔化すように、ぎこちなく足元へ視線を落とした。
そんな柊吾の僅かな身体の硬さに、瑞樹が気づかないはずもない。
「さ、行きましょうか」
低く落ち着いた声とともに、瑞樹が自然な足取りで一歩先へ踏み出す。不意に頭上から心地よい影が落ち、ふわっと漂う柔軟剤の清涼な香りに柊吾が顔を上げると、瑞樹はすでに柊吾を車道側からサッと庇うようにして、歩道の内側へと優しく促していた。
「日差しが強くなってきたので、日陰側を歩いてくださいね」
押し付けがましさなど微塵もない、あまりにもスムーズで流れるようなエスコート。立ち位置を変えてくれた瑞樹の大きな背中を見上げながら、柊吾の心臓はさらに大きく跳ね上がった。
(な、なんでこんなにスマートなんだ……!?)
スマートすぎる大人の優しさに翻弄され、柊吾は「あ、はい……」と情けない声を返すのが精一杯だった。
電車とシーサイドラインを乗り継ぎ、向かった先は、海沿いに広がる複合リゾート施設『八ヶ島シーアイランド』。
「人が多すぎない場所で、海が見えるところがいい」という柊吾の曖昧な希望に対し、瑞樹が「水族館も遊園地もあって、平日なら落ち着いて回れますよ」と提案してくれた場所だった。
移動中も、瑞樹の手回しは完璧だった。
乗り換えの案内からICカードのタッチまで何ひとつ迷いがなく、少し混み合い始めた車内でも、瑞樹は柊吾にぶつかりそうになる乗客をさりげなく自分の背中で遮り、自然な動作で庇ってくれる。
いつもは母の介護を一手引き受け、周囲に気を配って「守る側」として気を張って生きている柊吾にとって、誰かに守られ、優先される感覚はあまりにも新鮮だった。
肩が触れ合う距離から伝わる瑞樹の体温に、胸の奥が熱く甘く痺れる。
(……でも、僕だって一応男なのに)
甘やかな心地よさに毒されそうになる自分を振り払うように、柊吾は小さく唇を噛んだ。
スマートすぎる瑞樹の立ち振る舞いと比べ、自分はどうだろう。人混みに怯え、服選びひとつで右往左往し、エスコートされっぱなしだ。
(黒瀬さんから見たら、僕ってそんなに頼りなく見えるのかな……)
守られている嬉しさの裏で、男としての情けなさや引け目がジワジワと胸を押し潰す。本当なら自分だって、もっと大人らしく対等に振る舞いたかった。複雑な感情が胸の中でせめぎ合い、柊吾は自分の不甲斐なさに小さく吐息を漏らした。
コメント
1件
柊吾の「守られる側」の新鮮さと、同時に男としての引け目を感じる相反する気持ちの描写がとても繊細で、胸がぎゅっとなりました。瑞樹さんのエスコートがあまりに完璧でスマートだからこそ、柊吾の複雑な心境が際立ちますね。このデート、この先どうなるんだろう…続きが気になります!