「よっ、今起きたのかい?」
「うわあっ!?」
本丸の朝 5時、俺は久々に光忠に起こされることなくすっきりと目が覚め、暇なので鯉に餌でもやろうかと自室の障子を開けたところだった。
そこに屋根の上から覗き込んできたのが このびっくりジジイこと、鶴丸国永である。
今も驚いて尻もちを着いてしまった俺を、満足そうな顔で見下ろしていた。
「はは、相変わらずいい反応をしてくれるなあ、きみは。」
鶴丸はそう言うと愉快そうに笑う。
「笑うなよ!」
俺が不機嫌そうに鶴丸を見上げると鶴丸は すまんすまん、と言って俺に手を差し出してきた。
「……何か仕込んでないだろうな。」
「何言ってるんだ、きみと会ったのは偶然だぞ。そこまで仕込める訳ないだろう?」
考えてみればそれもそうだ、今日は早く起きたから鯉に餌をあげに行こうとしていたのだから。
ならばいいか と、俺は鶴丸の手を取る。
そして………
「おわっ!?」
思いっきり こっち側に引っ張ってやった。
流石に予想外の反撃だったのか、鶴丸はそのままこちらに倒れ込んでしまった。
………そう、俺の上に。
がしゃり、と鶴丸の甲冑が床に触れた音がする。
「………重い。」
そう呟いた俺の顔の目の前では、鶴丸の美しいかんばせが呆れた色を映し出していた。
「そりゃそうだろう、馬鹿なのかきみは。」
さらりと毒を吐いた鶴丸を俺は恨めしげに見つめる。
「もっと驚けよ!せっかく仕返ししてやろうと思ったのに……」
「なんだ、驚かそうとしていたのか…?」
その言葉が以外だったのか、鶴丸は少し目を見開いた。
「そうだよ!それしかないだろ。」
俺は1ミリも驚いてません、というような鶴丸の態度に口を尖らせる。
一応渾身の出来だったというのに。(鶴丸と話している間の数分で考えたけど。)
しかし、そんな俺の内心は裏腹に、何故か鶴丸の口が笑みを描いていく。
そして俺の頭を引っつかむと、まるでペットでも扱うかのようにわしゃわしゃと撫でてきたのだ。
「え、ちょ、何!?」
「……そうかそうか。きみは俺を驚かせたかったのか。なんともいじらしい、俺は既に抱えきれない程の驚きを貰っているというのに!」
「どういう事!?ま、マジで1回 やめろって!!!」
しかし なんのスイッチが入ったのか何を言っても鶴丸は止まらず。
もはやただのなでなでbotと化している鶴丸に俺は焦る。
「怒ってるのか?、怒ってるのか!?悪かったからもうやめてくれってえええええええ(泣)」
満面の笑みの鶴丸、半泣きの俺。
その様子はまさに地獄絵図だった。
————— キリトリ —————
最終的にはその後30分程撫でられまくった後、起こしに来た光忠に救出された。