テラーノベル
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―side真希―
あたしはただそこに立って二人の動きを追視するだけだった、康夫と桃花の荒々しい行為が
ガラス一枚隔てた向こうで繰り広げられている
桃花と言う女の体は晴美ちゃんの体の半分ぐらいの細さで、乳首はピンク色だった
あたしの心には何か得体の知れない暗い予感が渦巻いていた、康夫はあたしの理想の夫だと思っていた、晴美ちゃんが実家に帰っている間、康夫は何を食べるのか知りたくてあたしは庭に忍び込み、窓の外から家を覗いていた、勝手に他人の敷地に入る行為は、もはやあたしの中では当然の事で、まるで何かに憑かれたようにそこに立ち尽くし、康夫と桃花の滑稽で淫らな舞台を凝視していた
二人の声がガラス越しに漏れ聞こえてくる「好きだ」「地獄に落ちてもいい」―そんな言葉が、あたしの耳にはまるで安っぽいドラマの台詞のように響いた
あたしの完璧の理想の晴美ちゃんの家庭・・・
この温かな家庭がこんなクソ男で汚されている、胸に怒りと哀しみが込み上げて来た
ハンサムで人気キャスターで子煩悩で奥さんの晴美ちゃんを心から愛している・・・そして今また二人の愛の結晶が生まれて彼らは幸せなんだと思っていた
ギリ・・・「クソ男・・・」
あたしの影は闇に溶けていた、月光があたしの顔を青白く照らし、まるで復讐の亡魂のような不気味な雰囲気を漂わせていた
あたしの視線は、康夫と桃花から離れ夜空へと向かった
これから何が起こるのか、あたし自身にもわからない
ただ一つ確かなのは、この家がもう二度と元の温かな場所には戻らないということだった
あたしは足音も立てず、そこから闇の中へと消えた
・:.。.・:.。.
―side晴美―
「こんにちは!」
「いらっしゃい!さぁ入って!」
玄関のドアを開けると、真希ちゃんの弾けるような笑顔が飛び込んできた。彼女の明るさに、疲れ切った私の心が一瞬で軽くなった。帝王切開から二か月、ようやく実家から自宅に戻り、三人の子育てに追われるバタバタの日々を送る中、真希ちゃんの訪問はあたしにとってまるで救いの光のようだった
出産を終えた私達が、こうやって顔を合わせるのは初めてだ
「真希ちゃんの赤ちゃんは?」
私がソファに彼女を招き入れながら、笑顔で尋ねた
「お母さんに預けてきちゃった! まだ外に連れ出すの、ちょっと怖くて」
「わかるわ!」
真希ちゃんの気持ち痛いほどわかる。赤ちゃんを人混みに連れ出すなんて、私もまだドキドキしてしまう
「でも、授乳の時間大丈夫?」
私が心配そうに聞くと、真希ちゃんはにっこり笑った
「うん! 搾乳たっぷりしてきたから、お母さんがあげてくれてるの」
「そう! なら安心ね! 少なくとも半年は母乳をあげると、風邪ひかなくていいわよ! お母さんの免疫が効くんだから」と私はうなずいた
「そうらしいね! 私も産科で習った!晴美ちゃんの赤ちゃん・・・晴馬君は?」
「今三階のベビーベッドで寝てるわ、泣いたらベビーモニターが
教えてくれるからまだ大丈夫!」
「起きたら抱っこさせてね」
「もちろん!」
私は元気に応じる、彼女の笑顔を見ていると、私の心もぱっと明るくなった。真希ちゃんの元気な顔に、なんだか子育ての疲れも吹き飛ぶような気がした、リビングに腰を下ろし、お茶を淹れながら、私たちは早速子育て話に花を咲かせた
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