テラーノベル
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もな
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「こんな争い見ていられない。やめろ」
迫力のある声で忠告した。そういうところが男らしくて、憧れてしまう。まるで僕が王子様を待つお姫様になったような気分だ。王子様は姫にとっての勇者となり、悪を殺す役目となる。
「なんだ、お前。俺様の邪魔をするつもりか! こいつは看守なんだ。殺して当然だろ!」
「何故そう思うんだ?」
「何?」
「看守も囚人も関係ない。どちらも生きている人間だ。こんな醜い争いに意味があるのか? こいつは弱い人間だ。弱い人間を殺そうとするのは、アンタの心が弱いからじゃないのか? 俺を殺してみなよ、できるんでしょ?」
「ぐっ……うるせぇ! 俺様が一番偉いんじゃ! 看守とお前を殺すのはこの」
「兄貴、やめましょうよ!」
「なんだと……」
アジア人らしい男が、背後から両腕を押さえつけて止めに入る。兄貴と言っていることから、仲間なのだろう。焦り具合から、アルマのことをひどく恐れているようだ。額には、びっしりと汗をかいていた。
「あいつ、アルマ・テイラーですってば! 白いウルフと言われて恐れられた悪の根源ですよ。敵いっこありませんって!」
「うるせえな! やらねえと分からねえだろ!」
アジア系の囚人は仲間の言いつけを無視し、腕を振り払う。仲間は後ろで尻餅をついた。それと同時に、右手で殴りかかる。彼はそれを瞬時に避けて腕を握りしめ、放り投げた。投げられた男は近くにあった机の脚に背中を叩きつけられ、グキっと骨の折れる音が響く。アルマは男の歪んだ表情に薄らと笑みを浮かべていた。
普通の人ならば、心配するか後悔するかの二択だろう。が、彼にはそのような選択肢は頭の中にないようだ。
しゃがんで男の太い腕を掴み、曲がらない方向に曲げ始めた。相手は大きな醜い叫び声をあげたが、誰一人助けることはしなかった。皆面倒くさい事に関わりなくないのか、見て見ぬ振りをしている。
アルマは曲げることをやめず、むしろ楽しんでいるように思えた。それどころか、脚も曲がらない方向に曲げ始めている。これ以上は流石に見ていられなくなり、彼を背後から切り離そうとする。
「アルマくん。それはやりすぎだよ!」
「やりすぎ? どこが?」
「相手は痛い痛いって喚き散らして助けを求めているんだよ。苦しそうだから……」
「どうしてそう思うんだ? こいつはお前を殺そうとしてきた奴だぞ。ただの正当防衛だ。こいつの腕と脚をダメにすれば、もう危害は加えてこない」
全くといっていいほど話が噛み合わない。何度もやめろというが、それを無視して首を締め始めていた。アジア系の囚人の顔から血の気が引いて、口から泡を吹いていた。それでも周りは助けることはせず、皆食堂から去ったり飯を盛りに行ったりしている。やはりまともなのは、アルマしかいないのかもしれない。
よく考えれば、僕を守るために実行した行為だ。あのまま狂気モードに入っていたら、この食堂が喧嘩の海に化していただろうし、殺される可能性も充分あった。やりすぎではあるが、彼なりの気遣いなのだと結論づける。内心ほっとした。
その後アジア系の囚人を殺す前に首から手を離し、僕の方に体を向ける。彼の茶色い瞳と視線が合ったら、心臓を掴まれたような激しい動悸がした。何かを見透かされている不思議な感覚に陥り、僕は身動きが取れない。背中に冷や汗をかいてしまう。
これがオーラというやつか。今まで見てきた比と、比べ物にならないくらい強烈だった。
とはいえずっと目線を合わせることはせず、彼は背後を向いてボソリと呟く。
「お前もこっち側だったんだな」
「それ、どういう意味?」
「なんでもない。独り言だ。俺は友達と食事するつもりだ。お前はどうする?」
話を逸らされてしまった。あんなことがあったのに飯へありつこうとする強欲っぷりに感心すると同時に、こっちがどちらなのか考えてみた。囚人なのか、看守なのか?
一人で、壁際の椅子に座る。本当はアルマと食べようとしたのだが、彼はどこかへ行ってしまい声をかけそびれてしまった。
緊張感溢れる尋問が起きた後だ。食欲が全くわかない。
一人の方が落ち着くと思ってしまうのは、ぼっちの極みかもしれない。もしアルマやその友達がいれば、こちらも気を使わないといけないし話す内容を考えないといけない。大層面倒くさいので、これでよかったと自分に言い聞かせホッと一息つく。
メニューはトレーに乗っている通り。フランスパンが二分の一、野菜入りシチューはちょっとだけ。飲み物はオレンジジュース一本で、おかずがない。なんとも貧しい食事なんだ。囚人たちはこんな料理をずっと食していると思うと、不思議な感覚になる。こんなのでお腹いっぱいになるのだろうか。うーんと唸ってしまう。看守に戻った方が美味しいもの食べられ……。
「この席空いてるわよ!」
隣にドカッとトレーを置いてきた人がいて、肩を震わせてしまう。一体何事だろうか。
隣に視線を向けると、緑の髪を三つ編みに結んでいる女が座ってきた。胸がふっくらと膨らみ、唇は薄ピンク色。まつ毛も少し長くて、顔立ちが整っている美人な女性だ。目が少し吊り目なのは残念……。
この船で初めての女性に出会ったためか、体が強張ってしまう。どう接すればいいのか、戸惑いを覚える。
「そんなに緊張すんなよ、お兄さん。あんた、こっから出たいんでしょ。あたしたちも船から脱獄する策略だから」
彼女が肩を組んできて、胸が左上腕に当たっていた。童貞の僕にはキツすぎる展開。アレがたっちまいそうだ。
「姉貴! それは言わないお約束じゃ……」
「そうだっけ?まあ、細かいことは気にすんな」
囚人の女だけあってか、態度がかなりデカい。肩から手を離した瞬間椅子にもたれかかり、大の字で座っていた。これ股が見えるんじゃ……恥じらいはないのか?と心配になってしまう。
そんな彼女の目の前には、褐色肌の男が座っていた。右目に包帯を巻いていて、怪我をしているのが分かる。左目は水色に近い瞳。
彼は女のツッコミ役としてはかなり優秀だ。知り合いだろうか。
男は丁寧に挨拶してきた。
「どうも初めまして。ボクはダニエル。あなたの隣に座っている彼女は、ルビー」
「よろしく〜!」
「二人は知り合い……?」
「恋人同士」
「ち、違うって!!」
ルビーがのっぺりした声で言うと、ダニエルの顔がトマトのように赤らみ慌てて隠そうとする。なんだ、リア充か……。僕には縁がないタイプだわ。逃げよう。
コメント
3件
うわ、この話すごかった……。アルマの“正当防衛”って発言がガチすぎて、怖くてかっこよかったよ。でも最後に「お前もこっち側だったんだな」って台詞がめっちゃ気になる…。ルビーとダニエルの登場で空気が一気に変わったのも面白かったし、主人公の童貞感溢れる反応にも笑っちゃった🤍 続きが気になる〜!