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私には常識しか通用しません

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私には常識しか通用しません

161 - 第161話・はじめての ししゃ2(らんどるふていこく)

♥

42

2026年01月03日

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「な、ん、だぁ、ここは……!?」


ランドルフ帝国外務副大臣―――

ブランは、その光景を目の当たりにして

驚きの声を上げる。


「ですから、報告した通りだと言ったでしょう。


道中、人間・亜人混合の者たちをその目で

見たというのに……

まだ信じられないのですか?」


同国の王女、ティエラがたしなめるように、

そのチョビヒゲにでっぷりとした体格の

男に話しかける。


新生『アノーミア』連邦、その代表国である

マルズ国。


王都・サルバルに到着した一行は、ただ

息を飲んでその現実に見入っていた。


「ワイバーンが、それも数体……

王都の上空を常に旋回しておる」


「あっちの露店をやっているのは獣人じゃないか?

見ろ、半人半蛇や半鳥の亜人もいるぞ」


彼らの事前情報にあった、

新生『アノーミア』連邦とは―――


元帝国だけあって国力は目を見張るものがあるが、

文明・文化はランドルフ帝国より数段下で、


獣人や亜人は被差別階級であり、またそれを

当然のように受け止めていた。


「ヤバ、うまそうな匂いがこっちまで……!」


従者の一人がふらふらと、獣人のやっている

露店の前まで歩み寄り、


「いらっしゃい!

獣人名物料理、ボーロだ!

ひとつ食っていきなせえ!」


ボーロとは地球でいうところのカレーの事で、

獣人族のボーロが香辛料を使った料理を提供して

くれた事がきっかけで、シンが再現。


以来、その強烈な匂いと味は瞬く間に

広がっていき、今ではボーロという名前で

この世界に定着していた。


「あぁ、ボーロですね。

わたくしもウィンベル王国で食しましたわ。


どうです?

王宮に向かう前に、庶民の味を食べて

いかれては」


ティエラはブランに促すと、彼はその丸いお腹に

手をあてながら、


「そ、そうですな。

料理までは詳しい情報も無かったですし。


話のタネに試食してみるとしましょう」


彼らが話し合っているのを、カバーンと

セオレムはニヤニヤと笑いながら遠目で

見つめ―――


「では、ご相伴しょうばんあずかりましょうか」


そこへティグレも参加し、結局は一行全員で

ボーロを食す事となった。




「そういえば、上空にワイバーンが何体か

飛んでいるけど―――

今日は何かある日なのかい?」


従者の一人が情報収集も兼ねて、料理中の

獣人族の中年男性にたずねる。


「え? いやいつもこんな感じですぜ。


この国の王子様、エンレイン王子が

ワイバーンの女王・ヒミコ様と婚約してから、

『夫の国を守るのは当然』と、常に空から

何体か見守ってくれているんでさぁね。


おかげでこうして―――

安心して商売が出来るってモンでさぁ」


そこでブランが、二杯目のボーロを受け取り

ながら、


「う、うむ。


しかしこの国は何と言おうか……

人外に非常に寛容のようだな?


耳にしていた話とはあまりに異なるので、

戸惑っておるよ」


すると獣人族の店主は苦笑し、


「まぁ、こうなったのはつい最近……

ほんの1・2年の事でさぁ。


去年の夏あたりでしたかねぇ。

連邦の西の国に、10万ともいわれる

ハイ・ローキュストの大群が来た事が

ありやして。


その時は人外も亜人もなく―――

『マルズ国の風雷』はもちろんの事、

ドラゴンにワイバーン、ラミア族、魔狼、

ゴーレムに魔族まで協力して退けたと聞いて

おりやす」


その言葉に、ティグレ魔戦団副隊長は

顔色を変える。


外務副大臣も、ハイ・ローキュストの群れの

脅威は知識としてあり……

そのスキンヘッドに食事でかく以外の汗がつたう。


「そ、それは……

大変な被害だったのでは」


パープルの長髪に、揃えられた前髪の後ろの

両目を見開きながら、王女は聞き返すと、


「確かに、発生した当初はすごかったと聞いて

おりやすが―――


最前線の町ごと魔族が氷でおおって、

国が動いた後の被害はほとんど無かったとか。


まあそんな事もあって、今じゃどこの国も

亜人や人外と交流を深めていやすよ」


改めて周囲を見回し、獣人や人外が自然に

歩いている光景を確認する。


「……いや、うまかった。

いくらかね?」


「一杯、銅貨8枚でさあ」


「えーと、ワシは2杯お代わりしたから―――

ああ、まとめて払おう」


ブランが計算し、店主が一行分のお代を

受け取ると、


「毎度ありっ!


お客さん、他国の人ならウィンベル王国の、

公都『ヤマト』へ行ってみる事をオススメ

しやすぜ!


このボーロもあちらさん発祥でね。

料理を教えてくれるところもあるから、

料理人でなくても興味がある人なら、

行ってみて損は無いところだ」


すると、それを聞いた従者の一人が

店主に詰め寄る。


「ほ、本当ですかそれは!?

誰でも教えてくれるんですか!?」


彼は、かつてティエラ一行が大陸に潜入した時に

船に乗っていた料理長で、

(■151話 はじめての

きゅうしゅつ(はにー・ほーねっと)参照)


『ガッコウ』という情報をカバーンやセオレムから

聞いていた事もあり、次に大陸に行く時は是非にと

渇望かつぼうしていた人物でもあった。


「確か1ヶ月金貨1枚だったかな?

それだけ払えば、平民貴族、亜人人外問わずって

話だよ。


俺もそこで半年間みっちりきたえてもらったんだ。

運が良けりゃ、万能冒険者にも教えてもらう

機会もあるから、行ってみるといいですぜ」


「ば、万能冒険者……」


その名前を聞いたブランが、また顔色を変える。


自分が散々否定、妄想だとあなどっていた情報を、

嫌でも事実だと認識し始めていた。


「ご馳走さまでした。


さぁ、行きましょうか」


「う、うむ」


そこでランドルフ帝国一行は、当初の目的地である

王宮へと向かう事にした。




、マルズ国王、トニトルスは―――


ランドルフ帝国からの使者を心より

歓迎する」


王宮・謁見の間でお目通りを許された二名……

ティエラ・ランドルフ王女と、

ラモード・ブラン外務副大臣は膝をつく。


二人は通り一遍のあいさつを述べた後、


「時に、前のランドルフ帝国の使者は達者か?」


「は―――

その事につきましても、申し上げる事が

ございまして」


ブランは外務副大臣として、言葉を選びながら

説明しようとするが、


「急な帰国、それも亡命者を連れて……


同時に王都・サルバルにて破壊工作が

行われた。


その件について、何か知っておるか?」


静かな声、しかし威圧を感じるその問いに、

彼は動じずに答える。


「サルバルでの出来事は知っておりますが、

我が国の使者もまた被害者でございます。


それともあの亡命者の破壊工作に、使者まで

巻き込まれた方が良かったと申されますか?」


帝国の使者の返答に、側近はざわめく。


「あの亡命は、使者としては受け入れるしか

なかったのでございましょう。


もし断りでもしようものなら―――

口封じされていたかも知れません。


そうなれば帝国と新生『アノーミア』連邦との

関係は、決定的なものになったかも知れませぬ」


マルズ国王は表情を変えずにいながらも、

周辺の空気は反発を伝えてきて、


「もし我が国が連邦と敵対するつもりなら、

こうして使者を送って来ておりません。


亡命者、アストル・ムラトについても

説明する必要があるかと……


とにかく、敵対意思は無い事と、亡命者について

誤解を解くために我々は来たのです」


ティエラ王女が割って入るようにして語る。


「ティエラ・ランドルフ王女……

その言、信じよう。


担当者と引き合わせるゆえ、そちらで

ご説明願いたい」


国王の言葉で、いくぶんか空気はやわらぎ―――

話し合いの場は上層部の役人へと引き継がれた。




「うむ!

これはうまい、うまいぞ!


とてもこれがあの『トンカツ』とは

思えん!」


「油料理がここまでさっぱりする

味わいとなるとは……


油ものが苦手な方やお年寄りでも、

これは喜んで食べられるでしょう」


公都『ヤマト』―――

そこの宿屋『クラン』では、


ジャイアント・ボーアにジャイアント・バイパーを

素材とした……

新たな味付け料理が振る舞われていた。


例の大根おろしにめんつゆを混ぜた、

『トンカツのみぞれ和え』や、


唐揚げにも同様の味付けを施したものがメイン。

それらの料理を店に来たみんなに提供し、


中でも、ロック男爵(元)とフレッド―――

スキンヘッドの丸型ボディに、痩せ過ぎとも

思える体形の主従コンビは、堪能しながら

感想を述べる。


「これは次のレシピ本を書く時には、

ぜひ載せなければなあ、フレッド!」


「そうですね……

『やくみ』なども新しく出てきましたし、

また料理の幅が広がりそうです」


私は妻たちと共に彼らへ歩み寄り、


「そういえば料理本の執筆、お疲れ様でした。

ロック様、フレッドさん」


以前から話には上がっていたのだが、

この二人、主に書くのはフレッドさんだが―――

レシピ本を頼んでいたのだ。


『ロック・フレッドの主従レシピ』と題された

その本は、かつて『急進派』と呼ばれていた、


バーサル・デイザン伯爵とホムト・ジャーバ伯爵、

両伯爵監修という触れ込みで、


貴族・平民問わず……

王都ではすごい売れ行きで、増刷に次ぐ増刷が

決まっているとの事。


「おお、シン殿!

いやあ、ドーン伯爵家とも共同でやっているが、

売れ過ぎて困っておるくらいだよ。


貴族向けの料理はワシ、平民向けは

元冒険者であったフレッドが―――

というのが受けているようだ」


「……特に冒険者は、携帯に優れ腹持ちの良い

食事を選びますから……


ですが、私の現役時代よりは―――

選択肢が比べようもなく増えて、

冒険者たちも以前より快適に、依頼を

こなせるようになるでしょう……」


二人の受け答えに、メルがやれやれという感じで

両手を軽く広げ、


「そだねー。

シンが来てからというもの、日帰り依頼でも

チキンサンドやらツナサンド付きだったし。


それまでは3日くらい、飲まず食わずって

いうのも珍しくなかったモン」


「ピュウ」


彼女の話を聞いて当時の記憶に思いをはせる。

そういえば当初同行させていた、カート君たちも

ほとんど手ぶらでついて来ていたしなあ。


「そういえばシンさん。

ドラゴンの方の奥さんはどうしたんです?

ラッチちゃんはいるようですが……」


ダークグリーンの短髪をした、30代の男性が

近くのテーブルからこちらをのぞいてくる。


「リーベンさん。


今、アルテリーゼは王都に行っているんですよ。

『乗客箱』で人を運んでいまして」


「そうでしたか。


今や王都まであれに乗れば半日ですしね。

世の中変わったものです」


彼がしみじみと話すと、


「そーそー。

ほんと、シンさんが来てから変わったよ」


「最初は魚と鳥からだったけど……

こうまで食生活が変わるなんて思っても

みなかった」


離れた席で、ロンさんとマイルさんが

木製のジョッキを掲げ、


「まったくだよ。

生きたまま鳥だの魚だの持って来てさ。


それがいつの間にやら―――

貝だの卵だの、甘味だの麺類だのと。


忙しくなったものさね」


宿屋『クラン』の女将、クレアージュさんが

呆れるように話す。


最初の方は手探り状態だったからなあ、こっちも。

この宿屋にずっと泊っていて……


「あ、そういえば……

私が寝泊まりしていた部屋って、

今も使われていますか?」


すると女将さんはニカッと笑い、


「あの『万能冒険者が泊まっていた部屋』って

事で、有名になってねぇ。


冒険者として運が開けるとか、

料理の腕が上がるとか、恋愛成就じょうじゅとか―――

いろいろな噂が流れているみたいで。


一泊金貨3枚でも、二ヶ月先まで予約が

満杯だよ」


冒険者や料理の腕はともかくとして……

恋愛成就?


私が疑問に思っていると、アジアンチックな

顔立ちの妻が、視線を露骨に反らす。


ああ、そういや……

ここの部屋にメルとアルテリーゼを連れ込んで

しまった事があったっけ。

(■30話 はじめての けっこん参照)


「あはは……

ま、まあ繁盛しているようで何より」


愛想笑いをすると、今度は向こう側から

知った声が聞こえてきて、


「うめぇなコレ!

これから暑くなるって時にピッタリな

味だぜ」


「これなら冷えていても全然美味しいッス!」


「うぅう~、油っこいのにいくらでも食べられる

なんて、反則です!」


いつものギルドメンバー、ジャンさんに

レイド君、ミリアさんも―――

新しい味付けを気に入ってくれたようだ。


こうして、トンカツ・唐揚げの新たな料理の

お披露目は、好評のうちに終わった。




「はぁ……ブラン殿。

もう少し穏便に話し合いは出来なかったの

でしょうか」


マルズ国王宮の、来賓らいひんに与えられた一室で、

ティエラは眉間にシワを寄せて語る。


「ティエラ王女様が手ぬるいのです!


外交ではめられたら終わりですぞ!

ある程度は強気でいかねばならんのです!!」


とがめられた四十代くらいの男は、逆に

彼女に食ってかかる。


謁見の後―――

王女、そして外務副大臣の二名は、

ランドルフ帝国代表として交渉の場に

のぞんだのだが、


ともすれば喧嘩腰とも思えるその態度に、

彼女は頭を痛めつつも、何とか説明を

果たしたのであった。


「ですがブラン様。


ハイ・ローキュスト10万の大群を退けたという

話が事実であれば―――


そのような国を刺激するのは得策では

ありません。


万が一開戦という事になったら、勝てる算段は

おありで?」


ティグレ魔戦団副隊長が、軍人としての立場から

彼をたしなめるが、


「フン!

そもそも連邦には、大規模な兵力を渡海させる

能力は無い!


通常の船であれば二週間はかかるのだ。

ドラゴンでもワイバーンでも、それだけの距離を

飛んでくるのは不可能だろう。


というより貴様らがおびえ過ぎなのだ。

ここで甘い顔をしたら、向こうを付け上がらせる

だけだぞ!」


彼以外、ため息とも呆れとも取れない空気が

部屋に蔓延する中―――


アラフィフの赤髪の男と、アラフォーの

ブラウンのボサボサ髪の男性が、


「それで、相手の反応は?」


「結局どうなったんですかね?」


直属の従者二人の言葉に、王女が口を開き、


「対応に苦慮している感じではありましたが……


アストル・ムラトの亡命の件と、帝国の使者が

彼の破壊工作に関与していないという言い分は

受け入れてくれたようです」


そこでようやく、ホッとした空気が広がる。


「そもそも、アストルの話では我が国が

彼に亡命を持ち掛けたとの事ですが―――

ブラン殿、その辺りはどうなのです?」


ティエラの問いに彼は渋面じゅうめんを作り、


「やつの技術に興味があったのは確かなようだ。


それに冷遇されていると聞いて、もしその気が

あるのなら、ランドルフ帝国に来ないかと

誘ったのも事実らしい。


ただ当人としては穏当に職を辞してから、

こちらに来るものだと思っていたから……

王都の破壊工作までは寝耳に水だったと

言っておった」


さすがにそれは外交上の失態だと認識して

いるのか、ブランは苦々しく語る。


「相当、こちらに恨みがあったって事か……」


「何つー迷惑な」


カバーンとセオレムが感想を口にすると、


「それでブラン殿。

アストル・ムラトの処遇しょぐうについては

話し合われなかったのですか?」


ティグレが問うと、ティエラ王女の方が、


「さすがに引き渡せなどとは言われません

でした。


あくまでも帝国の使者は巻き込まれた側だと

強弁きょうべんしましたから―――


また、そうでなくては双方引き下がれなく

なりますからね」


他国の使者がテロ行為をけしかけ逃げたと

あらば、国交断絶どころではない。


また、犯人としての亡命者引き渡しは、

犯罪者をランドルフ帝国がかくまっているという

形になりかねない。


だから今回の亡命の件の落としどころは、

ここらあたりだと……

それは両国の理性がたどり着いた結論でも

あった。


「だが連中―――

ウィンベル王国へのつなぎも付けてくれたぞ。


聞けばこの大陸で各国が同盟を組み、それを

主導したのがその国との事。


大方、国の体面を考慮こうりょし、ウィンベル王国と

やらに丸投げするつもりなのだろう」


「貴方はまだそのような事を……!」


勝ち誇るように話す外務副大臣を、王女が

たしなめる。


「まあまあ。

今のところは良しとしましょう。


連絡をしてくれたって事は、10日もすりゃ

返事が来るでしょうし―――」


「そうそう。

それまではこの王都・サルバルで地元料理でも

堪能しましょう」


他の従者たちも軽口を叩き、雰囲気を

和ませようとする。


その時、ノックの音がして、


「はい、どうぞ」


「失礼いたします」


そこへ、マルズ国の使いと思われる男性が

部屋に入り、


「今しがた、ウィンベル王国へ使いを

出しました。


2日後か3日後には返事が来ると

思いますので―――」


その言葉に一行はポカンとするが、


「バカを言うな!!

どんなに急いでも、そんなに早く返事が

来るわけはなかろう!」


思わずブランは反論する。

しかし、使いの男性は涼しい顔で、


「ああ、各国の首脳陣はワイバーンで連絡を

取り合っているんです。


またご所望であれば……

ワイバーンによる『乗客箱』をご用意

出来ますが」


「乗客箱?」


従者の一人が聞き返すと、


「はい。

ワイバーンに馬車の荷台を運ばせるような

形で、飛んでもらうのです。

それならマルズからウィンベル王国まで、

1日か2日で飛べます。


もしウィンベル王国に話が通れば、

ドラゴンの方を用意してもらう事も可能

ですが。

その場合ならご使者一行を全員、一度に

運べるでしょう」


それを聞いたブラン以下、一行は目を丸くする。


すでにアルテリーゼの『乗客箱』に乗った経験が

ある、ティエラたち三人を除いて―――




「アルテリーゼの帰りが遅れる?」


みぞれ和え料理を作ってから二日ほどして―――

私は冒険者ギルド支部で、その報告を聞いていた。


「おう。

マルズ国にランドルフ帝国の使者が来た

らしくてな。


『乗客箱』で迎えに来て欲しいと要請が

あったらしい」


アラフィフの筋肉質の男性……

ギルド長が白髪交じりの頭をかきながら話す。


「帝国の使者ッスか」


「あの『お姫様』も来ているんでしょうか」


褐色肌の次期ギルド長の青年と、丸眼鏡をかけた

彼の妻は、見知った人の顔を思い浮かべる。


「ティエラの姉ちゃんか。

そこまでは聞いていないが……

多分いるんじゃねぇか?


一度潜入しに来ていたわけだし、

現地の状況を知る人間を連れて来ないとは

思えん」


「まあそうでしょうね」


ジャンさんの言葉に私が同調すると、

レイド夫妻もうなずく。


「しかし、あんまりアルテリーゼの不在が長いと、

ラッチが」


私が義理の子供の心配をすると、


「あー……」


「お母さんと離れ離れッスからねえ」


「一度公都に寄ってもらえればいいんですけど」


ギルドメンバーの三人も心配そうな声を出す。


「いっそ、今からワイバーンでマルズへ

向かうッスか?

ハヤテさんかノワキさんに頼めば」


そう言うレイド君の頭にギルド長のチョップが

見舞われ、


「あだっ!!」


「そうポンポンとワイバーンを出せるわけが

無いだろうが」


「そうですよ。

それにすれ違う可能性だってありますし」


頭を抑える彼に、ジャンさんとミリアさんが

追い打ちをかける。


その後、少し今後の話をしてから退室し、

私はラッチへの言い訳に頭を悩ませながら

戻った。




「シンさん、見えて来たッス!」


「多いですね。

30羽はいるでしょうか」


二日後―――

私はレイド君と一緒に彼の愛騎である、

『ハヤテ』さんに乗っていた。


何でも、公都近くを大ガラスダーク・クロウの群れが

通過したとの報告が入り、


ただその飛行ルートが新生『アノーミア』連邦方面

だった事から、


もしマルズからウィンベル王国へ『乗客箱』が

飛んでいた場合、それとかち合う可能性を考え、

進路を変えさせるため、出動したのである。


「いつもなら、鳥の群れなんて何て事

無いッスけどねえ」


「帝国の使者を迎えている今……

少しでも不確定要素は排除しておきたいの

でしょう。


しかしカラスにしては大きいような」


「??

だいたいあんな物じゃないッスか?」


とはいえ、目視出来る限りで推測しても―――

どう考えても翼を広げて二メートルはいっている

ような。


まあでも、ワイバーンが近付けば嫌でも進路変更は

するだろう。

慎重にその距離を詰めていく。


「じゃあ、そろそろ先方に回り込んで」


「―――!

待ってくださいッス!

何か飛んでくるッス!!」


レイド君がそう言うや否や、前方の大ガラスの

群れに、巨大な光が迫り、


「!?

あれは……?」


「何やら攻撃を受けているッス!

火魔法によるものかと!」


こんな上空で火魔法?

私が疑問に思っていると、


「どうやら、群れの前方数キロ地点に、

同じ高度で飛ぶ存在が数体―――


あれ?

これ、アルテリーゼさんの『乗客箱』と、

護衛のワイバーンじゃないッスか?」


「それが何でカラスの群れなんて攻撃を……


レイド君!

急いでそちらへ向かってくれ!

出来れば高度からかぶるように」


「了解ッス!」


こうして私とレイド君の乗る『ハヤテ』さんは、

猛スピードで上昇を始めた。




「何だあれ……」


「『乗客箱』から、何か撃ち出されている

っぽいッスね」


眼下には、アルテリーゼであろう『乗客箱』を

抱えたドラゴンがおり―――


どうも火魔法は、『乗客箱』の窓から

発射されているようだった。


という事は、あの中にいる人間が火魔法を

外へ向けて使っているのか?

しかし、何のために?


「アルテリーゼも、何だか困惑している

ように見えるな……


仕方ない、大人しくさせよう。

彼女の背中に近付いてくれ」


「わかったッス!」


レイド君が言うやいなや、ワイバーン

『ハヤテ』さんと共にドラゴンの元へ

急降下していき、


「(大規模な燃焼を、何の装置も燃料も使わず

生成する事など、

・・・・・

あり得ない)」


私がそうつぶやくと、ようやく『乗客箱』から

炎の噴射は終わった。


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