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「いったい何があったんだよ」
公都『ヤマト』のギルド支部、その支部長室で、
部屋の主が眉間にシワを寄せながら―――
顔見知りの三人に問いかける。
ティエラ王女にその従者、カバーンさんに
セオレムさんだ。
紫の長髪をした、二十歳前後の女性がまず
口を開き、
「実はですね……」
と、状況を説明し始めた。
―――ティエラ回想中―――
「こ、この『乗客箱』というのはすごいものだな」
ランドルフ帝国の外務副大臣であるブランは、
窓の外の光景に釘付けになる。
「ティエラ様を始め、ワシたちは以前乗った事が
ありますが」
「空を飛ぶのなら、あらゆる地形・障害物は
無視出来ますからね。
しかもワイバーンライダーの護衛付きと
きたもんだ」
筋肉質の赤髪の男と、ブラウンの短髪をボサボサに
した男性、従者二人が笑いながら語る。
その言葉の通り、アルテリーゼが飛ぶその両側を
ワイバーンが一体ずつ、挟むようにして編隊を
組んで飛んでいた。
『まあ、ゆるりとしておるがよい。
何事も無ければ、ウィンベル王国まで
あと―――』
と、ドラゴンである彼女が伝声管から話していた
ところ、
「あ、あれは何だ!?」
と、ブランが自分の突き出たお腹を窓に押し付ける
ようにして、外を指差す。
「何かの群れでしょうか?」
「それがしには、野鳥のように見えますが―――」
ティエラとティグレが目を凝らしてその存在を
確認するも、
「どど、どうするのだ!
こんな上空で襲われたら、ひとたまりも
無いぞ!!」
それを伝声管経由で聞いていたアルテリーゼは、
『落ち着くがよい。
動物であれ魔物であれ―――
我とワイバーンに向かっては来ぬ。
もし問題があれば緊急着陸を行う。
それは搭乗する時に説明されたであろう?』
そうたしなめると、王女、それにほとんど
丸刈りの短髪をした魔戦団副隊長が納得し、
「ああ、それは確かに」
「そもそもドラゴン相手に襲い掛かる魔物が
いたら、それは自殺行為でしょうね」
そこでいったん『乗客箱』内部の騒ぎ……
正確にはブラン外務副大臣の動揺は収まり、
このまま王都まで順調な飛行が続くと
思われたが、
「お、おい!
また何か飛んできたぞ!!」
と、一時間ほど後―――
またブランの怒号が『乗客箱』内に響き渡り、
「アルテリーゼ殿、何か見えますか?」
王女が伝声管に向かってたずねると、
『今度は魔物のようじゃな。
恐らくあれは、大ガラスの群れだと
思われるが』
「ま、魔物だとおぉおお!!
こうしてはおられん、迎撃するぞ!!」
先ほどの野鳥の群れで神経過敏になっていたのか、
彼は両腕で窓を乱暴に開け放つ。
「お、おやめくださいブラン様!
飛行中、勝手に窓は開けないよう言われて
いたはず!」
「やかましい!!
今ワシラは上空にいるのだぞ!
ここで落ちたら助からん!
その前に、相手を倒すのだ!!」
そのままランドルフ帝国の外務副大臣は、
狭く開いた窓に手を差し込むと、
「喰らえい!!
『業火魔法』!!」
周囲の制止も聞かず、外へ向けて攻撃魔法を
放った。
『な、何をしておる!?
どうして攻撃を!?
相手は魔物といえどただの大ガラスどもじゃ!
多少近付いたところで、こちらがドラゴンだと
わかれば離れるわ!!』
アルテリーゼは必死に『乗客箱』での行動を
注意するが、
「やめてくださいブラン様!」
「どうか落ち着いて―――」
部下や従者が止めようとするも、興奮状態の
ブランは止まらず、
「ア、アルテリーゼ殿!
緊急着陸を……!」
ティエラが伝声管で地上に降りるよう要請する。
しかし、
『それだけ炎を発射されまくったら、着陸も
何も無いわ!!
何が起きているか知らんが―――
その魔法を撃っているそやつを止める事は
出来んのか!?』
上空は混乱の極みに達しつつあった。
だがその時、
「……ぬ!?
ま、魔法が出ない!?
な、何が起きて」
ブランが自分の両手を見つめ、異変が起きたと
周囲は判断。
すかさず彼に飛び掛かって取り押さえ、
『おお、我が夫!
来てくれたのか!』
ようやく事態は収束し―――
彼らは中途、公都『ヤマト』で休息する事に
なった。
―――ティエラ回想終了―――
「……というわけでして。
ご迷惑をおかけしました」
深々と王女は頭を下げ、次いで従者二人も
同様、首を垂れる。
「えーと、つまり?
空の上で魔物に襲われるかもって怯えた
副大臣サマが、暴走しちゃったって事?」
メルが両腕を組んで呆れた声を出し、
「我の下でなあ。
空ゆえ、放り出す事も出来なかったし。
あんな乗客は二度と御免じゃぞ。
それで、そやつは今どこに?」
「ピュウゥ~」
アルテリーゼがストレートに不満を口にする。
「あの者なら、今はここの領主の御用商人の
屋敷におります」
「あれ? ここ公都ですから―――
王族専用の滞在施設もありますし、そこで
待って頂いても」
ティエラ王女様の言葉に、私は思わず疑問を
呈する。
仮にも国家使節だし、そこを使っても文句は
言われないと思うが……
すると、カバーンさんとセオレムさんが
重たそうに口を開き、
「まあ、休養という名の監禁です。
今はティグレ殿が見張っております」
「あのままだと、何を口走るかわかったものでは
なかったので―――」
同室にいたレイド君とミリアさんが、
『あ~……』という表情になる。
「まあ上空にいたわけッスから。
気持ちはわからないでも」
「しかしどうしたものですかね、これ」
褐色肌の青年が黒の短髪をボリボリとかき、
丸眼鏡の妻が今後の対応に悩む。
「一日も経てば落ち着くんじゃないですかね。
今日のところは公都に泊って頂いて―――
その間に、事情をワイバーンで王都に伝えれば」
「だな。
じゃ、俺の方からライに手紙を書いておくよ」
私の提案にジャンさんが同意し、
「本当にお手数をおかけします」
申し訳なさそうにティエラ王女様が、
視線をと落とす。
「でもそうなると……
アルテリーゼさんの『乗客箱』は、
もう使えませんね」
「ワイバーンにも小型のものがあると
聞いてますが」
カバーンさんとセオレムさんが、別の悩みを
口にするが、
「ワイバーンたちが使う物は持ってきてないぞ。
我の『乗客箱』での移動に決めたのだし。
ウィンベル王国の王都にでも連絡して、
引っ張ってきてもらわねば」
アルテリーゼがワイバーンでの移動を否定し、
「そーなるとまた時間がかかるねー」
メルがダメ出しをして、ランドルフ帝国の一行は
疲れ果てた表情となる。
「アルテリーゼ、私も同乗するから―――
彼らを予定通り、王都・フォルロワまで
送り届けてくれないかな?」
「うーむ……
夫がそう言うのであれば反対はせぬが」
「ピュ~」
黒の長髪をなびかせて、彼女はしぶしぶ
うなずく。
「私も行くよ、アルちゃん。
今度そのバカが暴れたら、私がロープで
窓から吊るすから」
そこでようやく、ティエラ王女様と従者たちに
笑顔が浮かび、
「いえ、そこまでお手をわずらわせるわけには」
「いっそ、最初から吊るしておくって
出来ませんかね?」
カバーンさんとセオレムさんの言葉で、
室内が笑いに包まれた。
「き、貴殿があの『万能冒険者』であったか」
翌朝―――
私はセミロングの人間の方の妻と一緒に、
『乗客箱』へ乗り込んでいた。
ブラン……
外務副大臣様らしいが、昨日の失態に懲りたのか、
ずいぶんと大人しい。
乗車の際の顔合わせの時、密かに『無効化』は
戻しておいたけど、出来ればこのままずっと
大人しくしていて欲しいものだ。
「そう呼ばれているそうですけど……
まあ、王都までよろしくお願いします」
「気分が悪くなったり、トイレに行きたくなった
場合は、お声をおかけしてくださーい」
「ピュ~」
今回はラッチも参加しており、
「ドラゴンの赤ちゃんって、こんなに
小さいのか……」
「ずいぶんと大人しいですね、ティエラ様」
ランドルフ帝国の一行は、王女様に抱かれる
ラッチを代わる代わる撫でたり、声をかける。
「王都の冒険者ギルドでも人気者なんですよ、
このコ」
すると外から伝声管を通してアルテリーゼが、
『ちょっと甘やかし過ぎのような気が
するがのう。
あそこにはお世話になっているので、
そう強くも言えぬのがなあ』
世間話をするような母親の言葉に、
『乗客箱』内の人たちは苦笑する。
「ド、ドラゴン殿が冒険者ギルドと、
どのような関係で?」
ブラン様がおずおずと会話に参加し、
「ああ、私とメル、アルテリーゼ、それにラッチは
冒険者ギルド所属なんですよ」
「全員シルバークラスだけどね。
討伐依頼とかあったら受けますよー」
軽く私とメルが返すと、
「え……?
ドラゴン殿や『万能冒険者』がシルバークラス?
あの、すいません。
こちらの冒険者で最高クラスって」
「ゴールドクラス、ですね。
あの公都『ヤマト』のギルド長がそれに
当たります」
「あ、ただ―――
場所によっても違うっぽいから。
王都本部の冒険者ギルド所属だと、
シルバーでも地方のゴールド並の実力と
いう事らしいよ」
ざわざわと『乗客箱』内がざわめき出し、
『おー、確かに公都のギルド長とは、
我でもやり合いたくないのう。
人間でも、あれだけ強い者がいるとは
長生きはするものじゃ』
一行の顔が心無しか青ざめていくのが
わかり、
「そ、そういえば……
公都の料理はいかがでしたか?」
空気を和らげようと、何とか別の話題を振る。
「あ、ああ。
こちらに来る前に、新生『アノーミア』連邦でも
いくらか料理を頂いたのだが―――
こちらが本場と聞いて納得したよ。
異国の料理が、これほど口に合ったのは
初めてだ」
この人は確か、ティグレ魔戦団副隊長とか
言っていたか。
結構身分が高そうだし、その人の口にも
合ったというのなら、王都でも大丈夫だろう。
そして数時間後―――
空の旅は、無事王都に到着して終わりを告げた。
「それじゃあ、しばらくの間お世話になります」
ランドルフ帝国の一行と別れた私たちは、
そのまま冒険者ギルド本部へと向かい、
「はい。ラッチちゃんはお任せください」
「ごゆっくり。ラッチちゃんはお任せください」
サシャさんとジェレミエルさんに、ラッチは
光の速さで拉致、もといお世話するために
連れて行かれ―――
「まあホラ、シン。
持ってきた食材があるでしょ?」
「そうそう。
まずは例の料理を作るとしようぞ」
すっかり慣れたという妻二人に背中を押され、
彼女たちと共に厨房へと向かう事にした。
「この度は、ようこそウィンベル王国へ
お越しくださいました。
ランドルフ帝国の公式の使者―――
本来であれば、国を挙げての歓迎をするべき
ところですが、
大々的な歓迎は好まないとの事でしたので……
ささやかではありますが、精一杯おもてなし
させて頂きます」
その頃、ランドルフ帝国の一行は……
王宮へと通されていた。
騒ぎを起こした負い目からか、彼らは出来るだけ
目立たないよう交渉したいと要請。
そして国王に拝謁するために、長い廊下を
ティエラ王女、そしてブランを先頭として
案内役の後を歩いていたが、
「どうぞ、こちらへ」
恐らくは王がいるであろう広間への扉が
開くと、
「え?」
「な、何……!?」
中央の玉座に国王が座り―――
その両側には、
獣人族、ラミア族、ハーピーが入り混じった
人間・亜人の子供たちがずらりと並び、
彼らの見ている前で楽器を取り出すと、
「おお……」
「こ、これは……」
ドラ〇エのオープニングが演奏され、
彼らはその荘厳な音色に圧倒される。
一分ほどで一巡の演奏が終わると、
王の前まで来た案内役は一礼して退き、
後には一行が残され、
「本来であれば、外でこの演奏で
出迎えたかったのだが―――
そちらにも事情があるのであろう。
ささやかながら、王宮内での演奏に
留めさせてもらった。
よくぞ来られた、ランドルフ帝国の使者よ。
余がラーシュ・ウィンベルである」
「は、はは……っ」
そこでティエラ王女を始め、彼らは片膝をつき、
礼式に沿ってあいさつに入った。
「あの演奏は素晴らしかった……!」
「我が国にあの楽団ごと持ち帰りたいものだ。
楽譜だけでももらえぬものか」
御目通りのあいさつが終わり、今度は正式に
交渉の場に入るため―――
まずはいったん別室へ通され、そこで身分ごとに
分かれる。
彼らの身の回りをする者や、担当者が決められ、
各自次の準備を行っていたが、
「わたくしとブラン殿は―――
改めてウィンベル王国国王、ラーシュ陛下との
折衝ですね」
「う、うむ。
しかし亜人にあのような文化的な真似が
出来るとは……」
そこでウィンベル王国側の担当者がコホン、
と咳払いし、
「あの楽団には、人の姿となったワイバーンや
魔狼の子供もおりました。
ドラゴンやゴーレムも加わった事が
ございます。
お国の亜人がどのようなものかは存じませんが、
この国では人間と同じように、食事や娯楽を
楽しんでおりますゆえ」
言外に、滅多な事は言わないようにと釘を刺され、
外務副大臣は姿勢を正す。
「それがしは魔戦団副隊長を務める者だが……
出来れば、軍の関係者と会わせて頂けない
だろうか?」
ティグレが自分の担当者であろう男に質問すると、
「はい。
軍事関係者には『全て見せるよう』言い使って
おります。
後ほど、ワイバーン騎士隊の創設者であり
各国にも新設を進めている―――
クロウバー・メギ公爵殿が来られると
思いますので、どうかそれまでお待ちください」
いきなり、最も重要視している空の戦力、
その最高責任者と会わせると言われ、
彼は動揺の色を隠せず、
「よ、よいのか!?
それがしはただの一軍人なのだが」
「陛下より命じられておりますので」
事の成り行きに茫然としているティグレの他、
その他の従者たちは、
「えーと、我々はどうしていれば良いですか?
このまま待機でしょうか」
おずおずとたずねる彼らに、その担当者は
少し考え、
「少々お待ち頂けますか?」
と、歩き出す。
彼らはその先を追うが、そちらは扉ではなく
壁で―――
意図が読めずにいると、担当者は壁にある
飾りのような物に手を伸ばし、それを取る。
「そちらに誰か残っておりますか?
はい、はい……
ランドルフ帝国の従者の方々がですね……
え? はい。わかりました」
壁に向かって何か話し掛けていたと思っていた
担当者が、彼らの方へ振り返ると、
「誰かお一人、こちらまで来て頂けますか?」
何だかわからないが、とにかく一人がそれに
応じ、担当者に近付く。
すると彼が持っていた飾りのような物を渡され、
「これは……?」
するとそこから、声が聞こえてきた。
『ランドルフ帝国の方でしょうか?
初めまして、わたしはハーヴァ・ミラントと
申します』
「!?」
それを聞いた彼は思わず目を見開く。
『王都で楽団の責任者をしておりますが、
今回聞いて頂いた曲の他にも、いろいろと
お聞かせ出来ると思います。
お時間があれば、ですが……
いかがでしょうか?
子供たちも、まだまだ演奏出来ると言って
おりますので』
「あ、は、ははい!
是非に」
『それは良かった!
では、後で係の者が連絡しに参るでしょう。
それまでお待ちを』
そこで通話は終わり―――
彼はその飾りを握りしめたまま立ち尽くす。
「こ、声が……
いったいこれは?」
「ああ、それはアラクネの糸を使った
魔力通話器です。
建物内は元より、今は各国との連絡にも
これを使うよう整備している最中です。
それで返事はどうでした?」
そこで従者は、会話の内容を思い出したかのように
ハッとなって―――
「え、演奏を聞かせてくれると……
連絡の係が来るので、それまで待っているように
との事でした」
「そうですか。
ではしばらくこちらでお待ちを。
それでは失礼いたします」
担当者はそれを聞いて微笑むと、軽く一礼して
その場を離れ……
ランドルフ帝国の一行はそれを目を丸くして
見ていた。
「ティエラ・ランドルフ王女様。
ラモード・ブラン外務副大臣様―――
ラーシュ・ウィンベル陛下がお会いになります。
どうぞお越しください」
別室に通されていた一行の中で、まず二人が
指名され、席を立つ。
「いいですか、ブラン殿。
新生『アノーミア』連邦での対応のような事は
止めてください。
あくまでもわたくしたちの目的は情報収集です。
怒らせては元も子もありません」
「わ、わかっております!
こうなればせいぜい、出来るだけ情報を
引き出してみせましょうぞ!」
別室で待機していたティエラとブランは、
ウィンベル王国国王との折衝を前に、
その方針を確認し合う。
そして案内役に導かれ、目的地の部屋の前に
到着すると、
「陛下がお待ちです。
どうぞお入りください」
うやうやしく一礼すると、案内してきた青年は
扉へと手を向ける。
「では……」
「う、うむ」
そして二人は、その一室に足を踏み入れた。
「……え?」
「……は?」
二人は部屋に入るなり、思わず気の抜けた
声を上げた。
「(どういう……事です?
こんな、何も無い部屋なんて……)」
ティエラは困惑しつつ、状況を整理する。
当初の演奏の歓迎、そして別室で見た魔力通話器、
そこの調度品や装飾にも目を見張ったが―――
ここには何も無い。
無味乾燥な壁に天井、部屋の中央にシンプルな
丸テーブル、その上に申し訳程度に花を飾った
花瓶が置かれているだけ。
その光景に、ブランもまたその意図、意味を
理解しようと頭をフル回転させる。
「(ここが、陛下と会見する部屋だと?
我が国であれば、皇帝陛下とも会うとなれば、
贅の極みを尽くした家具に美術品、壁や窓、
床に至るまで―――
最高級の物を用意する。
帝国の威信を示すために……!
しかしここは、その真逆をいっている……)」
目を白黒させる二人に、
「どうかしましたか?」
ラーシュ陛下は優しく語り掛けると、
「い、いえ」
「し、失礼しました」
そこでようやく二人は、同じテーブルに腰かける。
「(……何も無い部屋……
でも、この方はこの部屋に溶け込んでいる。
余裕とも取れる自信に満ち溢れ、自然体で―――
わたくしたちと向き合ってくださっている。
何のしがらみも無い友とでも話し合うかの
ような……)」
ティエラは安心するかのような感覚を覚え、
「(何も無い、何も……!
まるで、肩書も何も無く、己自身が何者なのか
突き付けられているような……
そ、そうか!
ここは己だけを試される場所なのだ!
身分、地位、魔力―――
それらを抜かして自分に何が残るのか?
ランドルフ帝国の人間として、それを問われて
いるのだ!!)」
ブランはその考えに至り、チラ、と陛下の方へ
向き直る。
「(泰然としておられる……
王として、ウィンベル王国のトップとして―――
ただその身さえあれば足りるとでもいうように。
よいでしょう、ラーシュ陛下……
このブラン、しかと受けて立ちましょうぞ!)」
二人がそれぞれの理解に達した中、
相手の国王はというと、
「(うーん。
シン殿に言われた通りにしてみたけど、
本当にその通りになっているようだなあ。
『可能な限り単純な間取りにする事』
『そうすれば、相手は勝手に深読みする』
まあ主導権を握れるに越した事はない。
さて、『話し合い』をするか)」
こうして、ウィンベル王国のトップと、
ランドルフ帝国の王女、副大臣との会談が
スタートする事になった。
「おおお……
こんな音楽がこの世に存在するとは」
「どの曲も全くもって素晴らしい!
機会があれば、ぜひ帝国で一度演奏して
頂きたい」
一方その頃、あまり身分が高くない、
帝国の従者たちは―――
王宮にある会場で、楽曲を堪能していた。
「お褒めに預かり光栄です」
四十代くらいの、髪の両側の先端をロール状にした
男性が、ペコリと一礼する。
「しかし、その……
失礼ですが、亜人や人外と混合で演奏を
始められたきっかけは何でしょうか?」
差別的な意味ではなく、興味本位で従者の一人が
質問を試みる。
「各種族混合で演奏を始めたのは、実はつい
最近なのです。
そして今聞いて頂いた楽曲も、同時に
作られました。
新しい音楽が、新しい時代と共に生まれた、
とでも申しましょうか」
基本的に全ての作曲はシンが行っており、
(口唱歌で)
それを口止めされているハーヴァは、
予め想定されていた答えを返しただけなのだが、
「なるほど……!」
「確かにこれは、新しい時代を感じました」
「まさに新世界の音楽―――」
従者たちは手放しで絶賛し、
「そう言ってくださると嬉しい限りです。
では、引き続きお楽しみください」
そしてまた、少しの休憩を挟んだ後、
演奏が再開された。
「初めまして。
クロウバー・メギ公爵です」
「婚約者のレジーナです」
別室に最後に残っていた帝国の使者、
ティグレ魔戦団副隊長の元に、
ワイバーン騎士隊の最高責任者の男と婚約者が
現れた。
二人とも絶世の美男美女であり、その紹介に彼は
『なぜ婚約者を?』と首を傾げたが、
それを察してか―――
ブロンドの短髪の青年が婚約者を指して、
「ああ、彼女は隊長の僕が乗る
ワイバーンなのです。
つまり婚約者にして騎士隊の一員でも
あるわけで」
その説明に、三白眼のボーイッシュな女性は
微笑みながら一礼する。
情報量の多さに、彼は何をどう答えたらいいのか
わからなくなるが、
「あ、そ、そうですか。
それがしはランドルフ帝国の魔戦団副隊長、
ティグレと申します。
それで、出来れば空の戦力を視察させて
頂きたいのですが」
自己紹介を返し、何とか話を繋げる。
「話は聞いております。
国王陛下からも、空、陸上、水上―――
希望するのであれば全て見せるようにとの
命令を受けておりますので。
ただ水上戦力はお恥ずかしながら、
あまり航海技術が発達しておりませんので、
見るべきものは無いかも知れませんが」
「い、いえ。
見せて頂けるのであれば何でも」
すでにドラゴンの『乗客箱』、魔狼ライダーの
存在を知っているティグレは……
失礼の無いように接する。
「では、ワイバーン騎士隊の紹介からに
しましょうか。
ああ、そうそう―――」
メギ公爵がふと、説明の途中で言葉を止め、
彼の方へ振り返り、
「そういえば沖合に、二艘の大型船が停泊して
いましたね。
我が国にはあんな巨大な船を造る技術は
ありません。
まったくもって羨ましい限りで」
その言葉を聞いたティグレはサッと顔色を
変えるも、すぐに立ち直って、
「あれくらいでなければ、海を渡っては
来られませんから。
それではよろしくお願いします」
彼は平静を装い―――
視察へ向かう事にした。