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17 - Case2-07 空色の同期の趣味は

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2024年12月09日

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警察学校で辛いと感じたものの中で、やはり一番最初に思い浮かぶのは、プロテクターを身につけ、四㎏以上の盾を持って走る警備訓練だろう。



「身体重いよ、ハルハル。ねえ、これ地面に縫い付けられてない?」

「気のせいだろ。それで重いっていってたら、その盾どうすんだよ」



プロテクターを身につけ全身真っ黒にそまった俺達は、教官からの指示をうけ、駆け足を始める。

颯佐の前では余裕ぶっていたが、これが結構キツい。

毎日のようにランニングがあっても、トレーニングをしていても、日々の疲労が蓄積された身体に鞭を打って、列から外れないよう走るのはやはり辛かった。入校当時は、この体力なら大丈夫だろうと思っていたが、もっと走り込みをしておけば良かったと後悔している。それでも何とかなっているのは、精神面の堅さが影響しているだろう。

一応どうにかなっているが、自分の体力のなさに苛立ちすら感じる。

音を上げるつもりはないが。

だが、颯佐はそれがもっとなようで、弱音を吐いて吐いて吐きまくっていた。勿論、教官の耳に入れば一発どかんなのでコソッと俺に愚痴ってくる。それもどうかと思うのだが。



「やっぱ、先頭はミオミオだね~」

「そうだな」



もう見慣れたものだったが、全く疲れが顔に出ない高嶺を見るとどこにそんな体力があるのかと不思議だった。

高嶺に話を聞けば、やはり彼も中学、高校と体育会系の部活に入っていたらしい。因みに陸上で、立ち幅跳び。だが、それだけであの体力がつくのだろうか。元々生まれ持っていたものもあるのかも知れないが、他に何かあるのではないかと思った。長距離走をやっていたわけでもないだろうし、それでも人より体力があるのは納得できる。



「ハルハル、推理タイム?」

「あ? ああ……彼奴の体力ってどこからわき出てるのかって」

「わき出てるって……ぶっ」



ツボに入ったらしく、颯佐は吹き出した。そんな笑いながら走れるのかよと、心配しつつ、高嶺の方を見る。まるで、彼がこの部隊を率いているかのように、一番声を出していた。まだまだ余裕があると行った感じで、さすがは体力お化けだと思う。



「う~ん、ミオミオは確かに部活動は陸上だったけど、そもそも身体を動かすのが好きで、パルクールとかボルダリングとかそういうの趣味にしてたんだよね」

「パルクール? ボルダリング?」

「ハルハル知らない?」

「いや、知ってるが……いや、マジか」



その二つを趣味にしているって本当に一周まわって尊敬してしまう。全く使う筋肉も違うだろうし、それプラスで部活をやって、趣味でパルクールとボルダリングを……そりゃあ、あの体力になる訳だとさらに納得した。

そして、そういえば今度の週末は高嶺の趣味に付合わされる予定だったが、まさかそのどっちかに……という事なのだろうかと、俺は全身から汗が噴き出してきた。多分、ボルダリングに付合えと言われるんだろうが、それにしても颯佐も高嶺も趣味のレベルを超えている気がした。悪いとは言っていないが、珍しすぎて恐れ多い。

俺は趣味という趣味もなければ、特技も……

そこまで考えて、彼らに一つ勝てるものがあったなと思いだした。まあ、もしかしたら練習すれば追いつかれる可能性もあるのだが、今のところは二人に、同期全員に負けることはないだろう。



「そこ! 列が乱れてるぞ! しっかり走れ!」

「やっば、ハルハル怒られちゃった」

「だな、後三周頑張るか」

「ひ~置いていかないで~」



半泣きになりながら颯佐は俺を追いかけてきた。



「置いていかねえよ。大切な仲間だからな」



と、自分でも臭いと思う台詞が口から出て、俺は恥ずかしくて顔を逸らした。


颯佐は目を丸くしており、またプッと吹き出した。



「ハルハル何それ」

「いや、今のは…………忘れろ! 置いてくぞ!」

「置いてかないって言ったじゃん!」

「前言撤回だ」



俺達は軽口をたたき合いながら、教官から言われた通りのコースを走り、警備訓練を終えた。

どうして、あんな台詞が出たのか。それはきっと、俺は今を凄く楽しんでいるからだと思う。

神津の言葉に縛られ、彼奴のことばかり考えていた日々とは離れて、あの時送れなかった青春を今感じている。真面目すぎると、同期に避けられることもあるが、相部屋の高嶺と颯佐はそんな俺を受け入れてくれた。まあ、此奴らのせいで怒られてばかりだが、それすらも最近では一つの思い出になっている気がする。

出会えて良かったと。さすがに、それを言えば二人は腹を抱えて笑うだろうから絶対に言わないが。



(すげえ、俺、楽しいんだろうな)



今まで感じたことのない仲間意識というか、友人とはこういうものなのか、こういう関係のことを指すのかと改めて分かった気がした。

たった二人の友人を、先頭を走る高嶺を、少し遅れて後ろからついてくる颯佐を、俺は誇らしく思った。

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