「怖くないの?」
僕が声をかけても彼女は硬く口を閉じてじっと僕を見つめるだけだった。
「ふーん、珍しいね。こういうことされたら普通は泣いたりするものだよ?まあ、嫌いじゃないけどさ、そういうの。」
僕は優しく彼女に言った。前回の人と違って彼女は泣かなかった。目に涙は浮かんでいるが絶対に負けまいとする強い意志を持っているようだった。僕は彼女を泣かせてみたくなった。プライドが傷つけられたからではない。ただ単に彼女の涙がどれくらい美しいのかを知りたかった。
僕は聞き取りやすいようにゆっくりと言った。
「今から、君を殺す。でも、騒がれると困るしそれは全く僕の好きな殺し方ではない。痛いのはかわいそうだしね。だから」
僕はそう言って並べられた器具から一本の注射器を持ってきて彼女に見せた。
「麻酔って知ってるよね?簡単に言ったら、いつの間にか意識がなくなってる〜ってやつ。まあ、そのことにも君はもう気づかないんだけどね。」
僕はそう言ってベッドに縛り付けられた彼女に打とうとした。彼女の体はこわばって少し震えている。
「っと、そんなに緊張しないで。打つの失敗しちゃうでしょ。ほら、力抜いて。打つよ〜。」
僕はそう言って打たないままじっと待った。彼女はその間、涙を堪え続けていたが、ついに一筋の涙が彼女の頬をつたって流れた。それは夜空流れる星のように美しく輝いていた。
一度、流れた涙はもう止められない。彼女は涙を流し続けた。流れ星はみるみるうちに天の川のようになった。
「…きれいだな。」
僕はぽつりと言った。無意識に出た言葉だった。
「きれいだ。でも、これからの君はもっと素晴らしい。」
僕はそう言いながら彼女に麻酔を打った。彼女は涙を流しながら意識を失った。
僕は注射器を置いてナイフを取り出した。今日は一段と輝いて見える。
僕は彼女のお腹にナイフを突き刺した。ゆっくり丁寧に刺さるナイフからの感触はやはり素晴らしい。進むにつれて肉が邪魔して入りづらくなるところも快感だった。ずぶ。ずぶ。ずぶ。時々、太い血管に当たり、それを強く刺すと血管から血がブシャッと吹き出してくる。僕は何度も刺して何度も快感を味わった。彼女がいい人だからだろう。今日はいつもより感触が生々しく伝わる。10本目を刺し終えてもなお、僕の興奮は収まらなかった。心臓はどきどきと高鳴り、今にも叫び出したいくらいだった。しかし、ルールはルール。自分で制限している。しかも、これ以上すると体が傷つきすぎて美しくなくなる。
僕は快感に酔いしれながらも彼女に手を合わせた。そしてナイフを洗って、遺体の処理に取り掛かった。
硬直した遺体はただの遺体だった。