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シンヤがレオナードに鍛錬を施した翌々日。
彼とミレアは、グラシアの街の西門に向かっていた。
「よう。早いな、レオナード」
西門の手前で待っていたのは、レオナードと数人のパーティメンバー達だ。
彼らはシンヤとミレアがやってきたことに気付くと、軽く手を振った。
「待たせたかな?」
「いや、ちょうど良い時間だぜ。シンヤ兄貴」
レオナードがそう言う。
初めて会った時とは違い、シンヤへの尊敬や憧れのようなものが感じ取れた。
(なんだか、調子狂うんだよな……)
一昨日までとはまったく違うレオナードの様子に、シンヤは戸惑いを覚えていた。
「今日はよろしく頼むよ」
「おう。任せておけって」
レオナードはそう言うと、自分の仲間達を紹介する。
シンヤの実力は彼らよりも遥かに上だが、冒険者としての経験はまた異なる。
魔物の特性や地理等においては、シンヤはまだまだ未熟なのだ。
その点を考慮して、今回の『グラシア樹海に生息するレッドボアの討伐』という依頼に彼らの同行を許可したのである。
依頼の達成報酬は金貨一枚なので、これだけの人数で取り組むとやや割に合わない。
だが、シンヤはそれで構わないと考えていた。
今回の目的は、大きく二つ。
一つは、迷宮外における魔物狩りをたまには経験しておこうというもの。
もう一つは……
「レオナード。お前の実力がどれほど増しているか、実戦で見るのが楽しみだよ」
「頑張ってみるさ。なんてったって、シンヤ兄貴が鍛えてくれたんだからな!」
レオナードはそう意気込んだ。
ちなみに、例の鍛錬方法であるが、シンヤはレオナード以外には施していない。
極端な手間は掛からないとはいえ、多少の時間は掛かるからだ。
特に男性に施す場合は、精神面の負担が大きい。
なるべくならば避けたいと思っている。
レオナードはあくまで例外だ。
「ふむ。それでは行くとするか」
「ああ。あたしが先頭を歩こウ。レオナードはしんがりを頼ム」
「了解だ」
ミレアが先陣を切って歩き出す。
そして、それに続くようにしてシンヤ達は出発した。
「ところで、シンヤ兄貴。兄貴はどうして冒険者に?」
しばらく歩いた頃、レオナードが尋ねてきた。
「特に大きな理由はないぞ。ま、手軽に稼げるからだな」
「へぇー。でも、それだけじゃねえだろ? シンヤ兄貴はめちゃくちゃ強えし、頭も切れる。金を稼ぐだけなら他にも方法はあるはずだぜ」
「そうだな……。俺は魔法の修練に目がなくてね。魔法を日常的に使いながら稼げる冒険者は、俺に合っていたのさ」
「なるほどねぇ。シンヤ兄貴ほどの腕なら、冒険者の危険性なんてあってないようなものだもんな」
レオナードが納得したように言った。
冒険者という職業は、決して楽ではない。
命の危険は常に付き纏う上に、実入りは安定しない。
それでもなお冒険者を続けていけるのは、強い意志を持っているか、他に行き場がないか、あるいは何かしらの目的がある者達だ。
シンヤのように余裕を持って活動している冒険者は、なかなかに珍しい。
「そういうことだ。レオナードはどうなんだ? お前はなぜ冒険者に?」
「オレか……。オレの場合はちょっと特殊だけどな……」
「レオナード様、それは……」
口を開きかけたレオナードだったが、パーティメンバーに止められてしまう。
その時だった。
「グルルルル……」
突如として茂みから現れた巨大なイノシシ型の魔物が、低く威嚇するような声を上げた。
その体長は三メートル近くもある。
(これがレッドボアか……。思ったよりもデカいな)
シンヤはその迫力のある姿に圧倒される。
だが、よく考えれば以前討伐したクリムゾンボアに比べて一回り以上も小さい。
この程度の相手なら、今のレオナードなら問題なく勝てるだろう。
「レオナード、任せた」
「おうよ! 任せとけって! 【フィジカルブースト】!!」
シンヤが声を掛けると、レオナードは威勢良く返事をして、前に出た。
彼の手には既に双剣が握られている。
「ガアアッ!!」
レッドボアは勢い良く突進してくる。
それを、レオナードは軽々と回避する。
「おっとっと……。さすがに速いな」
「大丈夫か?」
「ああ。これぐらい平気だぜ」
レオナードはそう言うと、再び突撃してきたレッドボアに対して、素早く二刀を振るった。
「ギャウッ!?」
鮮血が飛び散る。
レオナードの攻撃は見事にヒットしていた。
しかし、レッドボアの毛皮は非常に硬いため、致命傷とはいかない。
レオナードの一撃によってできた傷は、すぐに塞がり始めてしまった。
(やっぱり硬いな。それに……)
レッドボアの身体は、筋肉質で引き締まっている。
まるで鋼鉄のような硬さだ。
その上、かなりの回復能力を持っている。
戦いは長期戦が予想されるのだった。