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【第十六話:お巡りさんの家庭訪問】
ピンポーン、と無機質なインターホンの音が、静まり返った黒羽邸に響いた。
ベッドで横になっていた快斗は、ビクリと肩を揺らす。中森警部なら勝手に鍵を開けて入ってくるし、青子ならもっと激しくドアを叩くはずだ。
嫌な予感が胸を過り、快斗は脇腹の痛みを堪えながら、のろのろとインターホンのモニターを覗き込んだ。
画面に映っていたのは、黒いジャケットの襟を立て、気怠そうに煙草を咥えようとして「あ、禁煙か」とポケットに仕舞い直している男だった。
「……う、嘘だろ……っ」
松田陣平。
あの日、高層ホテルの屋上で自分のマントを引きちぎった命の恩人が、なぜか私服姿で我が家の玄関前に立っている。
居留守を使おうと快斗が息を殺した瞬間、モニターの向こうの松田が、まるでこちらの動きを見透かしているかのように、カメラを真っ直ぐに見据えた。
「おい、ボウズ。いるのは分かってんだよ。開けねぇなら、ピッキングでぶち破って入るぞ。元・爆発物処理班の腕前、舐めんなよ」
「……っ、あの人、本当に何なのさ……!」
快斗は観念して、重い足取りで玄関の鍵を開けた。
ドアがゆっくりと開くと、そこにはモニター越しよりもずっと大きく、圧倒的な存在感を放つ松田が立っていた。松田は快斗の顔を見るなり、フッと不敵に口元を緩める。
「よぉ。ずいぶんと顔色が悪いじゃねぇか、怪盗さん」
「……何しに来たんだよ、松田刑事。ここは普通の男子高校生の家だよ。警察が令状もなしに押し入るなんて、違法捜査じゃない?」
快斗はいつものポーカーフェイスを必死に取り繕い、ドアの隙間から松田を睨みつけた。だが、松田はその程度の手品にはびくともしない。快斗の脇腹を庇うような不自然な姿勢と、無理に作った笑顔の裏にある怯えを、鋭い目で瞬時に見抜いていた。
「捜査じゃねぇよ。ただの『家庭訪問』だ」
松田は強引にドアの隙間に足を差し込むと、快斗の肩を大きな手で優しく、けれど拒絶を許さない力で掴み、そのまま家の中へと入ってきた。
「ちょっと、何するんだよ……!」
「暴れるな。あの日ちぎれたマントの金具、お前の脇腹に思いっきり擦れてただろ。痛むんじゃねぇのか」
「っ――」
図星だった。快斗が言葉を詰まらせた瞬間、松田は快斗をリビングのソファへと半ば強引に座らせた。
至近距離で見下ろしてくる松田からは、懐かしい、あの小学生のあの日と同じ、ほのかな煙草の匂いがしている。
「あの夜、大口叩いて逃げた割には、ボロボロじゃねぇか」
松田はソファの前にしゃがみ込み、快斗の目線に合わせると、サングラスを外して真っ直ぐにその素顔を見つめた。
逃げ場のないリビングで、ついに『警察官』と『怪盗』が、お互いの仮面を完全に外した状態で向き合うこととなった――。
コメント
2件
「怪盗と警察」という対面じゃなくて「一人の人間として」向き合うのいい……! 快斗くんの背負ってるものは軽くなるのかな、
お巡りさんの家庭訪問ってタイトル、めっちゃ好きです。笑 松田刑事が強引だけど優しくて、サングラス外して真っ直ぐ目を見るところ、グッときました。怪盗と警察の距離感が絶妙で、これからどんな関係になるのか気になる……!
miけぴン
46
花梨
54,611
48
#一般人
유리
56