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【第十七話:解かれる包帯、語られる真実】
「服、捲りな」
松田はどこからか見つけてきた救急箱を床に置き、リビングのローテーブルに腰掛けてそう言った。
快斗はソファの上で、不満げに口を尖らせる。
「……これくらい、ほっとけば治るよ」
「治るわけねぇだろ。ちぎれたマントの金具が深く擦れて、血が滲んでやがるじゃねぇか。ほら、さっさとしろ」
拒絶を許さない松田の低い声に、快斗は諦めておずおずとTシャツの裾を捲り上げた。白い肌の右脇腹に、痛々しい赤黒い擦り傷と青あざが広がっている。
松田はそれを見るなり、小さく眉を寄せた。しかし、その指先が快斗の傷口に触れた瞬間、驚くほど優しく、そして丁寧な手つきに変わる。
「……ッ」
「痛ぇか? 悪りぃな。だが、爆弾の配線と同じでよ、こういうのは最初の手当てをサボると後で厄介なことになるんだ」
消毒綿で傷を拭い、手際よく軟膏を塗って包帯を巻いていく。その無駄のない指先の動きは、かつて小学生の快斗の目の前で爆弾を解体した、あの美しく鮮やかな指先そのものだった。
快斗はじっとその手元を見つめながら、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
「手当てのついでだ。……本題に入ろうか、ボウズ」
松田は包帯をパチンと留めると、視線を快斗の瞳へと真っ直ぐに向けた。サングラスの無いその目は、刑事としての鋭さと、あいつを救いたいという一人の男としての強い光を宿している。
「お前の親父さん、黒羽盗一のことだ。8年前のマジック中の事故……あれ、本当は事故なんかじゃねぇんだろ」
「っ……」
快斗は息を呑み、思わず視線を逸らそうとした。しかし、松田は快斗の顎を大きな手で軽く掴み、強引に自分の方を向かせた。
「隠すな。お前が世界中の巨大な宝石ばかりを狙っちゃ、月光に透かして持ち主に返してる理由はなんだ。親父さんの命を奪った犯人どもが探している、特別な宝石――『パンドラ』を先に見つけ出そうとしてるからだろ」
「……どこまで、調べてんだよ……」
快斗のポーカーフェイスが、完全に崩れ落ちる。
震える声で呟く快斗の頭を、松田はあの日と同じように、少し手荒に、けれど愛おしそうにクシャクシャと撫でた。
「全部だよ。中森のオッサンや一課のデータベースから、お前に関する点と線を全部繋ぎ合わせた。……お前が夜な夜な戦ってる相手は、その『パンドラ』って不老不死の石を狙って、人を殺すことも厭わねぇクソッタレな密輸組織だな?」
快斗の瞳から、一筋の涙が溢れ、松田の指先に触れた。
誰にも言えなかった。幼馴染の青子にも、世界中の誰にも明かせなかった、たった一人での孤独な戦い。それを、この命の恩人はすべて理解した上で、自分の前に立ってくれている。
「なんで……なんでそんなことまで首突っ込むんだよ。あの人(降谷)も言ってたろ、俺は犯罪者なんだ。これ以上関わったら、松田の兄貴まで巻き込まれて――」
「巻き込まれてやるよ、いくらでもな」
松田はフッと不敵に笑い、快斗の涙を親指でそっと拭った。
「俺の大切なボウズが、一人で命削って泥棒の真似事してんだ。それを黙って見てるほど、俺の肝は小さくできてねぇんだよ。……その組織の連中、今度は俺が全員『解体』してやるからよ」
その力強い言葉に、快斗はついに耐えきれず、松田の黒いジャケットの胸元に顔を埋めて、子供のように声を上げて泣き出した。松田は何も言わず、ただその細い背中を、大きな腕でしっかりと抱きしめ返すのだった。
コメント
2件
松田さん……「巻き込まれてやるよ」ってかっこよすぎる……!!
おお、第十七話……ついに来ましたね、このシーン。松田さんが快斗の戦いを「全部」理解した上で、自ら巻き込まれに行く決意を固める場面、胸が熱くなりました。特に「爆弾の配線と同じでよ」と手当てをしながら告げる口調に、あの日から変わらない信頼と覚悟が滲んでいて。快斗が涙を隠せずに子供みたいに泣くのも、8年分の孤独がようやく報われた瞬間だなと。松田さんの「俺が全員解体してやる」は名言ですね。設定の伏線回収も美しく、最高の読後感でした。