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│ 第10章 最後の十分 │
時計は午前0時12分を指していた。
「……確認したいことがある」
吉田が言った。
全員が、吉田を見る。
「事件当日。被害者が最後に確認された時刻は、23時40分。で、発見されたのが23時50分。つまり、空白は十分間」
塩﨑がゆっくり頷く。
「その十分間、誰がどこにおったか」
吉田は、 机に紙を置いた。
「ここが重要」
「まず勇斗」
佐野は、静かに顔を上げた。
「勇斗は鍵を持っていた。でも、管理室には入っていない」
「入ってない?」
「足跡の向きが違う。入室じゃなく、立ち止まっただけ」
刑事も、その資料を確認する。
《…確かに》
「鍵は、“使われたように見せられただけ”」
佐野が、息を吐いた。
「次に舜太」
曽野は、少し身構えた。
「管理室前の写真。 あれは舜太が撮ったものじゃない。 位置情報と、影の向きが合わない。 撮影時刻が、五分ずれている」
「加工……?」
「違う」
吉田は首を振る。
「別の写真に、舜太のスマホ情報が被せられた」
「つまり、誰かがスマホを一瞬だけ使った」
曽野は、はっとした。
「……ロビーに置いたまま、 席外した時」
「そんで太智」
「俺?」
「うん。足跡」
「サイズは一致する。 でも、歩幅が違う。これは焦ってない人間の歩き方。つまり、事件を起こした人のものじゃない」
塩﨑は、 苦笑した。
「つまり、 俺はただの野次馬」
「残るは____」
吉田は、 少しだけ間を置いた。
《犯人、 じゃない》
警察官の言葉に全員が、 顔を上げる。
《今回、 真犯人はいない》
「は…?どういうこと?」
佐野が聞く。
《被害者は、 事故死だ》
刑事が、 低く言った。
《地下通路の非常灯、老朽化で、 短時間だけ消える。その十分間、足を滑らせ、転落。 即死だった。》
重たい沈黙がら落ちた。
「じゃあ……」
曽野が声を震わせる。
「俺たちは……」
「犯人を作ろうとしただけ…か、、」
吉田が言った。
「不安だった」
「理由が欲しかった」
「偶然が重なった事故を、 誰かのせいにしたかった」
「それぞれが、 無意識に…」
山中が、 静かに口を開いた。
「地下通路を知っていた理由」
全員が山中を見る。
「事故が起きた直後、 非常灯が一瞬消えた。 その時、ロビーにいた全員が、それを気にしていなかった。というよりも気づかないふりをした」
「……怖かったから。 “見なかったこと”に したかった。 だから、 後から理由を探し始めた」
「"犯人という形"で」
誰も、 否定できなかった。
「でも」
山中は 続けた。
「一つだけ、違うことがある。事故が起きた瞬間、被害者は、誰かに呼び止められていた。それが、最後の十分… 呼び止めたのは____この中の誰か…」
空気が、 張り詰める。
「でもそれは、殺意じゃない」
吉田が、静かに言った。
「ただの会話。ただの偶然。それを “罪”にする必要はない」
長い沈黙のあと、刑事が、深く息を吐いた。
《事件性なし。全員、解放だ》
外に出ると、夜明け前の空が薄く明るみ始めていた。
「……終わったな」
佐野が、ぽつりと言う。
「終わった」
塩﨑が答える。
「でも、何もなかったわけやない」
曽野が、空を見上げた。
「俺たち、ちゃんと向き合った」
山中は、小さく笑った。
「犯人を探すより、真実を見る方がずっと怖いんだな、笑」
吉田が最後に言った。
「でもそれを選んだ。だからこれでいいんじゃない?」
朝日が差し込む。
五人は何も言わず、同じ方向へ歩き出した____