テラーノベル
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職業柄、声には敏感な方だと思う。
何より今は声優業にも力を入れているから、他のメンバーよりも声への興味は強いと自負してる。
だからそのせいかもしれない。
蓮の声に、人一倍反応してしまうのは。
「佐久間くん」
呼ばれて肩がびくっと反応するのが自分でも分かった。
一瞬間を置いて、顔を作ってから振り返る。
「どーした、蓮?」
「うん、あのさ…」
会話の中身は全然普通のこと。それなのに蓮が声を発する度に胸がきゅうってなるのを、必死に抑えてる。
いいから会話に集中しろよ俺!
「分かった、そうする。ありがとう佐久間くん」
「いや、気にすんな! こっちこそよろしくな」
笑顔で去っていく蓮に、同じく笑顔で手を振る。
蓮の姿が見えなくなってから、どっと疲れが出て近くの椅子に座り込んだ。
蓮が話しかけてくるだけでこれとか、マジで身がもたないんだが?!
「ねえ、佐久間」
「うわぁ! びっくりした!! 何だ阿部ちゃんか…」
「何だって何。めめと態度が違い過ぎない?」
「そ、そそそんなわけないだろ?!」
「いや動揺しすぎ。小学生でも察しちゃうからなそれ」
最近の小学生すごいからねーと言いながら阿部ちゃんが俺の隣に座った。
確かに今の小学生はだいぶ大人っぼいよな。姪っ子に彼氏とか出来たら俺泣いちゃうんだけど。
それはともかく。
「で? 結局佐久間は、めめの声だからドキドキしてるのか、それとも好みの声だからドキドキしてるだけでめめは関係ないのか。どっち?」
「いや、直球! 阿部ちゃんストレートに聞きすぎ!!」
「回りくどく聞いたって仕方ないだろ。で、どっち」
思わず言葉に詰まる俺と、黙って答えを待ってる阿部ちゃん。
どうやら見逃してはくれないみたいなので、おそるおそる口を開いた。
「あ、ある意味どっちも…」
「何だよある意味って」
「好きな人の声だからドキドキすんのは当たり前なんだけど更にその上好みの声だったりするもんだから余計にドキドキするというかもうそれ通り越して心臓バクバク言い過ぎてやばいっていうか」
「オタク特有の早口は止めなさい」
阿部ちゃんにぴしゃりと叱られた。
恥ずかしさを誤魔化すためにわざと早口にしたのはバレバレだったみたいだ。
だって普通に言えないだろ、こんな話。
「まあ分かる気はするけどね。好きな人の声って特別だし。その上めめの声って低めで良い声だしね」
「えっ、阿部ちゃんまさか…」
「違うよ! 羨ましいって話。俺も佐久間もそういうタイプの声じゃないだろ」
それはそう。声優のオーディション受けるにしても、このキャラは自分の声質じゃ無理かなっていうのはどうしたってある。
阿部ちゃんも落ち着いてはいるけど、どっちかというと可愛い声だしな。
蓮の声は、低くて落ち着いてて、全身に響くというか…。
「…思い出しただけでそれ? 重症だね」
「俺もそう思う…」
机に突っ伏した俺の頭を阿部ちゃんがぽんぽんしてくれる。
本当に重症だよ。
だって自分でコントロール出来ない。いつでもどんな時でも、蓮の声に全身が反応する。
ドキドキして止まらなくなる。
「どうしたらいいんだよ〜!」
「もうめめに告白しちゃえば? このままだとバレるのも時間の問題だと思うし」
「…気まずくなんのやだよ、俺」
「振られる前提? 言ってみないと分からないじゃん」
「分かるよ! 俺そういう対象じゃないもん絶対。話せなくなるのも嫌だし、仕事で絡みづらくなるのも困るもん〜!」
蓮の周りには綺麗な人カッコいい人がわんさかいるのに、俺が選ばれるわけない。
先輩やメンバーとして好かれてる自信はあるよ。でも恋愛対象の範囲内に入ってるとは思えない。
だってそもそも、釣り合いが取れない。
俺と蓮じゃ、似合わないじゃん。
「珍しくネガティブ」
「恋愛ってこぇーな」
そうだねって笑って、阿部ちゃんが遠くを見た。どうやら誰かに呼ばれたみたいだ。
「ま、拗れる前に何とかしなよ」
「簡単に言うなよぉ。どうしたらいいか分かんねーもん」
「そうだね。一つだけ予言しておいてあげるよ」
そう言った阿部ちゃんは優しく、でもすごく楽しそうに笑った。
「多分近い内に言わざるを得ない状況になると思うよ?」
そんな不穏な阿部ちゃんからの予言に「そんなまさか」と呑気に笑ってた数時間前の俺。反省しろ。
今、正に、俺ピンチ。
「ねえ、佐久間くん。何で俺のこと避けてるの?」
まさかのリアル壁ドンに、至近距離から見つめてくる国宝級イケメン。更に少し苛立っているからか普段より低めの声。
何このコンボ。俺を殺しにきてるだろ。
「さ、避けてなんか」
「その状態で? 説得力なさすぎだよ」
蓮の言葉を聞きながら、そりゃそうだと思う。
思いきり目を逸らしてるし、身体は何とか逃げようとしてるし。これで避けてないって方が無理がある。
分かってる。分かってるけど!
「ほ、ほんとに避けてるわけじゃなくて」
「じゃあ、どういうわけなの?」
「いや、だから」
近い! 近いんだって!!
お前自分の顔面が凶器だって自覚ある?!
より近付いてきた蓮の顔に、出来るだけ顔を背けたけどそれが間違いだった。
顔が近付いた分、蓮の口元が耳の側にきて。
あとは察してください。
「佐久間くん、ちゃんと聞いてる?」
蓮の声に肩がびくっと震えた。
至近距離でのこれは、さすがにやばい気がする。
「き、いて、る」
「だったらちゃんと答えて。どうして避けるのか。俺、佐久間くんに何かした?」
肩だけじゃなく、全身が震える。
体温が一気に上がって、頬が熱を持ってるのが分かる。
ドキドキが止まらなくて、もう泣きそう。
正直、耳を塞ぎたい。
お願い、蓮。これ以上喋らないで。
「どうして何も答えてくれないの、佐久間くん。…佐久間くん?」
さすがに蓮も不審に思ったみたいだ。
言葉を止めて俺の顔を覗き込んで、蓮が息を呑んだのが分かった。
もうやだ。絶対変に思われてる。
「何でそんな顔してるの…」
ほら、やっぱり。やばい泣くかも。
これから蓮に何て言われるかなんて、想像もしたくなくて。俯いてぎゅっと目を瞑った。
「…もう、限界」
「え?」
蓮の言葉の意味が分からなくて顔を上げた時、更に近くなっていた距離にびっくりする。
少し動いたら唇が触れそうなくらいの近さ。
俺の心臓の音、蓮に聞こえてるんじゃないかってくらい。
「あ、あの…蓮? ちょっと離れ…」
「…ねえ、可愛すぎなんだけど。そんなに真っ赤になって目潤ませて…誘ってるの? それとも俺の理性試してるの?」
「さ、さそ?」
「その顔、他の誰かにも見せた? …俺以外に見せないでよ」
「な、何言って…や、ちょっと待って蓮。だ、駄目、止まって?」
「無理。止まれない」
段々と身体を密着させてくる蓮に心臓がもたない。
でも、ストップをかけても蓮は止まってくれなくて慌てる。
何で? どういうつもり?
そうこうしてる内に顔を上げさせてられて、至近距離から見つめられた。
そして、囁く。
「ねえ、佐久間くん。もうこれ以上我慢するの無理。俺に食べられて」
「…た、べ…? あ、ちょっ、やぁ…っ」
首筋にちゅぅっと吸い付かれて、身体が震える。
食べるって、そういう意味?
俺このまま、蓮に食べられちゃうの?
そんなことを考えてる間にも、蓮の舌が首筋をなぞったり耳朶をくすぐったりして。その度にびくびく反応してしまう。
「んんっ、やぁ…れん、待って、蓮」
「そんな声出して。本当に止めていいの…?」
「…そ、れは」
「ねえ、本当に止めて欲しい? それとも、俺に抱かれてもいいって少しでも思ってくれた…?」
コメント
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水瀬さん、今回も素敵なお話を読ませていただきありがとうございます♡声フェチのさっくんだからこそというのもありますが、声をここまで掘り下げて書かれていて本当に素晴らしいです!また作品を楽しみにしております☺️✨