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「やはりオークだな…」
俺の視線の先にはオークがいる。
「さっきの人がボスを倒したタイミングで向かえば、私達も素通りできるのでは?」
珍しくエリーがマトモそうな発言をしたが……
「それは無理だろう。倒したらライルはすぐに次の階層に行くだろうし、もしかしたらこの森で休憩や仮眠を取っているかもしれない。
それにこれは予想だが、何も倒さなくても次の階層に行けるんじゃないかと思っている」
「うん。私も」
聖奈さんもか。
「だってもし倒さないと無理なら、ボスも態々あそこで待つ意味ないもんね。彼は一人だったから倒さずに通っている可能性が高いと思うの」
そうだな。
雑魚を殲滅しないとボス戦の邪魔になるし、仮にボスだけ倒しても、周りに雑魚が沢山いたら魔石を拾うのも大変だ。
拾わなければただの倒し損だしな。ボス魔石はオーガと同じくらいの大きさがあるし。
それにしても、一人でこんなところまでズルせずにこれるなんて凄いな。
俺は転移があるからこんなだけど、なかったら精神的にやられてるかも。
「兎に角、人は人、俺たちは俺たちだ。地道に倒して進もう」
「賛成です!」
流石ミラン!君は俺だけのイエスマンで居てくれ!
その後、俺達は前回の階層と同じく、オークを倒して中心部に向かった。
「やはりウジャウジャいるな。100以上の反応があるぞ」
「ライルさんはどうやって一人で突破しているのでしょうね?」
エリー!イケメンか!イケメンが気になるのかっ!?
まぁそれは仕方ないな。俺も美女なら気になるし。
「圧倒的なスピードで通過しているか、もしくは俺の索敵にもひっかからないくらいの隠密行動ですり抜けてているかじゃないか?」
「なるほど…私達には無理そうですね」
正攻法じゃないからな。もしかしたら暗殺者よろしく、一人で地道に倒している線もなくはない。
それはあまりにもカッコ良すぎるから認めたくないけど。
「よし。俺達は俺達のやり方で突破するぞ」
「はい!」
流石ミラン!良い返事だ!
しかし、このやり方がいきなり通用しなくなるとは、思いもよらなかった。
『フレアボム』
前回同様、爆発の火魔法を放ち戦闘が始まった。
その後すぐにエリーがRPGをぶっ放す。
拙いか?ゴブリンと違いオークの数がそこまで減っていない。
「来るぞ!」
しかし、敵は待ってはくれない。俺達も奇襲を待たなかったように。
「撃ちます!」
ミランと聖奈さんが弾幕を張る。前回より的が大きい分、外すこともないが……
「エリー!詠唱の前にRPGに次弾装填だ」
ゴブリンより耐久力が高く、最初の攻撃で致命傷を負わなかった傷だらけのオークが混じっている。
エリーの風魔法連発よりRPGの方が殺傷能力が高い為、この選択を取った。
少し怖いが仲間を信じて俺は前に出る。
「セイくん!?」「セイさん!」
二人が驚いているが構っていられない。すでに弾幕を越えてきたオークが迫ってきているからだ。
「せいっ!やっ!はっ!」
ザシュッザンッシュンッ
おっ。最後の斬り方は良かったな。やはり修行は実践に限るな。
俺は迫り来るオークをみんなに近寄らせないように、斬り 伏せていく。
それを暫く続けると徐々に数を減らすオーク。漸く終わりが見えてきた。
それが俺の油断となる。
「きゃあっ!?」
その油断は、現実となって現れてしまった。
「エリー!?」「エリーちゃん!」「エリーさん!」
悲鳴が聞こえた方を見ると、少し離れた位置にいたエリーがオークに殴り飛ばされていた。
「この野郎っ!」
ザシュッ!
首が胴体から離れたオークに見向きもせず、俺はエリーの元に駆け寄った。
「こっちは大丈夫だ!前に集中しろ!」
俺はこちらを眺めている二人に指示を飛ばす。
良かった。
二人が呆けてくれたお陰で、何故か冷静になれた。
「エリー。聞こえるか?」
「…はぃ。私…生きてます…?」
良かった。目を開けてくれた。だが、頭から血を流している。精密検査をしてやりたいが、この世界にそんなものはない……
吹き飛ばされた後、ピクリともしていなかったから怖かった……
こういう時、あまり動かさない方が良いとは知っているが、このままには出来ないので、うつ伏せから仰向けにして、頭を抱えた。
「悪いな。嫁入り前なのに頭に傷をつけてしまった」
俺は努めて笑顔で会話をした。
「…セイさんが責任を取って結婚してくれるなら許しますよ。ふふっ」
「他に痛いところはないか?」
冗談が言えるなら脳に異常はないか?
「身体中が痛いですね…私…枯れ葉みたいに飛んでいきませんでしたか?」
「そうだな。エリーが空を飛ぶ魔法を開発したのかと思って驚いたぞ」
くだらないことを言って痛みが紛らわせられたらいいのだが……
「二人の…二人の援護に向かってください…」
「わかった。すぐに戻るから待っててくれ」
俺は鞄から毛布を出すと、それを丸めて枕にしてエリーを寝かせた。
視線を戦場へ戻すと、聖奈さん達は数が少なくなっているオークを問題なく倒しているのが伺えた。
近くに寄って声を掛ける。
「意識はある。しかし、俺には判断がつかん。ここで手をこまねいていても仕方ないから帰りたいが、どう思う?」
「そうだね。帰るのには賛成だけど、一旦この階層は越えよう。もし、私がエリーちゃんの立場なら、そうしてくれないと何の為に怪我をしてまで頑張ったのかって思っちゃうから」
うーーーん。俺は今すぐにでも転移してやりたいが……
でも、そうだな。エリーなら必ずそう思うだろうな。
「わかった。俺はボスを倒してくるからここは任せた。俺に当たる事は気にせず、オークを倒してくれ。出来るか?」
「うん!」「はい!」
二人の頼もしい返事を聞いて、俺はオークの集団へと飛び込んでいく。
「様子はどうだ?」
オークのボスを倒した俺は、みんなのところに戻って聖奈さんにエリーの容体を聞いた。
「今は痛み止めの薬と抗炎症剤を投薬したところ。セイくんも無事に倒せたみたいだね?」
「ああ。運んでいいなら今すぐに行こう」
聖奈さんは医者でもなければ検査する機械もない。なんとも言えないが、ここにいるよりはということで、俺がエリーを抱えて次の階層を目指した。
「そんな気はしていたが、やはりか…」
俺の眼前には膝丈の草が生い茂っている。他には何も見当たらない。
「草原だね。とりあえず帰ろう?」
「そうだな。詠唱中は見張りを頼む」
俺はエリーを抱えたままで両手が塞がっているので、聖奈さんに魔導書を持ってもらい、ミランに見張りを頼んで詠唱へ入った。
『テレポート』
その言葉を残し、俺達はダンジョンから忽然と姿を消した。
リゴルドーの家に戻った後は大忙しだった。
ミランはリゴルドーの薬師の知り合いの元に駆けて行き、聖奈さんは出来る治療を行った。
聖奈さん曰く、傷口を綺麗にしてなるべく傷跡が残らない様にしたくらいだとか。全身の打撲は大した事はない様で、骨折などもなさそうだと。
もちろんレントゲンなんてないから、ヒビなどは不明だ。
俺は王都に飛んで、エリーの両親を連れてきた。
こんな事になって申し訳ないが、少しでもエリーの活力に繋がれば……
夜
「エリーちゃん。食欲はどうかな?お粥作ったけど、食べられそう?」
「はい!お腹ぺこぺこですっ!」
どうやら頭も問題ないようだ。
いや、厳密にはドジっ子だから問題がないわけではないが、そういうことではない。
「吐き気がないなら一先ずはって所か?」
「そうだね。明日には傷口が腫れて、身体の痛みも増すと思うけど、大丈夫って認識でいいと思うよ」
ほっ。良かった。
エリーの両親はこれくらいなら問題ないですよ。と言って、エリーが目覚める前に帰ってしまった。
俺達が心配し過ぎなのか?それとも異世界の田舎が逞しすぎるのか?…謎だ。
ちなみにミランの両親とエリーの両親はこんな形での初顔合わせとなってしまった。
『美しい奥様で羨ましい限りですな』
『いやいや、そちらの奥さんこそ可愛らしく、妻よりも遥かに若く見えますな』
もちろんこの二人は後で死線をくぐった。
『ミランちゃんはとってもお利口で羨ましいですわ』
『エリーちゃんは魔法がお上手で雲の上の存在ですわ』
母親は幼稚園の保護者会のような会話だな。保護者会知らんけど……
『ミランはセイさんにとっても良くしていただいて…』
『あら?うちの子もセイさんにおやつを…』
ちょっと待て。雲行きが怪しくなるからやめろ。
そんなことが同じ室内で繰り広げられていたのに、爆睡していたエリー。
育ち盛りだからな。え?もう手遅れ?
翌朝、包帯で頭を包んだ痛々しい姿のエリーは開口一番。
「昨日は迷惑を掛けました」
「いや、迷惑なんかじゃない。むしろ遊撃の俺がしっかりしていなかったから、こんな事になってしまったんだ。本当に済まない」
責任の所在は、全てリーダーである俺にあります。これは嘘でも冗談でもない。
しかし、不幸中の幸いか、怪我で済んでよかった。取り返しのつかない事なんて、山ほどあるからな。
「セイさん。暫くチームを離れます。このままだとまた足手纏いになってしまうので」
「おいおい。何を言ってるんだ?俺達はチームだろ?じゃあ足りない所を補い合うのがチームじゃないのか?」
待て待て!知ってるぞ!これは俺が告白もしていないのにフラれるパターンだ!
あっ!これ!漫画で読んだ展開だ!だ。
普段の子供のような愛らしくも憎めない表情ではなく、今は俺よりも大人な表情でエリーは言葉を続けた。
「セイさんは優しいのでそう言ってくれますが、普通の冒険者達はどうですか?私みたいな足手纏いをパーティに置いてますか?」
「待て。一応はっきりさせておくが、エリーは足手纏いなんかじゃない。これは間違えるな」
「うん。そんなことを言ったら、このパーティで一番ダンジョンに必要ないの私だもん」
うん。聖奈さん。自覚があったのね。
「それでもです。私にはセイさんと一緒に冒険するのに足りない所だらけです。もう一度魔法の鍛錬からやり直します」
「…そうか」
「ちょっとセイくん?まさか認める気?」
聖奈さんは泣きそうな、そしてどこか諦めている表情で、俺を詰めてくる。
「エリー本人が決める事だ。でもな、俺達はパーティでもあるが仲間でもある。パーティの一時離脱は認めるが、チームを離れることは認めんぞ?」
「はい!必ずパーティに戻ります!」
言ってしまった…本人の意思を尊重したけど…泣いて良いかな?
「私は水都で鍛え直すので、セイさん達はダンジョンで頑張って下さいね!」
「わかった。送ろう」
こうしてエリーとは、別行動の日々が始まった。
生きていてくれたなら、それでいい。
叶うなら、その笑顔を近くで見守らせてほしい。
様々な想いが、俺の胸に去来した。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
???「くっ、こんな事になるならエリーに腹一杯おやつを食べさせてやればよかった」
ミラン「私には?」
???「悪いなミラン。あれがきっかけでエリーが一番だって気づいちまったんだ」
ミラン「セイさんは『気付いたんだ』と言います。やはりそれは無理があるセリフですね」
エリー「やっぱりです?明日朝に言われないか期待したのですが…」
聖奈「おやつの可能性はあるかもね。でも、セイくんはビビりだから一番なんて決めれないと思うよ?」
聖「おう!俺のいないところでしてくれ!」
今日も後書きがはちゃめちゃです!
ここまで読んで頂きありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!