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どれくらい眠っていたのか、分からない。
夢も見なかった。
「……涼ちゃん」
低い声に呼ばれて、ゆっくり意識が浮上する。
元貴だった。
布団をめくると、
寝癖のついた髪がそのまま揺れて、
涼ちゃんはぼんやり瞬きをした。
赤いままのほっぺ。
少し腫れぼったい目。
まだ、現実に追いついていない顔。
「起きれそう?」
元貴がそう聞くと、
涼ちゃんは一拍遅れて、こくりと頷いた。
布団から体を起こすと、
足元が少し不安定になる。
すぐに、若井が支える。
「ゆっくりでいい」
控え室の外には、監督がいた。
涼ちゃんの様子を見て、
何も言わずに一度だけ頷く。
「今日は病院、行ってきな」
はっきりした声だった。
「撮影は、藤澤がいないところから始める。
気にしなくていいから」
その言葉を聞いても、
涼ちゃんはすぐに反応できなかった。
迷惑をかけている、という思いと、
止めてもらえた、という安堵が、
同時に胸に広がって、整理がつかなかった。
「……すみません」
やっと出た声は、かすれていた。
監督は首を振る。
「今はそれ言わなくていい」
それ以上、何も言わなかった。
外に出ると、
空気が少し冷たく感じる。
その感覚だけが、妙に現実的だった。
涼ちゃんは、
元貴と若井に支えられながら歩く。
自分の足で立っているはずなのに、
どこか借り物みたいだった。
車に乗り込む前、
一瞬だけ振り返る。
撮影現場は、もう動き始めている。
自分がいなくても、回る世界。
その事実が、
少し寂しくて、
少し救いだった。
車が走り出す。
窓の外を眺めながら、
涼ちゃんは何も言わなかった。
元気なふりも、
頑張る宣言も、
今日は、出てこなかった。
ただ、
二人に支えられたまま、
静かに病院へ向かった。