💚(…あれ?)
クイズの勉強をしていた阿部亮平は、ふと顔を上げた。
何かがおかしい。
いや、おかしいというより、静かすぎるのだ。
いつもなら、この楽屋には「うぉー!」「神作画ー!」なんていう、天真爛漫な声が響き渡っているはずなのに。
声の主である佐久間大介は、確かにそこにいた。
ソファの隅っこで、スマホを食い入るように見つめている。 大好きなアニメを見ているのだろう。
だが、いつもと決定的に違うのは、彼が一切の音を発していないことだった。
他のメンバーは談笑したり、ストレッチをしたりしていて、まだその異変には気づいていない。
💚(…気のせい…かな…)
一度はそう思い、勉強に戻ろうとした阿部だったが、やはり気になってしまう。
もう一度、そっと佐久間の方に視線を送る。
スマホを持つ手が、ほんの少しだけ震えている。画面を照らす光のせいで分かりにくいが、顔色も心なしか青白い。
呼吸が、いつもより少しだけ速い気がする。
💚…ね、佐久間
阿部は静かに立ち上がると、佐久間の隣にゆっくりと腰を下ろした。
💚ちょっといい?
🩷ん…?あ、阿部ちゃん!どしたの?
振り向いた佐久間の笑顔は、いつもと同じ太陽のようだった。
だが、阿部の目は誤魔化せない。
その瞳は潤んでいて、無理に作った笑顔の裏に、必死で痛みをこらえている色が見えた。
阿部は何も言わずに、すっと自分の手の甲を佐久間の額に当てた。
💚…っ!
触れた部分から伝わる、燃えるような熱さ。
💚やっぱり…。熱高いよ、これ
🩷えー?そお?気のせいでしょ!俺、元気印だから!
佐久間はへらっと笑ってごまかそうとするが、その声は明らかに掠れていて、説得力のかけらもない。
💚大丈夫じゃない人は、みんなそう言うの
阿部は静かに、でも有無を言わさぬ口調で言うと、佐久間の手からスマホをそっと取り上げた。
💚はい、アニメはまた今度。今は体の電源をオフにする時間
🩷えー!いいとこだったのに!
💚だーめ。ほら、横になって
有無を言わさずソファに横にならせると、佐久間もさすがに抵抗する気力がないのか、大人しくそれに従った。阿部は自分のカバンから、常備している冷却シートを取り出すと、そのパッケージを丁寧に開ける。
🩷…阿部ちゃん、なんでそんなの持ってんの
💚念のためだよ。いつ誰が熱を出しても、すぐ対応できるようにね
そう言って、阿部は冷たいシートを佐久間の額に優しく貼り付けた。
ひんやりとした感触が気持ちよかったのか、佐久間は気持ちよさそうに目を細める。
🩷…あべちゃん…
💚ん?
弱々しい声で呼ばれ、阿部は屈んでその顔を覗き込む。すると、佐久間の手が伸びてきて、阿部の服の裾を、きゅっと弱々しく掴んだ。
🩷…どっか、いかないで…
いつもは自信満々で、周りを引っ張っていくような男が見せる、不意の甘え。その破壊力は、阿部のどんな想定も遥かに超えていた。
💚…っ、いかないよ。どこにも
ドキドキと高鳴る心臓を隠しながら、阿部は掴まれた手とは逆の手で、佐久間の手を優しく握った。
💚佐久間が眠るまで、ここにいるから。大丈夫
その言葉に安心したのか、佐久間はこくんと頷くと、すぐにすーすーと穏やかな寝息を立て始めた。
その無防備な寝顔を見ながら、阿部は心の中で呟く。
💚(早く元気になって、またうるさいくらいに笑ってよ。君がいないと、世界が少しだけ、静かすぎるから)
握った手に少しだけ力を込めると、眠っている佐久間が、きゅっと握り返してきたような気がした。
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佐久間さんかわいい🩷 阿部ちゃんもよく佐久間さんのこと見てるね!