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「ちょっーー ちょっと二人して何勝手な事言ってんのよ! コリンまで……」
ミオが痴話で盛り上がる二人に声を荒げる。コリンというのは、どうやら氷の精霊の呼び名の様だ。
コリンはユキに、ミオの精霊使いが荒い事に愚痴を溢している様に見える。
実際二人を見ているとそうだろう。
「でも……主人の事が本当に好きなんですね」
ユキヤはコリンの心を見透かした様に語り掛け、ミオの方を振り向く。
「ああ、失礼しました。でも本当に良い精霊ですね。二人の絆の深さが良く分かりました」
ユキは穏やかな表情でそう語り、コリンはミオの下へと戻っていく。
「……さっきの氷を消した事といい、コリンの懐き具合といい、アンタ一体何者なのよ?」
ミオは“きょとん”とした表情でユキへ問い掛ける。その表情には先程までの敵意は無く、興味の対象で彩られていた。
「一体どんな精霊の力を持ってるの?」
ミオは既に、ユキの力に対して興味津々。その瞳は好奇心旺盛を表すかの様に輝いていた。
「これは精霊の力ではありませんよ。私の力は“無氷”という特異能と呼ばれる力です」
「無氷? 何それ聞いた事無いんだけど。それに精霊の力も無しに、自然現象操れる訳無いでしょ?」
ユキの説明にミオは“そんな冗談言ってないで、早くアナタの精霊見せて”と、半信半疑にせがんでる様に見える。
「口で言うより、見せた方が早いですね……」
一呼吸置いたユキの右手に、青白い冷気が光り輝く様に集まっていく。
その光は彼が手を掲げると、上空へと昇っていき弾けた。
「綺麗……」
ミオはその光景に、魅入られる様に立ち竦む。
黄昏れの空からは、この世のものとは思えない程に美しい白銀の雪が、辺りを優しく包み込む様に降り注いでいく。
明らかに自然の雪でも、精霊の力による雪でも無い。
今現在、彼だけが持つ特異能ーー“無氷”
形容し難い幻想的な迄に美しきその光景に、ミオはそっと口を開く。
「……認めてあげるわよ、アンタの事」
それは事実上の敗北宣言。
「でも、ちゃんと姉様の事守らないと許さないからね! ……ユキ」
ミオが素直にユキを認めてくれた事に、アミの表情も緩む。
これから新しく迎える家族としての三人に祝福する様に、雪は暫くの間、降り続けていた。
***
――夕食後。三人で作った(とはいえミオはほとんど何もしていない)魚関連の料理をあらかた平らげた後、庵を囲む三人。
「えぇ~! ユキってまだ十二だったの!?」
ミオが驚いた様に声を大にする。確かにユキは歳相応とは思えぬ位、雰囲気が落ち着いて大人びている。
「そんなに驚く事も無いでしょう?」
その口調や佇まいは、幾多もの修羅場を潜り抜けてきた、濃密過ぎる迄の十二年間の証。
ミオが悪戯っぽい仕種で、ユキへ向けて小さな胸を張る。
「へへん☆ 私は十三よ。私の方が年上なんだから、私の事はこれから“ミオ姉様”と呼びなさいね!」
ミオは勝ち誇った様に、しかも嬉しそうに語る。
「何を馬鹿な事を。そもそも歳の差なんて無意味ですよミオ」
そんな馬鹿げた提案、ユキは意も返さぬ様に受け流す。それもそうだろう。ミオより更に年上のアミに対しても、そんな事は言わないし気にする事さえ無いのだから。
「何言ってるのよ! ちゃんとミオ姉様と呼びなさいよ!」
「嫌です(きっぱり)」
二人のそんなやり取りを見て、アミは思わず笑みを綻ばせる。
“良かった……。ユキのあんな表情見るの、久しぶりな気がする。きっと三人で上手くやっていける。こんな穏やかな時が、いつまでも続いて欲しいーー”
それはアミの細やかな願いであった。
避けられない“狂座”との闘い。
だけどせめて今だけはという、細やかだけど掛け替えの無い時間を。
*
「今日は姉様と一緒に寝る~☆」
ーーそろそろ床に着く時刻。ミオが重度としか言い様が無いシスコン振りで、姉のアミに甘えた。
「あ! ちなみにユキは蚊帳の外なんだから、離れたとこで寝なさいね」
ミオがユキへ向けて、手をひらひらと動かす。所謂あっちいけジェスチャー。
「聞き捨てなりませんねミオ。アミと一緒に寝るのは私です!」
珍しくユキが、むきになって反論した。自分の中で譲れない線が有るのだ。
「はぁ? 何寝ぼけた事言ってんの! これだけは譲れないわよ!」
「それはこちらの台詞です!」
売り言葉に買い言葉。お互いに譲れぬ想い。
“――また始まった……”
「やる気!?」
「受けて立ちますよ」
些細な事で張り合おうとする二人に、アミはため息を漏らすしかない。
三人一緒に寝ようという考えが、二人の頭には無いらしい。
“――あっ! 良い事思いついちゃった”
子供みたいに(実際子供だが)いがみ合っている二人を尻目に、アミにある考えが浮かぶ。その表情は悪戯っぽく笑みを浮かべていた。