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2件
読むの遅れました! えっめっちゃ好きです!!
夏休みが終わり、2学期が始まる。
高校3年の夏。
俺は、生涯忘れられない恋をした。
💛「ふっか。今日も塾行かねーの」
💜「行かね。デート」
💛「もう3年なのに余裕だな」
💜「3年だから頑張ってるんでしょ。無責任な子供でいられるのももうちょっとよ?」
💛「……なんかあったら連絡しろよな」
💜「了解。いつもあんがとね」
親友の照とそんな会話を交わしながら、俺はひとり校門を出た。
今日は金曜日。
そこらへんをだらしない顔をして歩いてるサラリーマンも、いそいそとスーパーへ向かう主婦のおばさんも、小便臭い近所の小学生のガキでさえ、来たる週末が楽しみなんだろう。夕暮れの街は何となくザワザワと浮わついて見えた。
💜「いっけね。もう間に合わねぇじゃん」
待ち合わせのファストフード店まであと10分。待ち合わせまではあと5分。 遅刻は確定だ。
そもそも担任の話がなげぇから…。
俺は、元気いっぱいの担任の体育教師を恨んだ。だいたい頭、ピンクだし。悪い大人の見本みてぇな奴だ。陽気なだけが取り柄の。
実は俺はあんまし家庭に恵まれてない。
母ちゃんは吹けば飛ぶような小さなスナックを経営していて、貧乏ったらしいその店の二階で、たった一人で俺を育ててくれた。もろもろと母ちゃんには感謝しているけど、何より男癖が悪すぎる。毎週違う男をお持ち帰りしては、俺が家にいるとちょっと邪魔そうにしている。この間なんか、歯の欠けたクソジジイに足蹴にされて夕飯中にも関わらず追い出された。
だから俺は基本的に金曜の夜は家に帰らないことにしている。
女の子の家か、友達の家(だいたい照ん家)か、それも都合がつかなかったら野宿。 9月はまだまだ暑いので公園で寝ていても寒くないのは助かる。
さあて、今夜はどうなりますかね。
💜「みゆきちゃん、今日こそヤラせてくれるかなぁ」
そんな下卑たことを口に出したバチが当たったのか、俺は曲がり角を曲がるなり、身体ごと吹っ飛んだ。
深澤辰哉18歳。
思えばモテただけの人生でした…。つまんねぇ。これから世の中の女みんな食ってやるつもりだったのに……。
宙に浮く感覚が暫く続く。
グレーの道路と街路樹の緑。オレンジ色の夕陽が俺を照らして、鼻垂れたガキが口を開けて俺を見上げてやがる。
ああ、俺、死ぬのか…と覚悟を決めた瞬間、強い衝撃が体中をバラバラにしたかと思うと、夜の帳みたいに真っ黒なカーテンが降りてきて、眠るように俺は意識を失った。
◆◇◆◇
次に目を覚ましたのは、病院だった。
目の前に、何とも可愛らしい顔立ちの女の子が立ったまま俺を見下ろしている。心配そうに涙目なんかになっちゃったりして。
…いや、マジで可愛いな。
その子は、俺と目が合うと、いよいよ涙を流して、枕元のナースコールを手に取り、意識戻ったみたいです…と緊張ぎみに言った。
鼻をつく薬品のような臭いと白い壁に白い天井…。簡素なベッドに、カーテンは半分ほど閉められている。俺は今、大部屋の入り口付近のベッドに寝かされているようで、廊下を行きかう人が時々見えた。
💜「君、可愛いね」
一言目に言う言葉かよ、と、掠れてまで思わず口をついて出た言葉がそれだったことに自分でちょっと落胆した。そしてすぐにデートへ行く途中だったことを思い出した。
💜「今何時?」
💙「7時過ぎ、です」
💜「やっべ!…いっっだ……だだだだだだ」
起き上がろうとして、マジで死ぬかと思った。
胸から腕から脚から頭から全部痛い。目から反射で涙がボロボロ流れる。目の前の子が慌てて俺を制すると、背中を支えてくれた。
💙「無理しないで…」
💜「ん゛…やべぇわ、こりゃ。どうなってんだ、俺の身体」
💚「あーあー。動かないで。君、全身強く打ってるから」
ベッドで押し問答をしていると、颯爽と爽やかな感じの医者が入って来た。低い声のなかなかのイケメンだが、どちらかと言うと女みたいなかなり可愛らしい顔立ちをしている。そして前髪が恐ろしく長い。胸から院内用のPHSを覗かせてずかずかと入って来た。看護師から連絡を受け、早速駆け付けて来てくれたらしかった。前 髪を掻き分けて、阿部と名乗るその医師は言った。
💚「君ね、この子に自転車で轢かれたの。一応、警察に届けることもできるけどどうする?」
💜「自転車…」
…車じゃねぇのか。
思いっきり吹っ飛ばされた気がしたから、俺はてっきりダンプカーにでも跳ねられたのかと思った。もちろん、告訴する気なんかないから、警察への連絡は断った。それよりもこの子とお近づきになりたい。
💜「君、名前なんていうの」
💙「わ、渡辺翔太です」
💜「ん?翔太?男?」
💙「??はい。そうですけど…」
なんだよ、よく見たら野郎じゃねぇか。
濃紺のブレザーの下は、スカートじゃなくパンツだった。目尻の下がった大きな垂れ目でうるうると俺を見てるから、てっきり女の子かと思ったわ。警察に連絡しない代わりに示談金でもふんだくろうかと真剣に考え始めた時、翔太は言った。
💙「あのっ!俺っ、何でもしますから、どうか堪忍してくださいっっ!!」
と、布団に手をついて、思いっきり頭を下げた。下げた頭が乗った位置がちょうど一番強く打った所だったため、俺は声にならない悲鳴を上げた。
💚「君、そこ一番痛い所かも」
💙「うわわわっっ!!すみませんっっ!!」
……こうして、俺はかわい子ちゃんの代わりに同い年の舎弟を得た。