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#夢小説
紫倉 紫
220
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第1話
「転校生は、私の後ろ。」
四月。
新学期が始まって一週間。
二年三組には、いつも明るい声が響いていた。
「みつきー! 今日お弁当一緒に食べよ!」
「いいよ、おりな!」
山本りな。
彼女が教室にいるだけで、自然と人が集まってくる。
「りな、今日の数学の宿題やった?」
「……え?」
みつきが呆れた顔をする。
「まさか」
「忘れた」
「昨日言ったじゃん!」
「昨日の私は今日の私じゃないから!」
「意味わかんない!」
二人で笑っていると、後ろから声がした。
「山本」
「ん?」
振り返る。
佐藤るいだった。
「宿題やってないの?」
「うん!」
「威張んな」
「るいは?」
「俺はやった」
「すご!」
「普通だから」
「じゃあ見せて!」
「自分でやれ」
「ケチ!」
「……あとで見せてやるよ」
「ほんと!?」
りなが笑う。
るいは一瞬だけ顔をそらした。
「……別に」
その様子を見ていたはやとがニヤッとする。
「るい」
「何」
「分かりやす」
「うるさい」
「顔赤いぞ」
「赤くねぇ!」
「はいはい」
そのとき、先生が教室に入ってきた。
「はい、席つけー」
クラスが静かになる。
「今日はみんなに紹介する人がいる」
教室がざわつく。
先生の後ろから、一人の男子が入ってきた。
「後藤まさとです。今日からよろしくお願いします」
一瞬。
教室が静まり返った。
そして次の瞬間。
「え、めっちゃ背高くない?」
「175だって!」
「バスケ部らしいよ!」
女子たちが一気に騒ぎ始める。
先生が苦笑する。
「静かに。後藤は今日からこのクラスな」
そして、黒板に名前を書く。
後藤まさと。
「席は……山本の後ろが空いてるな」
「え?」
りなが振り返る。
まさとと目が合った。
「よろしく!」
りなが笑う。
まさとは一瞬、言葉を失った。
「……よろしく、山本」
「うん!」
まさとは席についた。
その背中を見ながら、はやとが小さく笑う。
「……なるほどね」
るいが聞く。
「何が?」
「別に」
「言えよ」
「後藤、山本のこと気になりそうだなって」
「は?」
るいの顔が一瞬で曇る。
「何言ってんの?」
「見てれば分かる」
「気のせいだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
はやとは笑った。
「まあ、お前も頑張れ」
「……うるせぇ」
昼休み。
りなはいつものように友達に囲まれていた。
「りな、これ食べる?」
「食べる!」
「じゃああげる!」
「ありがとう!」
その様子を、まさとは後ろの席から見ていた。
「山本って、人気あるんだな」
「そうだよ」
突然、はやとが隣に立つ。
「びっくりした!」
「悪い悪い」
「山本って、昔からあんな感じ?」
「うん。誰とでも仲良くなる」
「へぇ」
「……気になった?」
「え?」
「山本」
「いや、別に……」
はやとは笑った。
「ふーん」
「何?」
「なんでもない」
その頃。
りなの隣にはるいが立っていた。
「山本」
「るい、どうしたの?」
「今日、放課後空いてる?」
「うん」
「じゃあ一緒に帰るぞ」
「いいよ!」
即答。
るいの顔が少しだけ緩む。
「……よし」
そこへ、れいがやってきた。
「りな」
「れい!」
「今日一緒に帰ろ」
「うん!」
「おい」
るいが割り込む。
「俺が先に約束した」
れいが笑う。
「じゃあ三人で帰れば?」
「嫌」
「俺も嫌」
「なんで!?」
りなが本気で不思議そうにする。
はやとは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
「……毎日やってんな」
そして、その会話を聞いていた女子の中には、あんなもいた。
「……また山本さん?」
隣の女子が聞く。
「何?」
「るい、山本さんのこと好きなのかな」
あんなは笑った。
「まさか」
「でもいつも一緒じゃない?」
「山本さんが誰にでもああいう態度なだけでしょ」
「そっか」
あんなはりなを見る。
「……ほんと、嫌い」
小さくつぶやいた。
放課後。
結局、りな、るい、れいの三人で帰ることになった。
「今日楽しかった!」
りなが笑う。
「そう?」
「うん!」
「……りな」
れいが呼ぶ。
「何?」
「明日も一緒に帰ろう」
「いいよ!」
るいがすぐに口を挟む。
「俺も」
「もちろん!」
りなは笑っている。
二人の気持ちなんて、何も知らない。
そのとき。
後ろから声がした。
「山本!」
振り返る。
まさとだった。
「後藤くん?」
「ちょっといい?」
「うん!」
るいとれいの表情が変わる。
まさとは少し緊張したように言った。
「俺、まだ学校のことよく分からなくて……」
「うん」
「明日、学校案内してくれない?」
「いいよ!」
りなが笑う。
「じゃあ明日の朝、一緒に行こう!」
「……本当?」
「うん!」
まさとは嬉しそうに笑った。
その瞬間。
るいが口を開いた。
「山本」
「ん?」
「……俺、明日の朝も一緒に行く」
「え?」
「俺も」
れいも言う。
「俺もりなと行く」
「えぇ!?」
三人の視線がぶつかる。
その少し後ろで、はやとが頭を抱えた。
「……始まったな」
そして。
誰も気づいていなかった。
その光景を、教室の窓から見ている女子がいたことに。
あんなはスマホを握りながら、三人を見つめていた。
「……山本さん」
その顔から、笑顔が消える。
「明日、ちょっと困ってもらおうかな」
翌朝。
りなを待っていたのは――
るいでも、れいでも、まさとでもなかった。
「山本さん、ちょっと話があるんだけど」
あんなだった。
りなは何も知らずに笑う。
「うん? なに?」
そして、この日。
りなの知らないところで、三角関係は――
四角関係へと動き始めた。
コメント
5件
転校生のまさとくんが教室に入ってきた瞬間の空気の変わり方、すごく丁寧に描かれていて惹き込まれました。るいくんとれいくんのりなちゃんへの気持ちが透けて見えるのに、本人だけ気づいてないもどかしさが切ないです。ラストのあんなちゃんの「困ってもらおうかな」で背筋がぞくっとしました。ただの恋模様じゃなくて、棘が隠れている展開に続きが気になります!