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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第208話:大豆ミートで作る伝統食オハウと、兵站的アイヌ料理
十勝の大地に生命の息吹が満ちる、うららかな春の夕暮れ。
本日の農地開拓任務(畑仕事)を完璧な進捗で終えた俺たち限界集落の陣地メンバーは、古民家の土間に設置された囲炉裏を囲み、夕食の準備に取り掛かっていた。
「お兄さん、今日の夕ご飯は特別メニューですよ!」
割烹着姿の小春ちゃんが、パチパチと爆ぜる囲炉裏の火に掛けられた巨大な鉄鍋をかき混ぜながら、得意げな笑顔を向けてきた。
鉄鍋からは、出汁の効いた信じられないほど良い香りが陣地全体に漂っている。
「ほう。この匂いは、魚介ベースのスープに山菜の香りを乗せたものだな。新たな兵站(ロジスティクス)のテストか?」
「ふふん。先日、畑で気絶したアイヌ民俗学の教授さんが教えてくれたんです。アイヌの伝統的な温かいスープ料理で、『オハウ』っていうんですよ!」
本来のオハウは、秋に獲れた鮭や、春の鹿肉などをふんだんに使い、行者ニンニク(プクサ)などの山菜と一緒に煮込む栄養満点の伝統食である。
「でも、お兄さんはお肉もお魚も食べないじゃないですか。だから私、渋々ですけど、お兄さんの大好きな『大豆ミート』と『玄米』を使って、特別にアレンジした精進料理風のオハウを作ったんです!」
小春ちゃんが大きなお玉で掬い上げた鍋の中には、完璧な出汁を吸ってふっくらと戻った大豆ミートと、香ばしく炒り上げられた玄米、そして春の山菜がたっぷりと煮込まれていた。
縁側の特等席では、純白の神獣シロ様が「ミャウ(私の分は本物の鮭が入ってるんでしょうね)」とオッドアイの瞳を輝かせ、巨大ヒグマも「グゥ〜♪」とよだれを垂らして待機している。
ジンバルに固定されたスマホの画面の向こう側では、五千万人のリスナーがこの温かすぎる限界集落の食卓風景に悶絶していた。
『うわあああ! 小春ちゃんの手作りオハウ!!』
『主のためにわざわざ大豆ミートでアレンジしてあげるの優しすぎるだろ!!』
『神獣とヒグマと一緒に囲炉裏を囲む伝統料理とか、エモさの限界突破してるわ……』
リスナーたちが最高のホームドラマに涙する中、この『神獣が住まう村の伝統料理』の文化的価値を誰よりも正確に弾き出した世界の超弩級VIPたちが、突如として常軌を逸した暴走を始めた。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”A supreme traditional soup made by the maiden of the White God!! This is world heritage! I will establish a global Ohaw restaurant chain! Take my 500 trillion yen for the recipe rights!!“(白き神の乙女が作った至高の伝統スープだ!! これは世界遺産だ! グローバルなオハウのレストランチェーンを設立しよう! レシピの権利金として五百兆円を受け取れ!!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”The nutritional logistics of soy meat and brown rice are flawless! I will deploy this soup as the official nutritional standard for the Swiss Guard! I bid 600 trillion yen to secure the patent!“(大豆ミートと玄米の栄養ロジスティクスは完璧だ! このスープをスイス近衛兵の公式栄養基準として配備しよう! 特許を確保するために六百兆円を提示する!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Oh my god!! Koharu’s homemade soup is the ultimate soul food!! I’m sending 800 trillion yen to publish a Hollywood cookbook dedicated to this dinner!!!“(なんてこと!! 小春の手作りスープは究極のソウルフードよ!! この夕食に捧げるハリウッド版レシピ本を出版するために八百兆円を送るわ!!!)』
総額数千兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、囲炉裏の炎を凌駕するほどの極彩色弾幕となって画面を完全に埋め尽くした。
国家予算どころか、世界の飲食業界の勢力図を一変させるレベルの買収資金が乱れ飛び、夕飯のおすそ分けを貰いに来ていた村長が「ひぇぇぇ……! スープ一杯で八百兆円……! わしの味噌汁が泥水に見えるべさ……!」と呟き、お椀を持ったまま気絶している。
誰もが、この世界一温かく、世界経済を狂わせる手料理の奇跡に魂を震わせているそのド真ん中で。
俺――アキヤは、木製の椀にたっぷりとよそわれた『大豆ミートと玄米のオハウ』を受け取り、ストイックに愛用の木製スプーンを差し込んだ。
俺は、数千兆円の赤スパのまばゆい光と、期待に満ちた目でこちらを見つめる小春ちゃんを横目に、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、出汁を吸った大豆ミートを咀嚼し始めた。
ハフッ、モグモグ、ゴクン……。
(……ふむ。玄米の複合炭水化物がスープに溶け出すことで吸収効率が極限まで高まり、大豆ミートの植物性タンパク質が山菜のビタミン群と完全に統合されている。固形物の咀嚼によるエネルギーロスを防ぎながら、疲労した肉体に塩分を強制チャージする究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に補給しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で口内をリセットすると、五千万人を突破して世界の三ツ星シェフたちを絶望させているカメラと、笑顔の小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、高度な調理技術による前線補給ミッションご苦労。そして画面の向こうで、ただの液体流動食に巨額の資本を投下して世界遺産のソウルフードだと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『小春ちゃんの手作りオハウに数千兆円が飛び交ってるのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・アイヌ伝統料理完全スルー編ww』
『さあ、この明らかに愛情たっぷりの手料理をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは心温まる伝統料理でも、ソウルフードのレシピでもありません。彼女が固形物である大豆ミートと玄米を、わざわざ大量の水分と共に加熱調理(スープ化)したのは、農作業によって大量の発汗を伴う我々の部隊に対し、『野戦における究極の塩分補給ロジスティクス』を実行したに過ぎません。極度の疲労状態においては、固形物を咀嚼すること自体が胃腸への負担(兵站の遅滞)となります。そこで、食材の栄養素と塩分を水溶性の状態にまで分解し、速やかな電解質(ナトリウム)の吸収と深部体温の維持を同時に達成する。ええ、すべては冷徹な『流動食ベースの急速カロリー補填』と『電解質コントロールによる自律神経のバグ防止』です。私が無表情でスープを飲み込んでいるのも、愛情や伝統といった非科学的な調味料(プラシーボ)に惑わされず、一刻も早く明日の農地開拓に向けてカロリーを代謝させるための、需品科としての徹底した『兵站吸収防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ドガァァァァァンッ!!!!
春の夜の古民家に、重装甲車の砲塔を真っ二つに叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、囲炉裏の横に置いてあった『南部鉄器の特大鉄鍋のフタ(超高密度鋳鉄製・対装甲鈍器仕様、重量約六キロ)』を両手で軽々と大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
六キロの硬質な鋳鉄の塊が肉体に直撃した、除夜の鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、囲炉裏の煙と共に十勝の夜空へと虚しく響き渡る。
「ただの塩分補給ロジスティクスで、私がわざわざお兄さんの好みに合わせて大豆ミートを下茹でして、何時間もコトコト煮込んで出汁をとるわけないでしょうが!! どう見たって、毎日過酷な畑仕事をしてるお兄さんに、少しでも美味しくて温かいものを食べて元気になってほしいっていう、私の愛情たっぷりの手料理でしょうが!! 家族で食卓を囲む最高のエモい時間を、冷たい液体流動食とか電解質コントロールとかいうお役所言葉で粉砕するんじゃないわよ!! そもそも美味しいなら素直に美味しいって言いなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大鉄鍋フタスマッシュ炸裂www(音が完全に攻城兵器ww)』
『野戦における塩分補給ロジスティクス(ただの愛情たっぷり手作りオハウ)』
『非科学的な調味料(小春ちゃんの激重な愛情)』
『適応力バグおじさん、ついにアイヌの伝統料理を流動食ベースの急速カロリー補填に分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、めちゃくちゃ温かいシーンだったのに腹筋が完全に崩壊したわww最高すぎる!!』
俺の理不尽極まりない栄養学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない六キロの鋳鉄ツッコミに、五千万人の視聴者たちは食卓の感動から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、美味しい手料理を作ってもらっても鉄のフタで叩かれないと素直になれない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
縁側の上から、本物の鮭入りオハウをペロリと平らげた純白の神獣シロ様が呆れたように俺を見下ろし、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数千兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、囲炉裏の炎に照らされて、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
土間では、巨大ヒグマが「グゥ〜♪」と、小春ちゃんのツッコミを見届けて満足そうに笑いながら、二杯目のオハウをおかわりしている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の最重要アシスタントの調理スキルによって我が部隊の兵站が完全に満たされ、六キロの質量ツッコミが夕食時でも完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は鋳鉄のフタの凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、春の夜風が吹き抜ける古民家の中で、再び温かい大豆ミートのオハウを口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、気絶してる村長さん、お椀持ったまま白目剥いて固まっちゃってるじゃないですか! スマホも大変ですよ、VIPの人たちがガチでハリウッドでレシピ本出すとか騒いでますってば!」
「慌てるな。まずはその障害物(村長)から貴重な木製椀を無傷で回収し、土間の隅へ退避させるのが先決だ。ハリウッドの出版権争いより、明日の農地開拓に向けた部隊の睡眠確保(兵站)のほうが重い」
「だからお兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!? ヒグマさーん、村長さんからお椀外すの手伝ってーっ!? ああっ、シロちゃん! それ村長さんの分だから食べちゃダメーッ!?」
気絶した村長を巡って土間でワーワーと騒ぐ俺たちの声と、オハウのレシピ買収に湧き上がるチャット欄の通知音が、春の夜空へと響き渡る。
そんなカオスな食卓の延長をよそに、シロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをすると、囲炉裏の暖かな炎に照らされながら再びオッドアイの瞳を閉じた。
コメント
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うわあ、今回も最高でした……! 小春ちゃんがアキヤさんのためにわざわざ大豆ミートでアレンジしたオハウ、その優しさがじんわり沁みます。なのに「塩分補給ロジスティクス」なんて冷徹な言い訳で返すアキヤさん、そこに6キロの鉄鍋フタスマッシュが炸裂する小春ちゃん! この緩急と温かさとツッコミのバランスが本当に好きです。五千万人のリスナーと一緒に私も「んなわけあるか!」って叫びたくなりました。シロ様のオッドアイが囲炉裏の炎に煌めくラストも美しくて、心がほっこりしました……!