テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
泣いていたひまなつの表情も少しずつ和らぎ、2人は並んで街を歩いた。
みことが「甘いの食べよっか」と提案し、案内されたのは可愛らしい外観のカフェ。白とパステルカラーで統一された店内には、若い女性客ばかりが賑やかに過ごしている。
「……マジで、女ばっかじゃん……」
ひまなつはそわそわと周囲を見回し、場違いなんじゃないかと不安げに眉を寄せたが、
隣を見ると、みことはそんなことをまるで気にしていない様子でメニューを眺めていた。
「わあ、パンケーキいっぱいある……どれにする?」
その無邪気な笑顔に、ひまなつの緊張はふっとほどけた。
「……おまえってほんと、肝据わってるよな。じゃあ、これにしよ。2人で分けるか?」
「うんっ!」
ふたりはホイップクリームたっぷりのベリーパンケーキを1つ頼み、シェアして食べ始めた。
「おいしいね……」
みことが小さく笑ってそう言うと、ひまなつも自然と頷き、
「うん。……なんか、久しぶりに心が落ち着いた気がする」とぽつりとこぼした。
カフェを出たあとは、みことがひまなつの手をそっと取って握った。
「迷子にならないようにね」
「……お前が俺の手引くの、なんか変な感じ」
「えっ、ダメだった?」
「いや……あったかいから、いい」
その後はひまなつの好きなゲームセンターへ。UFOキャッチャーでぬいぐるみに挑戦したり、対戦型の音ゲーで本気モードになったり、ふたりでプリクラを撮って、笑い合った。
ゲームセンターを後にし、ショッピングモールへ移動したそのとき――
「あっ」
向こうの雑貨店から出てきたのは、らんとこさめだった。
こさめが「うわっ!なつくん!……てか、みことくんも!? なにそのペア!? デート!? え、デート中!?」と声を上げ、近づいてきた。
ひまなつは露骨に顔を赤くして、「う、うるせぇな……」と視線を逸らす。
みことはというと、「うん、今は俺がなっちゃんととデートしてるよ」と満面の笑みで肯定した。
「ちょっ、みこ……!? いや、まぁ、そうだけど、言い方ってもんが……!」
ひまなつが言いかけた瞬間、こさめが
「じゃあ俺もデートする!!」と叫んだ。
「えっ!?」
らんの困惑した声が、フロアに響いた。
「なつくん、こっち!」
こさめは勝手に、ひまなつの右手をつかみ、
「みことくん、そっち!」と左手をとる。
3人が手を繋いだ状態でひまなつが中央に収まると、ひまなつはただただ固まった。
「え、なんで俺が真ん中……?」
「らんくんはすちくんとといるまくんとで、ちゃんと3人で待っててね!」
こさめが笑顔で言い放つと、らんは完全に置いてけぼりの顔で「……えっ」と呟いた。
みことは「えっ?」と首を傾げ、ひまなつは「ええぇ……」と困惑しきっていたが、
こさめはそのまま2人を連れてショッピングモールの奥へと歩き出した。
――その数十分後。
らんは、何かを諦めたような顔ですちの家のインターホンを押していた。
玄関先に出てきたすちといるまに、開口一番。
「なんか知らんが、こさめが、なつとみことの“デート”に混ざってった……」
「……は?」
すちといるまはハモった。
「何がどうしてそうなったんだよ」
「あ、本当にデートなんだ」
「そう言ってた」
らんが目を伏せて言うと、いるまが「あいつ、俺のこと嫌いになったんかな……」と、どこか寂しげにつぶやく。
「……みことって、ほんと罪な男だよなぁ」
すちがやれやれと肩をすくめる。
そして3人は、なんとも言えない沈黙のなか、リビングで紅茶を啜った。
___
「二人でデートしてると、すちくんといるまくんに怒られちゃいそうだから、三人なら大丈夫かなって思って!」
こさめはにぱっと笑って、手をぎゅっと握り締めた。
「……なるほど、確かに」
ひまなつはその理屈に納得したように頷く。
「俺もすちにはちゃんと伝えてきたから大丈夫だよ」
みことが少し照れたように笑うと、
(いや、たぶんすちは全然納得してねぇと思う……)
ひまなつは心の中でそう思っていた。
あのすちの、みことに対する独占欲を考えれば、平然とはしていないだろう。
そうこうしているうちに、3人はファッションビルを歩き回っていた。
こさめが可愛いと思ったパーカーをみことに「絶対似合う!」と押し付けたり、
ひまなつが目をつけた帽子をこさめが「買いなよ!」と背中を押したり。
みことはみことで「この色、こさめちゃんに似合いそう」と無邪気に選び、
3人であれこれ言い合いながら、時間はあっという間に過ぎていった。
歩き疲れた頃、フードコートの窓際席に腰を下ろした。
それぞれ飲み物や軽食を手に、のんびりと空を眺めながら休憩している。
ひまなつがぽつりと、いるまとの喧嘩について語り始めた。
「…ほんとは、ただ一緒に居たかっただけなんだけどね。そんなんじゃなくてって言いかけられたのが、勝手にムカついて……」
みことが静かに言った。「俺も、すちの大学祭の時……他の子がすちを褒めてたりして、少し悩んだ。俺で良いのかなって」
ひまなつが目を丸くする。「みことでも、そういうこと考えるんだな」
「うん……でも、すちが好きだし、信じたいなって思ってる」
少し照れくさそうに笑うみことの言葉に、ひまなつも頷いた。
「らんくんも、似たようなもんだよ」
今度はこさめが、唐突に話し始めた。
「かっこいいし、頭良いし、ケンカも強いし、女子からもめっちゃ人気。でも、実はあんまり友達いないの。話しかけづらいとか、近寄りがたいって思われてるんだよね。俺はずっと近くにいるから、そういうの分かるけど」
こさめは笑って、「だからこそ数少ないらんくんの友達にたまに、ちょっと妬いちゃうんだよね。誰かと仲良くされると、俺の知らない顔を見せてる気がしてさ」と言った。
「分かる……」と、みこととひまなつが同時に頷いた。
ふと気づけば、3人は顔を見合わせて微笑んでいた。
それぞれが、自分の大切な人を思いながら――優しく、温かい時間がそこに流れていた。
___
ひまなつの涙もすっかり乾き、目元には少し赤みが残るだけになっていた。
みことはその横顔を見つめながら、やわらかな声で言う。
「すちの家で、みんな待ってるみたい。……そろそろ帰ろっか?」
微笑むみことに、ひまなつは小さく頷く。
「うん、帰ろ」
こさめが「じゃあ、また真ん中にしてあげる」と言って、ひまなつの右手を握った。
みことも左手をそっと握り、3人で手を繋いでゆっくり歩き出す。
平穏で、少しだけ照れくさい、そんな帰り道だった。
だが――それは突然、崩れ去った。
「やっと見つけたぞ…!」
低く唸るような声と共に、前方に現れた数人の男たち。
以前、ひまなつやいるま達と共に退けた、不良グループの残党だった。
「この前はよくもやってくれたな……! 今日は逃がさねぇ!」
「……はぁ、またかよ」
ひまなつが小さく呟く。
こさめは真顔に戻り、みことはふわりとした表情のまま前に出た。
「なんか、こういうの……前にもあったよね」
「うん……またやるのか。まあ、いいけど」
その瞬間、殴り合いが始まった。
3対複数――だが、3人は絶妙なコンビネーションを見せる。
ひまなつが蹴りを放つも、後方から殴りかかられそうになった瞬間、
みことが無言で間に入り、敵の腕を掴んで止め、肘で鳩尾を打ち抜いた。
みことが押し倒された時には、こさめが横から体当たりで敵を吹き飛ばした。
そして、こさめが足を取られて倒れそうになった瞬間、
ひまなつが鋭い一撃を敵のこめかみに叩き込み、倒した。
「ちゃんと……助け合えてるな、俺たち」
ひまなつが息を弾ませながら笑った。
「うん……こういうの、悪くないかも」
こさめも拳を握りしめながら笑顔を見せる。
戦いが終わる頃には、敵は全員地面に転がっていた。
3人は乱れた服を整えながら、呼吸を整える。
「……なっちゃん、怪我は……?」
みことが心配そうに問いかける。
「かすり傷くらい。平気」
ひまなつは肩を軽く回して答えた。
「よかった……。俺、いるまくんのかわりにちゃんと守れた、かな?」
そう微笑むみことに、ひまなつは照れくさそうに「うん」とだけ返した。
こさめはと言えば、肘に擦り傷を作っていたが、
「元々俺、ケンカすると怪我しやすいし」と、どこ吹く風で笑っていた。
だが――みことの腕や脇腹には、目立つ打撲の痕がいくつも浮いていた。
「みこと……痛くないの?」
こさめが眉を寄せる。
「……大丈夫……」
そう言いかけて、みことは少し考えた後、小さく笑って言い直した。
「……やっぱりちょっと痛いかも」
その顔には、困ったような――でも、どこか安心したような笑みが浮かんでいた。
そして3人は、ふたたび手を繋ぎ、すちたちの待つ家へと帰っていく。
傷を負っても、守りたい人がいたから。
痛みがあっても、笑い合える仲間がいるから。
3人の絆は、より強く、深く――確かに繋がっていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
♡300↑ 次話公開