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夕暮れ時。
みこと、ひまなつ、こさめの3人は、ようやくすちの家の前に辿り着いた。
扉を開けて出迎えたのは、すち・いるま・らんの3人。
彼らの視線は、3人の乱れた服や擦り傷にすぐに向いた。
「おい……これって……」
「また、何があったんだよ……?」
らんが目を丸くし、すちは無言のままみことに駆け寄る。
いるまも、ひまなつの様子にすぐさま眉をひそめた。
「とりあえず、入ろう。全部、あとで聞く」
すちの言葉に従い、6人はリビングへと入った。
それぞれがソファや椅子に腰を下ろすと、手当てが始まった。
こさめの擦り傷を見て、らんが消毒液を取りに行く。
慣れた手つきで処置を進めながら、少し強めにガーゼを押さえると、
「いってててっ……! らんくん、もうちょい優しくして……!」
「仕方ないだろ。血止めてんだから」
呆れたように言いながらも、らんの声はどこか柔らかかった。
こさめはそれを感じ取って、頬を緩めた。
「……ありがと」
「ったく、怪我しても笑ってんなよ……心配すんだぞ」
らんはそう言って、そっとこさめの頭を撫でた。
すちはみことの腕を取り、服の袖をそっとまくると、浮かぶ青痣に眉を寄せた。
「……打撲、結構広いな……」
脇腹にも同様の痕があり、それを見た瞬間、すちの瞳が鋭く揺れた。
「……ひまちゃんを守るってのは立派だけどさ。 ……お前が怪我していいわけじゃないんだよ、みこと」
その声音は冷静で、けれど明らかに怒っていた。
みことはびくっと肩を震わせ、目に涙を浮かべる。
「……ごめん……でも、痛いから……優しくして……っ」
ぽろぽろと涙が落ちるのを見て、すちはふっと息を吐いた。
「バカ……心配してんだよ、俺は……」
消毒液と包帯を横に置き、すちはみことを優しく、けれど強く抱きしめた。
「お前が無事でよかった……ほんとに、怖かった……」
みことはその胸の中で、そっと目を閉じた。
一方、いるまは黙ってひまなつの腕を取った。
「かすり傷だし、平気……」
そう言って視線をそらすひまなつ。
「……どーせ、怒んだろ。俺がバカみたいに突っ走ったって……」
その言葉に、いるまは何も言わず、丁寧に絆創膏を貼る。
手当てが終わると、ひまなつの顔を見つめながら、静かに口を開いた。
「怒らねぇよ。……けどな。 ……俺のいないとこで、怪我すんな」
その一言に、ひまなつの目から、ぶわっと涙が溢れた。
「……っ、なんでそんな優しいこと言うの……俺、勝手に怒ったのに……っ!」
嗚咽混じりに泣きじゃくるひまなつを、いるまは静かに胸に抱き寄せた。
「泣くなよ、なつ……帰ってきてくれてよかった」
その温もりに包まれて、ひまなつは
「ごめん……っ…ごめん…なさ……」と、何度も繰り返しながら泣き続けた。
それぞれの手当てが終わり、傷は癒えつつあっても、心の奥ではもっと深く、確かな絆が結ばれていた。
ただ守りたい。
傷ついてもそばにいたい。
その想いが、確かに6人の間にあることを誰もが、感じていた。
___
食卓を囲む6人。
こさめは唐揚げを頬張りながら、「でもでも、喧嘩には勝ったよ!」と元気に笑顔を見せる。らんは呆れたようにため息をつきつつも、「…まったく、ほんとお前は…」と苦笑しながら、優しくこさめの頭を撫でた。
その様子を見ながら、すちは箸を置き、静かに言葉を発した。
「……怪我したこともそうだけどさ、 一番怒ってるのは、“俺の話を一方的に聞かずにデートしてくるって言ったこと”だからね」
その言葉に、みことは「……っ」と肩をすくめ、表情を小さくしゅんと落とす。視線は下を向き、箸を握る手が少し震えていた。
(やっぱり……怒ってたんだ……)
ひまなつは心の中でそっと思いながら、横目でみことを見た。
すちはみことの体に目をやり、そっと怪我した脇腹に手を添える。
「……んっ、いっ……た……!」
みことが小さく声を上げ、涙ぐんだ瞳で見上げると、すちは真顔のまま拗ねたように言った。
「……俺以外のやつに付けられた傷なんて、すぐに治ればいいのに」
その嫉妬と独占欲が混じる声音に、みことの胸がぎゅっと締めつけられる。
「ごめんね…俺、ちゃんと話してから行けばよかった…」と小さく呟くみことに、
すちは溜息をついたあと、ぽつりと漏らした。
「……ほんと馬鹿。でも……もう少しで許す」
そんなすちの言葉に、みことの頬が少し赤く染まり、「……すち……」と呟きながら、そっと手を伸ばしてすちの袖を掴んだ。
静かで、けれど温かく甘い空気が、食卓をゆるやかに包み込んでいた。
しかしこさめは空気を読まずににこにこと笑いながら話し始めた。
「みことくんとなつくんが手を繋いで歩いてるの見てさ、あれって浮気かと思っちゃったよ!」
その言葉にらんは即座に「こら、ばか!」とこさめの口を塞ごうとしたが、間に合わず、こさめの言葉はそのまま空間に響いた。
すると、すちは静かに「へぇ……」とだけ言い、みことに向けて少し意味ありげな微笑みを向けた。
みことはその視線に圧を感じ、思わず後ずさる。
すちは落ち着いた口調で「4人は帰ってもいいし、このまま泊まってもいい。でも、寝室だけは絶対に開けないでね」と言い残し、みことを抱き上げる。
寝室へ向かおうとするすちが足を止め、ちらりと振り返って、いるまとひまなつに視線を向けた。
「そうだ。いるま、ひまなつ。」
一瞬、空気がぴりっと張り詰める。すちの声は穏やかだが、その響きには芯の冷たさがあった。
「次会うときまでに、ちゃんと仲直りしてなかったら……俺、本気で怒るから。」
その目は冗談ではなく、本気のものだった。
ひまなつはぎくっと肩を震わせ、いるまは一瞬驚いた表情を浮かべるも、すちの真剣な眼差しに小さく頷いた。
その言葉を最後に、すちはみことをしっかりと抱き直し、寝室の扉を閉めた。
みことは慌てて「ちょ、待って!」と声を上げたが、もう遅かった。
静かに、しかし確かに、扉の向こうの空間にふたりだけの時間が始まった。
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