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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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―ピザ屋―
夕方。
少しだけ傾いた光が店内に差し込む。
チャンスは同じ席に座っている。
テーブルの上。
コイン。
カラン
指で弾く。
受ける。
見ない。
また弾く。
カラン
静か。
客の声も遠い。
頭の中に残っているのは――
「疲れるの好き」
エリオットの声。
チャンスは小さく息を吐く。
「……変なやつ」
オーブンを見る。
スタッフがピザを焼いている。
あいつの代わりに。
忙しそうに。
チャンスは思い出す。
汗かいて。
クタクタになって。
それでも楽しそうに笑う顔。
ネクタイ引っ張ってくる手。
チャンスはコインを握る。
少しだけ強く。
「……」
立ち上がろうとして。
止まる。
椅子に深く座り直す。
コイン。
カラン
弾く。
落ちる。
テーブルの上で止まる。
チャンスは見ない。
ただ。
そこに座り続ける。
⸻
―屋敷―
広い部屋。
重い扉。
静かな空気。
エリオットはソファに座っている。
目の前には――父。
ドン・ビルダー。
低い声。
「エリオット」
エリオット。
「ん」
父。
「前に言っていたな」
少し間。
「後継ぎの件」
エリオットの目が少しだけ動く。
父が続ける。
「考えると」
沈黙。
エリオットは少し視線を落とす。
指先。
ネクタイは無い。
代わりに。
自分の指を軽く握る。
父。
「どうする」
静かな圧。
エリオットはすぐには答えない。
少しだけ考える。
それから。
別のことを口にする。
「ミアは」
父の眉がわずかに動く。
「……あの子がどうした」
エリオットは顔を上げる。
「学校」
「ちゃんと行ってる?」
父。
「問題ない」
エリオット。
「最近」
少し間。
「寂しそうだった」
父は何も言わない。
エリオットは続ける。
「俺がいないと」
小さく笑う。
「拗ねる」
ほんの少しだけ。
柔らかい顔。
でもすぐに戻る。
父。
「話を逸らすな」
エリオット。
「逸らしてない」
父。
「後継ぎの話だ」
エリオットは静かに息を吐く。
そして言う。
「……まだ」
父。
「まだ?」
エリオット。
「決めてない」
沈黙。
重い空気。
父はしばらくエリオットを見る。
それから低く言う。
「時間は多くない」
エリオットは何も言わない。
ただ。
頭の中に浮かぶ。
ピザ屋。
オーブン。
ケーキ。
コイン。
そして――
ネクタイ。
⸻
―ピザ屋―
チャンスはまだ座っている。
コインを指で回している。
カラン
小さく言う。
「……どうするか、か」
でも。
コインは投げない。
ただ。
指の上で転がし続ける。
⸻
二人は別の場所。
同じ問い。
まだ。
答えは出ていない。