テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#恋愛
#長編
コテンと不思議そうに小首を傾げるのは狡い。今だって言葉の端々に好きだって好意を出しているのに「伴侶」なんて冗談──とかこの手のことで言わないだろうから本気なのだろうけれど、私の心臓が持たない。
「その……伴侶にって……」
ごにょごにょと尻つぼみになりつつも、口にすることができた。ルティは自分の発言を思い出し、また顔が真っ赤になった。
「あああ! あれは本心というか、そうなれたら良いなって思ったのであって、その催促とか、迫るようなことではなくて……でも、シズクが……許して……くれるのなら……」
二人してあわあわしてしまう。
「そ、その……」
溶けかけているジェラートに気づいて、一度冷静になろうと一口食べる。一口ヒンヤリとしたミルク味にちょっとだけ冷静になった。
「伴侶は……まだ……その、気持ち的に……でも、添い寝ぐらいなら……いいかなって」
「シズク!」
できるだけ明るく、そして前向きな気持ちを伝えた。正直、正式な伴侶になった後、ルティが豹変するのではないか、と勘ぐってしまっている部分がある。結婚するまでヴィクトルも優しかったのだ。だから釣った魚には餌をやらない可能性は、ゼロじゃ無いのだ。
(ルティを信じたい。でも……信じる勇気が私には……。それにお互いに話していないことはまだある。それが解消されてから……)
前世は自分の身分や立場に雁字搦めになって選択肢が、それしか選べなかったのと、それを選んだのは違う。
なんて偉そうなことを考えていても、私はルティの保護化にいるのだから万が一のことも考えて──考えたくないけれど自立することは準備しておこう。
(そうならないと良いな)
淡い希望を抱いてしまう。だってルティが「出て行け」と言ったら(言わないと思うけれど)、その一言で私の生活は崩壊する。前世の私、ブリジットがそうだったように、選択肢が一つしか無ければ、それに縋り、そして袋小路に迷い込めば、もう戻れない。
(ルティに追い出されたら、お金もない、身分もない。行く場所も……修道院なら受け入れて貰えるかもしれない。そうなってほしくないけれど、一応、万が一のために……)
最終手段。人は逃げ道があると、少しだけ心に余裕を持つことができるらしい。
その後は無言でジェラートを完食。そろそろ移動しようとしたところで、ルティが私の手を掴んだ。
「ルティ?」
「シズクはこの世界に転移させられて、頼れる身内、知り合いもいない。だから私の求婚に対して、慎重になるのもわかります。それに『怖い夢』で結婚生活が怖かったのならなおさらでしょう。私もそのことで、シズクに伝えていないことがあります」
「……」
「だから、私の配慮の欠けた発言を謝罪したい。決してシズクを軽んじたわけでも、冗談だったわけでもありません」
「うん。ルティがそう言ってくれる人でよかったです」
この世界で多少、種族階級が取り払われても、強行しようと思えばできてしまう立場の人なのだ。それでも私を対等に見てくれる。
それが何よりも嬉しい。知れば知るほどルティは誠実で紳士的で、私のことをちゃんと気遣ってくれる。
「……シズク、一つだけ約束してほしいのです。もし自立するために一人暮らしをしたいとか、仕事を始めたいとか、理由はなんでもいいけれど、私の家を出たいと考えているのなら、何も言わずにいなくなるのだけは……それだけはしないでくれますか?」
「ルティ」
それはブリジッ──、前世の私の最期を思い出すから?
手に冷や汗が出たけれど、動揺を見抜かれないように視線を下げて顔を隠した。
「もちろん……。黙っていなくなったりしないわ」
あの最後の日だって、勝手にいなくなった訳じゃないもの。もう限界で、逃げ道がなかったから、自分で自分の幕を降ろしただけ。
王女だったブリジットは庶民として生き残りたいという強い気持ちも、生活できるだけの知識や経験も、まして国同士で取り決めた結婚の責任からも逃げられなかった。
「約束」
「約束。……ルティ、小指を出して」
「?」
「こうやって小指を絡めて、これで『ゆびきりげんまん』です」
「ユビキリゲンマン? シズクの国のまじないですか?」
ちょっと嬉しそう。そしてさりげなく距離を詰めてきたのはなぜだろう。近くないだろうか。
「約束を破ったら──拳で一万回殴るぐらい許さないって意味です」
「天竜狐族では誓約を破ると、命に関わるような罰が下るから似ていますね」
(天竜狐族の約束が思った以上に重い!)
他種族でも似たような作法があるのかと、一瞬だけ親近感が湧いたけれど正直凄く怖い。
「シズクと約束」
ルティの綻んだ笑顔に胸がギュッと締め付けられる。約束が増える度に、ルティへの思いがどんどん大きくなっていく。
一年後も、その先も一緒に居たい──そう願ってしまう反面、お互いに抱えている秘密が重くのしかかる。さっさと言ってしまえば良いのに、今の関係が心地よすぎて踏ん切りが付かない。
(ルティを待たせて、足踏みしてばかりだけれど、……どうかもう少し、もう少しだけ踏み出すための時間がほしいの)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!