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こちらの茨さん🖌️
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「ねぇロシュフォール、国民の竜神様に対する恐怖心は薄らいで来てるかしら?」 竜神の妙薬が、国内で一般的に認知されるようになった頃、シトリンは侍従のロシュフォールに訊ねた。
本当なら、自分で調べたい所なのだが、なにぶん、生まれも育ちもお姫様。そんな自分は庶民的な考えから剥離していると自覚しているし、いくら聞いたって本音は引き出せないだろう。
なので、王家に仕えているとはいえ、身分は平民のロシュフォールの意見を参考にする事が多かった。
「私の見立てでは、水の効能は皆認める所でございますが、竜神様への畏怖は消えていない物かと」
赤竜を前にした時は、情けなく腰を抜かしたロシュフォールであったが、平時は切れ者で頼りになる男だ。
背筋をピンと伸ばし、威風堂々とした立ち姿。オールバックでピシっと決めたロマンスグレーの髪に、整えられた口髭。
細身の身体には似合わぬ風格があり、見るからに辣腕という風情だ。
「何度も山に人を送ってるんだから、そろそろ誤解が解けてもいいはずなのに、どうしてかしら」
シトリンが首を捻りながら、顎に指を当てて考え込む姿勢になると、ロシュフォールは恭しく語りかけた。
「お言葉ながら、あの山へ登ったのは私と姫様を除いて、皆屈強な者ばかりです。庶民からしてみれば、あの者達ほど体力、あるいは腕力の無い自分では、山には登れないと思うのでしょう」
ロシュフォールの建言に、シトリンは確かにそうかもしれないと納得した。
シトリンは、竜神様が話が分かる相手だと知っているし、赤竜の住まう五合目までなら、自分の足でも日帰りで行き来出来ると知っている。
しかし、大半の者にとって、グレンヴァル山は禁足地。それも、恐ろしい化け物が住んでいる、おっかない山だ。
当然、そのような場所は、一般市民には登る資格が無いように思われている事だろう。
「それなら、安全に登れる山だと証明するために、誰かを招待しないと________
シトリンは、そこまで言った瞬間、両手で机をバンと叩き、そのまま頭突きでもするかのような勢いで、机の上で手の間に顔を埋めた。
「姫様!?」
シトリンが突然奇行に走ったので、ロシュフォールは、はしたない行為を注意する事も忘れて、飛び上がって驚いた。
シトリンは、数秒の間、歯を食いしばり、背中を震わせてから、絞り出すように声を出した。
「ソラヤが帰る前に気が付きたかった……」
*********
シトリンは翌日から、誰を山に招待させるべきか悩み出した。
ソラヤが居れば、それ以上の適任者は居ないが、アルタリアに帰ってしまったのだから、もう頼れない。
ソラヤは奔放ではあるが、王女という身分だから、そう簡単には呼べないし、そう頻繁にはやってこない。
だからと言って、次に来るまで待っていたら、温泉水の効能に対する熱気は、冷めてしまうかも知れない。
だから、山に招待する人間は、ラヴァリン国内から探さなくてはならない。
自分や、その他王家の者も駄目だ。
全て自力で登ったとしても『お姫様なんだから、当然お付きの者を連れて、おんぶに抱っこで登ったんだろう』と思われるのが関の山である。
「誰に登らせるのが適任かしら……」
思いつかない。ソラヤという、最適任者を思いついてしまっただけに、他の考えが浮かばなくなってしまった。
「他の人に、聞いて回るしかないわね」
こういう時は、自分で考え込まずに、他人の意見を求めた方がいい。特に、今のような凝り固まった考えに囚われている時なら尚更である。