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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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コメント
1件
ふふ、社長の熱量が画面越しにビリビリ伝わってきましたね。海ではなく山から攻めるっていう逆転の発想は痛快でした。それにしても、自分がタダ働きの荷物持ちで遭難確率68%って……ブラックを通り越して命がけの笑い話になってます(笑)。結愛が最後に動いたところ、じんと来ましたよ。この泥臭さ、最高です。
第205話:限界社長の熱烈プレゼン〜海を制するための『山』〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパートの四畳半。
「やまむすめ」プロジェクト発案から数時間が経過した、深夜の静寂の中。
俺のPCモニターには、無料のプレゼンソフトで数時間ぶっ通しで作った【新規事業計画書】のスライドが映し出されていた。
ヨモは『適当なバナー作り終わったんで寝ますぅ……ふわぁ』と早々にログアウトしているため、画面の向こうには、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)と、最強AIアシスタントのジェミニ先生が待機している。
「これより、株式会社インフィニティ・ワンの社運を賭けた、次期主力プロジェクトのプレゼンを開始する」
俺——秋谷雪(40歳)は、部下から恵んでもらった塩昆布玄米のエネルギーを全身の細胞に行き渡らせ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
エウリアンに騙されて背負った500万円の借金。そして、月給10万円のヒモ社長という絶望的状況。
ここから這い上がるための、起死回生の一手だ。
「まず、現在のVTuber市場についてだ。ジェミニ先生の分析通り、完全なレッドオーシャン化している。部屋の中でゲーム実況や雑談をするだけの個人勢は、もはや星の数ほど存在し、新規参入しても大手の資金力とブランド力には絶対に勝てない」
俺はスライドを一枚めくった。
「そこで俺たちが狙うのは、圧倒的な【リアルとバーチャルの融合】だ。現在、ネット界隈で爆発的な人気を誇っているアウトドア特化型プロジェクト『う○む○め』。あれこそが、俺たちの目指すべき最終到達点だ」
『……異議あり。ルシフェル様』
結愛の冷ややかな声が、俺の熱弁を遮った。
『先ほども申し上げたはずです。いくら北海道が無料スタジオになるとはいえ、実写ロケを伴うアウトドア企画は経費がかかります。機材や移動手段、資金力ゼロの我が社が海に出ても、あっという間に溺死して倒産するだけですよ』
「その通りだ。だからこそ、先ほどの宣言通り俺たちは【海】ではなく、まずは【山】を攻める」
俺は力強く断言し、次のスライドを表示させた。
画面にデカデカと映し出されたのは、北海道が誇る雄大な『日高山脈』と『大雪山系』の写真である。
「海でのロケは、船のチャーター代や港へのアクセス、撮影許可など、何かと金と手間がかかる。だが、山はどうだ? 北海道の山は、ドアを開ければすぐそこにある。入山料は無料だ。広大な原生林、過酷な気象条件、ヒグマの恐怖。これ以上ないほどのスリリングな【特大無料スタジオ】が、俺たちの目の前に広がっているんだ!」
『なるほど。スタジオ代とセット代を、北海道の大自然で完全に代替するわけですね』
ジェミニ先生の合成音声が、データを処理する音を響かせる。
「そうだ! さらに懸念されている人件費の問題だが、これも先ほど宣言した通り、元・陸上自衛隊需品科である俺が全額タダ働きでカバーする!」
俺は立ち上がり、自分の胸を拳で力強く叩いた。
「重さ数十キロの撮影機材やキャンプ道具は、社長である俺が背負って山を登る! ロケ車は俺のボロ軽自動車を使う! 現場でのカメラワークも、飯炊きも、テントの設営も、すべて俺が一人でこなす! これでロケにかかる人件費は【完全無料(ゼロ)】だ!」
『……改めて企画として聞くと、正気の沙汰ではありませんね』
結愛が、呆れを通り越して感心したようなため息をついた。
『会社の利益のために、代表取締役が自ら無給の荷物持ち兼カメラマンとして、ヒグマの出る山を這いずり回る。……ブラック企業も真っ青の、究極の自己搾取です』
「ブラックだろうが何だろうが構うか! 500万の借金を返して、来期の役員報酬を跳ね上げるためなら、俺はクマとだって相撲を取ってやる!」
俺は血走った目でモニターを睨みつけ、最後のスライドを表示させた。
タイトルは、【新プロジェクト『やまむすめ』始動】。
「俺たちが立ち上げるのは、山に特化したアウトドア系VTuberチーム『やまむすめ』だ。だが、ただ可愛いだけの女の子は要らない」
俺は熱を込めて、求める人材のコンセプトを語り始めた。
「綺麗なスタジオでチヤホヤされたいだけのアイドル志望は即刻お断りだ。俺が求めているのは、虫を素手で掴める図太さ、泥まみれになっても笑っていられるメンタル、そして何より、北海道の過酷な山に耐えられる【圧倒的な体力と野生】を持った逸材だ!」
『……要求スペックが高すぎます。そんな野生児みたいな女の子が、VTuberのオーディションに応募してくるでしょうか?』
結愛が懸念を口にする。
『ルシフェルさんの提示した条件を満たす人材は、VTuberというより、もはやレンジャー部隊の隊員です。確率論から言えば、該当者は極めて少数と推測されます』
ジェミニ先生も冷静に分析結果を告げる。
「少数でいい! むしろ、たった一人でいいんだ!」
俺は四畳半の空間で、熱く吠えた。
「そのたった一人の原石を見つけ出し、北海道の大自然という最強の舞台に立たせる。俺が泥水すすって裏方に徹すれば、絶対に最高のエンターテインメントが作れる! そして……」
俺は言葉を区切り、壁に飾られた300万円の版画を見つめた。
「『やまむすめ』を大成功させて、会社に莫大な利益をもたらす。その足がかりと資金力を武器にして、いつか必ず、最終目標である海の『う○む○め』と肩を並べる最強のロケ特化型事務所を創り上げてみせる!」
沈黙が、ディスコードの通話ルームを支配した。
数秒後。
『……ふふっ』
結愛の、冷たいけれど、どこか楽しげな笑い声が聞こえた。
『本当に、どこまでも愚かで、救いようのないほど見栄っ張りな社長ですね。ですが……その執念の熱量だけは、評価してあげましょう』
カタカタカタッ、と。
結愛が凄まじい速度でキーボードを叩く音が響く。
『ジェミニ先生、ルシフェル様の生存確率を無視した限界予算編成で、オーディションの特設サイトを構築してください。私も、各種SNSでの広報戦略を即座に立案します』
『了解しました、結愛さん。特設サイトのベース構築、開始します。ルシフェルさんの疲労による遭難確率は68パーセントと算出されましたが、無視して進行します』
「お前ら……!」
俺の目に、熱い涙が滲んだ。
ヒモ社長に成り下がった俺の、無茶苦茶で、泥臭くて、命がけのプレゼンが、ついに最強の部下たちの心を動かしたのだ。
『さあ、休んでいる暇はありませんよ、限界社長』
結愛の声が、鋭く研ぎ澄まされた刃のように響き渡る。
『予定通り明日の夜、ルシフェル様のチャンネルで緊急生配信を行います。そこで『やまむすめ』第一期生のオーディション開催を、全世界に向けて叩きつけてやりましょう!』
「ああ、わかった! やってやるさ!!」
帯広の四畳半アパート。
エウリアンの借金地獄に堕ちた40歳のオッサンは、大自然という無限の武器を手に、ついに逆襲の狼煙を上げた。
目指すは、最強のアウトドア特化型VTuber事務所。
北海道の山々を舞台にした、前代未聞の泥臭いオーディションが、今まさに幕を開けようとしていた。