テラーノベル
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オーブンの音が止まる。
チャンスが扉を開けると、焼き上がったピザの香りが一気に広がる。
「……うわ、いい感じじゃん」
エリオットが少しだけ目を見開く。
チャンスは無言でピザを取り出して、まな板の上に置く。
慣れてない手つきのわりに、ちゃんと焼けてる。
エリオットは横から覗き込んで、
「ちょっと貸して」
とナイフを取る。
カットして、一切れ持ち上げる。
少し冷ますみたいに息をかけてから——一口。
「……ん」
小さく頷く。
もう一口食べて、
今度はちゃんとチャンスの方を見る。
「……うまいじゃん」
素直な声。
チャンスは少しだけ肩をすくめる。
「だろ」
短い返事。
エリオットはくすっと笑って、
もう一口食べる。
それから、何気ない顔で言う。
「じゃあさ」
少しだけ首を傾ける。
「うちでバイトしない?」
軽い調子。
冗談半分、でも完全な冗談でもない言い方。
チャンスは一瞬だけ眉を上げる。
「は?」
エリオットは笑う。
「だって人手足りないし」
ピザを持ったまま、肩をすくめる。
「今のレベルなら、まあギリ戦力になるんじゃない?」
軽口。
でも、どこか楽しそう。
チャンスは少しだけ間を置いて、
「……考えとく」
と返す。
エリオットはそれを聞いて、ふっと笑う。
「前向きじゃん」
チャンスは何も言わない。
でも、少しだけ距離が近い。
さっきより自然に。
エリオットはそれに気づいて、
ほんの少しだけ目を細める。
「ねえ」
「ん?」
「時給、安いよ?」
からかうように言う。
チャンスはちらっと見る。
「別にいい」
短く。
エリオットは一瞬だけ止まって——
それから、小さく笑う。
「……そっか」
それ以上は何も言わない。
ただ、また一口食べる。
そのまま、隣に並んで立つ。
触れるか触れないかの距離。
昨日みたいな駆け引きも、
さっきまでの照れも、
全部どこかに残したまま。
でも今は——
ただ、同じピザを食べてるだけ。
「……これ、商品にしてもいいかも」
エリオットがぽつりと言う。
チャンスは軽く頷く。
「好きにしろ」
エリオットは笑う。
「じゃあ採用」
軽く言い切る。
そのまま、横目でチャンスを見る。
「——バイト初日、お疲れさま」
冗談っぽく。
でも、少しだけやわらかい声で。
チャンスは小さく息を吐いて、
「まだ決めてねえ」
と返す。
エリオットはくすっと笑う。
「どうだか」
軽く肩が触れる。
どっちも、避けない。
そのまま——
静かな朝の空気に、ピザの匂いが混ざる。
END
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