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(……いた。あの日、私の世界を止めた人)
放課後の図書室。夕陽が差し込む窓際の席に、氷室先輩はいた。
相変わらず、周りの空気まで凍らせてしまいそうなほど冷ややかな横顔。
心臓の音がうるさくて、足が震える。
でも、あの日から先輩のことばかり考えちゃうんだもん。
「あの……っ、ここ、座ってもいいですか?」
勇気を振り絞って声をかけたのに、先輩は本から目も離さない。
長いまつ毛が微かに揺れて、低くて温度のない声が返ってきた。
「……勝手にしろ。静かにするならな」
(冷たいっ……! でも、声が聞けた……!)
私は慌てて隣に座って、持ってきた教科書を開いた。
……けど、全然内容なんて頭に入ってこない。
すぐ隣から、先輩の清潔で少し冷たい香りがして、意識が全部そっちに向いちゃう。
チラッと横を見ると、ページをめくる先輩の指先が驚くほど綺麗で。
氷室先輩の冷たい視線が突き刺さって、頭の中がパニックになる。
私の恋は、春の風に乗って、ほんの少しだけ前に進んだみたあんなに冷たいのに、どうしてこんなに目が離せないんだろう。
その時。
「……おい」
不意に名前を呼ばれた……わけじゃなくて、睨まれた。
先輩の冷酷な瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「さっきからページが一度もめくられてない。……監視でもしに来たのか?」
(ひえっ、バレてる……!)
嘘をつかなきゃ。勉強してたって言わなきゃ。
そう思えば思うほど、心臓の音が耳元でうるさくて、口が勝手に動いちゃった。
「ち、違います! あの……先輩が、あまりに綺麗すぎて……っ」
「……は?」
言った瞬間、図書室の空気が凍ったのがわかった。
やってしまった。私、何言ってるの!?
「あ、いや! その、夕陽が当たってて、本を読んでる横顔が、その、絵画みたいだなって思ったら、目が離せなくなっちゃって……!」
顔から火が出るほど恥ずかしくて、私は教科書で顔を隠した。
あぁ、もう絶対「変な新入生」って思われた。今すぐ消えてなくなりたい……。
「…………バカじゃないのか、お前」
呆れたような、さっきよりも少しだけ低い声。
嫌われたと思って震えていたら、トントン、と机を叩く音がした。
教科書の隙間からおそるおそる覗くと、先輩はもう本に目を戻していたけれど。
……あれ?
先輩の耳の先が、ほんのり赤くなっているような気がした。
「……見てないで手を動かせ。そこ、間違ってるぞ」
先輩の指が、私のノートのめちゃくちゃな計算式を指さす。
冷たい言葉。でも、突き放されたわけじゃない。
(もしかして……教えてくれてるの……?)