テラーノベル
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あれから数日。朝起きてリビングに向かう。階段を降りていたら母親が勢いよく部屋から出てきた。突然の事で驚いてしまい、階段を踏み外しそうになる。間一髪で持ちこたえ文句を言ってやろうと顔を上げれば、そこには顔面蒼白になった母の顔があった。
『涼ちゃんが……涼ちゃんがっ…!!』
「は?」
「涼太っ!!」
俺は勢いよくドアを空けた。そこには色んな管につながって横たわっている涼太の姿があった。
朝母親から聞かされたのは「涼太が倒れた」と言う知らせ。倒れただけなら別にここまで慌てない。でも、違った。母が続けた言葉は「息をしてない」。俺は一気に怖くなって急いで病院に駆けつけた。
『グスッ……翔くん……っ』
涼太が寝ている横の丸椅子にはおばさんが涙を流しながら座っていた。こんなおばさんは見たことがなくて、こんなに声が震えたこの人を見たことがなくて…生きた心地がしなかった。
「涼太は!?」
『グスッ……一命は…っ、取り留めたけど、…っいつ起きるか…分からない……っっ…』
「…!??」
『涼ちゃん……!』
俺の母親も涙目になっていた。あれだけ仲良かったやつが死ぬかもしれないってなったら怖いよな。俺だって怖いもん。涼太の頭付近にある心電図モニターからはピッピッと安定した音が鳴っている。それでも涼太の呼吸は浅く見えた。
おばさんから聞いた涼太の病名は俺も聞いたことがなかった。あと一歩処置が遅れていたら本当に危なかったそうだ。
涼太は何の前触れもなく、急に倒れたそうだ。いつも元気だった涼太だったからおばさんは今も放心状態で、静かに泣いていた。でもおばさんはゆっくり…ゆっくりと俺に教えてくれた。
『この頃…元気だけど、元気じゃない顔をする事が多くなっててね…』
『“どうしたの?”って聞いても“何でもないよ”って笑顔で返されて…』
「……」
『もしかしたら…っ、この時から辛かったんじゃないかって…ずっと、ずっと後悔してて…』
「…!」
静かに聞いていた俺の脳裏に数日前の涼太の顔が浮かんだ。いつもみたいに笑ってなくて、何処かつらそうで、でも笑って誤魔化してた涼太の姿が。何で俺はあの時無理にでも聞き出さなかったのか。涼太の性格上聞きすぎたら逆に辛くなるんじゃないかって……
いや違う…俺は涼太の心に踏みいるのが怖くて、何も聞けなかったんだ。
「……ポロポロッ 」
『えっ…翔太どうしたの?』
「……おれっ……涼太が、こんなんになるなら…っあの時っ!!……聞いとけばよかった…」
『っ……翔太…』
母親は俺の背中をそっと…優しく撫でてくれた。声を殺して泣く俺をただ、ただただ優しい目で「大丈夫、大丈夫」って言って。
「おはよ、涼太」
もちろん返事はない。涼太が倒れて3週間が過ぎた。もうそろそろ1ヶ月…
俺は仕事の合間を縫って毎日涼太の病室にお見舞いに行った。ある日は涼太が好きはフルーツ。ある日は涼太が好きな薔薇の花束。
涼太に「今日はフルーツだよ」とか「今日はお花だよ」って声をかけても、当たり前に涼太はピクリともしない。それでも俺は根気強く話しかけた。きっと、涼太は寝てても俺の話を聞いてくれてると思って。
「涼太ぁ?今日はね……」
俺はそっと、涼太の手を握った。
「今日は俺が手繋いであげる…懐かしいでしょ?ちっさい時はずっと手繋いでさ、」
「俺が涼太を引っ張って色んなところに行ったよね…覚えてる?」
思い出話に花を咲かせても何も起きやしない。俺はそれからも涼太の手を握ったまま、昔話をいっぱいした。早く涼太が起きますようにって祈りながら…
外には綺麗なオレンジに染まった世界が広がっていた。9月半ば、金木犀は静かに涼太と俺の横に咲いていた。
仕事帰り、珍しく残業になってしまいお見舞いに行く時間が取れなかった。毎日行くはずだったのに今日は行けなさそう。ふぅと溜め息が漏れた時、後ろからトントンとされ振り向いた。そこには後輩の目黒と同期の阿部が立っていた。
「うおっ…何してるの?」
「この頃、元気ないみたいなんでご飯行きましょう」
「こういう時は美味しいものたべるのが一番なんだから!」
俺を心配してご飯に誘ってくれた2人。俺は少し考え、断りを入れた。
「ごめん、今日は帰りたいからさ」
「えぇ?やだぁ~いこーよーっ」
「あのね……」
「お願いします!」
「んん……」
結局、根負けして飯に行くことに。行き慣れた居酒屋のテーブル席でご飯が運ばれてくるまでビールと片手に枝豆で談笑をしていた。2人は終始イチャイチャしており「帰っていいか?」なんて聞いたら慌てて腕を引っ張り止められ、俺が呆れ気味に「やめろ」と言う。
2人は「ごめんなさい」って苦笑い。そんな行動がシンクロしてるコイツらを見ると少しだけ、おかしいなと思って笑みがこぼれた。すると、すかさず阿部が口を開く。
「あ、やっと笑ったね」
「はぁ?俺はいつでも笑ってるわ」
「んーん?この頃笑うどころか部長にまで真顔で接してたよ?」
「は?うそっ」
「ほんとっすよ?そのせいか部長、俺に“俺何かしちゃったかな?”なんて聞かれたんすから」
「……まじか、無自覚だわ」
「明日謝らねーと…」
「でも一部女子からは“冷酷王子”ってあだ名つけられて騒がれてたよ?笑」
「なんだそれ」
「ある意味、そのほうがモテていいんじゃないっすか?笑」
「黙れクソイケメン目黒」
「…それは喜んでいいのかな?」
なんだ“冷酷王子”って…なに?俺無口で真面目に仕事してたらモテるわけ?いやいやいや…
とんだ変人もいるんだなと思って2人を見たら、何故かにこにこしている。
「なんだよ」
「いや、翔太前モテたいって言ってたから丁度いいじゃないって思ってさぁ?笑」
「素直じゃないっすね」
「……そう…ね、」
モテる。涼太が倒れる前まで確かにモテたいと思っていた。だが今はどうだっていい。今は涼太が早く目を覚ましてほしいと、そのことしか考えていないほど恋愛なんてどうでもよかった。
「いや…別モテなくていい」
「え?なんでよ?」
「…色々あんの」
「……それ、元気ない理由と関係あります?」
こいつ鋭いな…
「まぁ…多少は?」
「……何があったの?俺たち心配なんだよ」
いつになく真面目な阿部の声に一瞬驚いた。そんなに態度や表情に出しているつもりないのだが、やっぱり分かるやつには分かるんだなと痛感した。幼なじみの話をしたほうがいいのか、はたまた嘘に嘘を重ねて自分の感情を保ったほうがいいのか。俺は言葉が出ずにいた。
「…話しにくいことですか?」
「…少し」
「俺たち、本当に翔太が心配なんだ」
「無理にとは言わない。でも話してみれば翔太にとって良いこともあるかも知れないよ」
「……」
阿部の言葉に心が揺らいだ。話してしまって、今後の俺のために助言をもらうべきなのかもしれないと。でもこれは俺と俺の心の問題。人に話して解決するのは違うんじゃないかって思う自分もいる。
「…少し、席外すな。気持ちの整理、つけたいから」
「うん、いいよ」
「ゆっくりでいいっすからね」
「…ぉぅ」
コメント
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涼太くん関連の登場人物の心情が辛すぎて感情移入👈 今度こそ涼太くんが目を覚ますことを祈って、続きを楽しみにしております🙏🏻🍀
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