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#オリジナルストーリー
いなり
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#オリカンヒュ
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春だった。
校庭の桜はまだ散りきっておらず、風が吹くたびに淡い花びらが中庭へ舞い落ちていく。
中学三年になったヴァルは、新学期の放課後も相変わらずパソコン部の部室へ向かっていた。
別に全国大会を目指すような部活でもない。放課後に集まってプログラムを組んだり、小さなゲームを作ったり、たまに先生に頼まれた資料を作ったりする程度の、のんびりした部活だ。
「さてと……今日は何作ろっかな。」
椅子へ腰を下ろした、その時だった。
部室の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは、一人の後輩だった。
黒髪。
少し長めのウルフカット。
横には細い三つ編みが揺れている。
制服もきっちり着ていて、緊張しているのが遠くからでも分かった。
「お、新入部員?」
ヴァルが笑顔で声をかける。
その声に、後輩は少し肩を揺らした。
「……はい。」
小さな返事。
「俺、ヴァル!」
勢いよく立ち上がり、手を差し出す。
「よろしく!」
後輩は少しだけ迷ってから、その手を握った。
「……セトです。」
「よろしくお願いします。」
握手が終わる。
沈黙。
数秒待つ。
……何も続かない。
「終わり?」
「……はい。」
思わず吹き出した。
「会話短っ!」
セトは首を傾げるだけだった。
その反応が妙に面白くて、ヴァルは笑いながら椅子へ座り直した。
「ま、よろしくな!」
「……はい。」
また終わり。
こんなに会話が続かない相手は初めてだった。
だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
むしろ少し気になった。
──この後輩、何考えてるんだろう。
その日から、ヴァルは毎日セトへ話しかけるようになった。
部活が始まる前。
「セト、おはよ!」
「……おはようございます。」
プログラムを書いている時。
「何作ってる?」
「……課題です。」
「順調?」
「……はい。」
帰る時。
「また明日!」
「……はい。」
返事は短い。
それでも、無視はしない。
目を見て、小さく返してくれる。
ヴァルはそれだけで十分だった。
ある日の放課後。
部室にはキーボードを叩く音だけが響いていた。
カタ、カタ、カタ……
ヴァルは画面を見ながら話しかける。
「セト。」
「……はい。」
「ゲーム作ろうぜ。」
「……ゲーム?」
「うん。」
「一人じゃ飽きる。」
「だから手伝え。」
セトは少しだけ考える。
「……命令ですか。」
「違う違う。」
ヴァルは笑った。
「お願い。」
少しだけ間が空く。
「……分かりました。」
「よし!」
その日から二人は同じ画面を囲むことが増えた。
ヴァルがアイデアを出し、セトが静かにコードを書き足していく。
会話は少ない。
だけど、不思議と気まずくはなかった。
部室に響くのは、キーボードの音だけ。
その静けさを、セトは嫌いじゃなかった。
それから数週間。
ヴァルは簡単なアクションゲームを完成させた。
「できた!」
得意げにノートパソコンをセトへ向ける。
「遊んでみ。」
「……はい。」
キャラクターが歩く。
ジャンプする。
敵を避ける。
順調だった。
……やり始めて三分までは。
突然、敵キャラクターが床を突き抜け、そのまま空へ飛んでいった。
「……。」
画面の中で敵はどんどん小さくなっていく。
ヴァルも固まる。
「……。」
セトも画面を見つめたまま動かない。
しばらくして。
「……ふ。」
小さな笑い声。
ヴァルは勢いよく振り向いた。
「今笑った!?」
「……。」
「笑ってません。」
「いやいや! 絶対笑った!」
「……気のせいです。」
「敵が宇宙行ったぞ!?」
セトは口元を隠したまま、小さく肩を震わせていた。
ヴァルは思わず指を差す。
「ほら! 今も笑ってる!」
「……。」
「笑ってません。」
「隠すなって!」
セトは少しだけ視線を逸らした。
「……あれは。」
「敵がおかしかっただけです。」
「俺じゃなくてゲームに笑ったのか!」
「……はい。」
「そこは少し気を遣え!」
部室に笑い声が響く。
その日、セトは初めて少しだけ長く笑った。
帰り道。
夕日が校舎を赤く染めていた。
ヴァルは自転車を押しながら歩く。
「次はもっと面白いゲーム作る。」
隣を歩くセトは、小さく答えた。
「……期待してます。」
ヴァルは足を止める。
「え。」
「今、期待してるって言った?」
セトは一瞬だけ目を丸くした。
「あ……。」
しまった、という顔をする。
「……。」
数秒黙ってから、小さく咳払いをした。
「……言ってません。」
「言った言った!」
「期待してるって!」
「……聞き間違いです。」
「いや絶対違う!」
セトは少しだけ歩く速度を速めた。
その耳が、ほんのり赤くなっていることにヴァルは気付く。
でも、何も言わなかった。
ただ嬉しくて、笑いながら後を追いかける。
「待てって、セト!」
「……。」
返事はない。
けれど少しだけ歩く速度が落ちる。
ヴァルはその隣へ並んだ。
まだ友達と呼ぶには早い。
けれど、もうただの「先輩と後輩」
でもなかった。
そんな二人の春は、静かに少しずつ動き始めていた。
コメント
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あー、めっちゃ良い雰囲気の話だったわ。無口な後輩・セトがちょっとずつ心開いていく過程が丁寧に描かれてて、特にバグで敵が宇宙行ったとこで笑っちゃうシーンは最高だったな。ヴァルの「会話短っ!」からのテンポも良くて、読みながら自然と頰が緩んだ。次はどんなゲーム作るのか気になるし、二人の距離がどう縮まっていくのか楽しみだわ。ゆもちさんの描く日常の空気感、すごく好き。