テラーノベル
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城に住み始めてから、少し経った。
正確な日数は分からない。
時計がないからだ。
けれど。
レウには、なんとなく分かるようになってきた。
眠くなったら寝る。
腹が減ったら食べる。
起きたららっだぁを探す。
そして。
暇になったら城を歩く。
そんな毎日だった。
「……暇」
廊下の真ん中で呟く。
返事はない。
らっだぁはどこかにいる。
たぶん。
いや。
もしかしたら、いないかもしれない。
「らっだぁ」
呼んでみる。
当然、返事はない。
「らっだぁー」
もう一度。
やっぱりない。
レウは少し考える。
それから。
「命令」
と呟いてみた。
返事はない。
「……俺まで何やってるんだ」
自分で言って笑った。
そのまま歩き出す。
長い廊下。
何度歩いても広い。
けれど、最近は迷わなくなってきた。
少なくとも、自分の部屋と食堂くらいは分かる。
地下への階段も。
中庭への道も。
らっだぁがよくいる部屋も。
少しずつ。
この城のことが分かってきた。
角を曲がる。
そこには、昨日までなかったものが置いてあった。
小さな椅子。
「……何これ」
近付いてみる。
木製の椅子だった。
特別高価そうでもない。
古くもない。
ただの椅子。
レウは首を傾げた。
誰が置いたのだろう。
答えは考えるまでもなかった。
「らっだぁ?」
呼ぶ。
すると。
少し離れたところから声が返ってきた。
「ん?」
壁の向こうから、ひょこっと顔を出す。
「これ」
レウが椅子を指差す。
「あぁ」
「何?」
「椅子」
「それは見れば分かる」
「じゃあいいじゃん」
「そういう問題じゃない」
最近、よくこのやり取りをしている気がする。
らっだぁは椅子を見る。
「そこ、座る場所なかったから」
「俺の?」
「たぶん」
「たぶん?」
「違ったら俺の」
「どっちだよ」
レウは笑った。
らっだぁも少し笑う。
それだけだった。
けれど。
レウは椅子に座ってみた。
ちょうどいい高さだった。
「……悪くない」
「そう」
らっだぁはそれだけ言って、またどこかへ行こうとする。
「待って」
「なに?」
「ありがとう」
らっだぁが振り返る。
少しだけ目を丸くした。
「⋯どういたしまして」
そう言って。
今度こそ行ってしまった。
レウは椅子を見た。
ただの椅子。
それだけなのに。
少し嬉しかった。
それから数日。
城の中に、少しずつ物が増えていった。
最初は椅子。
次は、小さな机。
その次は棚。
どれも必要最低限のものだった。
レウが欲しいと言ったわけでもない。
らっだぁが何も言わずに置いていく。
「これ何?」
「机」
「それは分かる」
「じゃあいいでしょ」
「……もういい」
そんなやり取りも増えた。
そして。
レウ自身も、少しずつ物を増やしていった。
森で拾った綺麗な石。
花冠を作った時に余った花。
古い紙。
本。
食堂から持ってきた小さな皿。
全部、大したものではない。
けれど。
自分で選んだものだった。
ある日。
レウは自分の部屋を見回した。
最初に来た時は。
何もなかった。
大きなベッド。
机。
本棚。
それだけ。
今は違う。
窓辺には小さな石。
机の上には本。
壁には、森で拾った葉。
そして。
棚の隅には。
少し枯れた花。
レウはそれを見つめる。
「……増えたな」
いつの間にか。
自分のものが増えていた。
自分がここで暮らしている証拠みたいだった。
その時。
扉が開く。
「何してるの?」
らっだぁだった。
「部屋見てた」
「何か変?」
「いや」
レウは部屋を見回す。
「物が増えたなって」
らっだぁも部屋を見る。
「そうだね」
「最初、何もなかったのに」
「俺の部屋もそうだったよ」
「え?」
レウが振り返る。
「見る?」
「いいの?」
「うん」
らっだぁは歩き出した。
レウもついていく。
長い廊下。
角を曲がる。
階段を上る。
そして。
以前見た、らっだぁの部屋。
扉が開く。
中へ入る。
相変わらず暗い。
けれど。
以前とは少し違っていた。
机の上。
そこには。
花冠があった。
あの日のもの。
すっかり乾いて、花は少し色を失っている。
それでも。
捨てられてはいなかった。
レウは立ち止まる。
「まだあったんだ」
「うん」
「捨てないの?」
「捨てない」
「枯れてるよ」
「知ってる」
らっだぁは花冠を見る。
「初めて、誰かからもらったものだから」
レウは何も言えなくなった。
らっだぁはそれ以上何も言わず、本棚へ向かう。
レウはもう一度、花冠を見る。
少しだけ。
胸が温かくなった。
「……じゃあ」
レウは言った。
「もっと増やそうよ」
らっだぁが振り返る。
「何を?」
「物」
「なんで?」
「この城、広すぎるから」
「うん」
「何もなさすぎるし」
「そう?」
「そう」
レウは少し考える。
「だから」
笑う。
「もっといっぱいにしよう」
らっだぁは黙った。
少し。
本当に少しだけ。
そして。
「いいよ」
そう言った。
それから。
二人は少しずつ城を変えていった。
レウが花を見つけて飾る。
らっだぁが古い家具を見つければ持ってくる。
森へ行った日は、石や枝を拾った。
食事をした後は、食堂に綺麗な皿を置いたままにする。
本を読んだら、机に置く。
椅子を一つ置く。
二つ置く。
使う部屋を少しずつ増やす。
最初は何もなかった場所に。
少しずつ。
生活の跡が増えていった。
ある頃。
レウは食堂にいた。
らっだぁも向かいに座っている。
二人の間には、食べ終わった皿が二枚。
それだけ。
けれど。
レウはそれを見ていた。
「どうしたの」
らっだぁが聞く。
「いや」
レウは笑った。
「なんか変だなって」
「何が?」
「この城」
らっだぁが周囲を見る。
「普通じゃない?」
「前はもっと静かだったじゃん」
「今も静かだよ」
「そうだけど」
レウは少し考える。
そして。
「前より、狭く感じる」
らっだぁが目を瞬かせる。
「狭い?」
「うん」
レウは笑った。
「物が増えたからかな」
らっだぁは周囲を見る。
広い食堂。
高い天井。
長い机。
以前と変わらない。
それなのに。
確かに。
何かが違っていた。
「……そうかもね」
らっだぁが言った。
レウは少し笑う。
「ね」
しばらく沈黙。
けれど。
その沈黙はもう寂しくなかった。
誰かがいる。
物がある。
生活がある。
それだけで。
大きすぎた城が。
ほんの少しだけ。
二人の家になっていった。
その後。
レウは自分の部屋へ戻った。
扉を閉める。
ベッドへ腰掛ける。
窓を見る。
厚いカーテンの向こう。
外はまだ知らない世界。
朝も知らない。
太陽も知らない。
青空も知らない。
けれど。
今は、それでよかった。
この暗い城の中で。
自分たちは少しずつ。
何かを増やしている。
時間も。
思い出も。
物も。
そして。
一緒にいる理由も。
レウは布団へ潜り込む。
目を閉じる。
明日もまた。
何かが増える気がした。
NEXT=♡1000
#らっだぁ
あまらだ。フォロバ確
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コメント
5件
最高です… 次回も楽しみにしてます!