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(…勝った…!僕の、完全勝利だ…!)
目の前で言葉を失い、顔を真っ赤に染めて固まっている佐久間を見て、阿部は心の中で高らかに凱歌をあげた。長きにわたる研究の成果が、今、ここに結実したのだ。これでもう、「いつも僕ばっかり」なんて言わせない。
込み上げてくる達成感に、阿部の口元が勝利の笑みを刻もうとした、まさにその瞬間だった。
俯いて黙り込んでいた佐久間が、ゆっくりと顔を上げた。
その顔は、まだ真っ赤に染まったまま。潤んだ瞳も、変わらない。
だが、その表情は、阿部が予想していた「完敗」のそれとは、全く違っていた。
唇の端が、楽しそうに、そしてどこか挑戦的に、ニヤリと吊り上がっていたのだ。
そして、掠れた、それでいて妙に色っぽい声で、佐久間はこう言った。
「…阿部ちゃん」
「な、なに…?」
「そんなに俺のこと、好き?」
「へ…?」
予想外すぎる言葉に、阿部の思考がフリーズする。
好き?いや、そういう次元の話ではなく、これはあくまで作戦の成果であって…。
阿部が脳内で必死に言い訳を探していると、佐久間はさらに一歩、阿部との距離を詰めた。そして、ブレスレットの箱を愛おしそうに撫でながら、とどめの一言を放つ。
「ブレスレットってさ…?」
こてん、と首を傾げ、妖艶な上目遣いで、佐久間は囁いた。
「『束縛』とか『独占欲』って意味、あるんだよ…?」
その言葉は、まるで強力な呪文のように、阿部の脳天を直撃した。
(そくばく…!?どくせんよく…!?)
そんな意味があるなんて、知らなかった。いや、リサーチ不足だった。阿部の『完全勝利マニュアル』には、プレゼントに込められた花言葉や宝石の意味までは記載されていたが、アクセサリーそのものが持つ意味までは、完全にノーマークだった。
「俺のこと、誰にも渡したくないってことでしょ?…ふふ、阿部ちゃん、意外と独占欲、強いんだね」
ニヤッと笑うその顔は、もう完全にいつものペースを取り戻していた。完全に、主導権を握り返されていた。
「ち、ちが…!これは、そういう意味じゃなくて、あの日の星座で…!」
「はいはい!照れちゃって〜可愛いなぁ」
あたふたと言い訳をする阿部の頬を、佐久間は楽しそうに指でつつく。
そう。
作戦は成功したはずだった。佐久間を完敗させた、はずだったのに。
彼の、あまりにもスケールが大きく、あまりにも真っ直ぐで、そしてあまりにも計算外の最大級のカウンターパンチによって、形成は一瞬で逆転してしまった。
今、顔を真っ赤にして言葉を失っているのは、一体どっちだ。
「……っ」
結局、今回も佐久間に「完敗」させられてしまった。
阿部は、熱くなった顔を手で覆い、天を仰ぐ。
しかし、そんな阿部に、佐久間は勢いよくぎゅっと抱きついた。
「…でもさ、すっげー嬉しかった。ありがと、阿部ちゃん。俺も、阿部ちゃんのこと、宇宙で一番好きだよ」
耳元で囁かれた、どこまでもストレートな愛情表現。
その言葉に、阿部の心は、もう降参の白旗を上げるしかなかった。
作戦は、大失敗だったのかもしれない。
でも、その敗北は、今まで味わったどの勝利よりも、ずっとずっと、甘くて幸せな味がした。