テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
自室の机のライトだけが、煌々と阿部亮平を照らしている。彼の目の前には、数日前に彼のプライドを粉々にした戦いの記録…『対・佐久間大介 完全勝利マニュアル』が開かれていた。
ノートの新しいページには、震える文字で書かれた赤字が痛々しい。
【第二次作戦:敗因分析】
敗因:プレゼントの選定ミス。『束縛』という意味を持つブレスレットは、相手に『好き』という感情的なカウンターを許す最悪の一手だった。結果、こちらの感情を逆手に取られ、完敗。
「…そうか。感情に訴えかけるのが間違いだったのか…?」
阿部はペンをカチカチと鳴らしながら、天井を仰いだ。ロマンチックなシチュエーション、二人だけの特別感…。それらは全て、佐久間の土俵に自ら上がっていくようなものだったのかもしれない。
「いや、違う…!」
阿部は勢いよく椅子を回転させ、机に向き直った。
「僕の武器は『知識』と『データ』だ。感情的な攻撃ではなく、圧倒的な『事実』と『証拠』を突きつければ、彼も感情論で返すことはできないはずだ…!」
そうだ。彼が得意とする「好き」という曖昧な言葉で反撃できないようにすればいい。
阿部の目に、再び闘志の炎が宿った。
「ロマンチックな奇襲がダメなら、彼の思考を、僕という存在の『証拠』で埋め尽くすまで…!」
阿部はノートに新たな作戦名を書き記した。
『第二次作戦:プロジェクト・エビデンス(証拠)』
それは、Snow Manのインテリジェンスが、己の全てを懸けて挑む、あまりにも理性的で、狂気的なリベンジマッチの始まりを告げる合図だった。
阿部亮平の奇行が、再び始まった。
しかし、今度の彼は以前のように佐久間を直接観察することはなかった。彼の戦場は、ノートパソコンの中へと移っていた。
カタカタカタ…ッターン!
楽屋の隅で、阿部は凄まじい集中力でキーボードを打ち鳴らしている。画面には、過去のブログ記事、膨大な数のインタビュー記事、そしてメンバーの誰かが撮ったオフショットの写真や動画が、目まぐるしく表示されては、フォルダに整理されていく。
「ねぇラウールー阿部ちゃん、今度は何?僕たちのドキュメンタリーでも作ってるの?」
「さぁ…?でも、この前のさっくんの研究より、目がマジだよね」
メンバーは、鬼気迫る様子の阿部に遠巻きに声をかけるが、彼は「今、重要なデータと向き合っているんだ」と返すだけで、手の内の全てを明かそうとはしない。
ある日のこと。
岩本が、楽屋の隅で信じられない光景を目撃する。
阿部が、小さなホワイトボードの前に立ち、レーザーポインターを片手に、誰に言うでもなくブツブツと呟いていたのだ。
「ご覧ください。このグラフが示す通り、佐久間くんとの接触後、僕の主観的幸福度は、統計的に有意な水準に達しており…」
「……。」
岩本は静かにその場を離れた。
(過去の自分と向き合っているんだろう。そっとしておいてやれ)
リーダーの温かい(そして、盛大な)勘違いが、阿部の極秘作戦をさらに後押しすることになった。
着々と証拠集めとシミュレーションを重ね、阿部はついに「プレゼンテーション」という形で、佐久間に反論の余地のない「事実」を叩きつけることを決意する。
そして彼は、「次のクイズ番組の予行演習がしたい」という、極めて自然な口実で、テレビ局の小さな試写室の予約を取り付けたのだった。