テラーノベル
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ちゃぷちゃぷと水の跳ねる音が心地いい。満点の星空の元、俺とミアとカガリは風呂で疲れを癒していた。
「で、どうなったの?」
湯舟に浸かりゴツゴツとした岩に背中を預けていると、ミアは俺の顔を覗き込む。
結果、筋書き通りに事は進み、ミアとカガリにはダンジョンで起きたことを全て話した。
特に脚色もせず淡々と語る俺を見ながら、ミアは楽しそうに耳を傾けていたのだ。
「ミア。ここからは大事な話だ。誰にも話してほしくない。聞きたくなければそう言ってくれ」
急に真剣になった俺を見て、何かを察したミアは気を引き締めると力強く頷いた。
「大丈夫。誰にも言わない」
「俺な……実はカッパープレートじゃないかもしれないんだ……」
ミアを抱き寄せ耳元で小さく囁くと、ミアも同じように声を細める。
「うん。それで?」
「……」
「え? それだけ?」
「あれ? 驚かないのか?」
ミアは驚くと言うより、安堵といった表情を浮かべていた。
身構えたにも関わらず、大したことない内容に拍子抜けといった様子。
ミアはそのまま湯船に顔を半分ほど沈めると、ぶくぶくと泡を立てる。
「なんだあ。そんなことかあ……」
「なんだ、って……。ミア、知ってたのか!?」
「薄々だけどそう思ってたよ? おにーちゃん強すぎるもん。カッパーな訳ないじゃん」
逆に驚いたのは俺の方。開いた口が塞がらない。
「どーして教えてくれなかったんだ!」
「え? いずれ話すから信じて待っててくれって言ったのおにーちゃんでしょ?」
確かにそう言った覚えはあるが、それはダンジョンマスターのことである。どうやら語弊あったらしい。
ミアはおもむろに立ち上がり星々が輝く空を見上げると、水飛沫を上げ勢いよく振り返った。
「でも、よかった。おにーちゃんの隠し事が大したことなくて」
水に濡れたミアの身体は年相応に華奢であるものの、可憐で美しく見えた。
それは降り注ぐ月明りが水面を照らし、キラキラと光を反射させていたからなのだが、俺にはミアの安堵した表情と笑顔の方が、何よりも輝いて見えたのだ。
本当の事はまだ言えない。ギルド職員であるミアの責任問題に繋がってしまう恐れがあるなら、今はまだ黙っておくのが最善である。
「そうだ! ミア、カガリ。明日から旅行に行くぞ」
「お泊りデート!?」
急なお出かけ宣言に、目を輝かせるミア。
「今回は、ネストさんとバイスさんも一緒だ」
「ええーなんでえー……」
一瞬にして曇る表情。露骨というか自分に正直というか……。
「明日スタッグに帰るそうだが、スタッグなら俺の再鑑定をしてもらえるみたいでな。話の流れでそうなった」
それを聞いたミアの表情はさらに険しくなった。冗談などではなく、嫌悪感がはっきりと表れていたのだ。
「私、行きたくない……」
「え?」
まさか、断られるとは思っていなかった。ベルモントの時と同様に、喜んでくれるとばかり思っていたのだが……。
「どうしたんだ急に?」
「行くのやめよう? 私はおにーちゃんがカッパーのままでも全然平気だし……」
さっきまでの元気はどこに行ってしまったのか……。
駄々をこねているようには見えないが、その表情はどこか不安げで、微かだが身体を震わせているようにも見えた。
「なんで行きたくないんだ?」
「……」
ミアは俯き、答えようとしなかった。
今にも泣きだしそうなミアを慰めるかのように頬を寄せるカガリ。
僅かに水面が揺れ、シンと静まり返る空間。
その様子を見て思い出した。ミアはコット村に来る前、王都のギルドに在籍していたということを。
死神と呼ばれ、忌み嫌われていたのだ。それがいい思い出のはずがない。
ならば、今回は諦める。本当のプレートというのは気になるが、そんなことよりもミアの悲しむ顔は見たくなかった。
「よし。じゃあやめよう!」
「え?」
「やめようと言ったんだ」
「……」
「ちょっと待ってろ。断ってくるから」
俺がその場で立ち上がると、ミアは俺を引き留めた。
「待って!」
握られた手は、幼いながらも強い意志を感じるほどに硬くなだ。
「やっぱり行く……」
「……いいのか?」
「うん、もう大丈夫」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫。おにーちゃんにカガリもいるもん」
「……そうか。気が変わったらすぐに言うんだぞ?」
過去、ミアに何があったのかは知らないが、俺のために覚悟を決めてくれたのだろう。
ミアを抱き上げ、諭すように優しく頭を撫でた。
「心配するな。何があっても俺はミアの味方だ……」
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