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やや注目を浴びながらもなんとかHRには間に合い、俺と弦は登校した。
「おー!凸凹おはよ!」
裂が二カッと笑って挨拶をしてくれる。
「おう!!はよ!」
「….おはよう」
弦が不慣れそうに微笑んで挨拶を返す。
「なっ…弓矢が…..お、俺に….笑っ….」
裂が目を丸くして弦を見つめていると、
『きゃあぁあぁ!!!!!』
と女子の歓声が上がった。
「ゆ、弓矢くんが赤峙くん以外に…笑った…」
「待って私。ほんとにやばい。落ちた。」
「ど、どうしよう本気で好きになっちゃったかも….。かっこいいよぉ…」
相変わらず凄まじい人気だった。
(…ま、どうせ弦は興味無いんだろうけど…って..は?!)
前までどれだけチヤホヤされようとニコリともせずにスルーしていた弦が、歓声をあげた女子に向かって微笑んでいた。
「….ありがとう..HR始まるよ..」
すると少しの間沈黙が走った後、鼓膜が破れるくらいの歓声が上がり、中には倒れる女子もいた。
(いやここまでは怖ぇよ!!!!)
____ズキッ
急に胸が痛んだ。走ったからだろうか。
何にせよ弦の急激な態度の変化には戸惑いを隠せない。
俺はHRが終わってすぐ、弦のところまで行った。
「なー弦?」
「….ん?どうしたの」
嬉しそうに微笑む弦を見て、動悸が激しくなった。
「お前なんか…急にどうしたの」
「何が?」
「だーから!前まで挨拶にも歓声にも興味なかったじゃん」
「正直興味は….無いよ。でも言ったじゃん、好きになってもらえるように努力するって」
「…え、何お前その為に?」
「うん….社交性くらいないと真に釣り合わないと思って…….」
(…うわッ…何ッだコレ………)
弦の行動は俺に好かれる為の努力だったことを知って、酷く胸が締め付けられた。呼吸すらしにくかった。
「…もうチャイムなるよ」
「ッお、おう!!」
席に着くと、1つ前の席に座る女子とその隣の女子の会話が聞こえた。
「ねぇ…あんた弓矢くん本気なの?」
「う、うん….ほんと身の程知らずなのは分かってるんだけど……本気で好き…かも」
「敵多いねぇ….」
「あ、あのね!せめて話しかけて…連絡先交換するくらいは頑張りたいの…協力してくれる?」
「もちろん!!!この授業終わったら行こうね」
「うん…!」
どうやら、1人は弦のことを本気で好きになってしまったようだった。
__ズキン…
この胸の痛みには、気付かないふりをした。
__授業終了。
「よし、覚悟決めた?!行くよ!」
「う、うん!!」
先程の女子二人が弦の元へ走る。
「あ、あああああの!!」
「…?はい」
「え、えっと…く、クラスメイトとして?!仲良くなりたいです….!!!れれれ連絡先交換してくれませんか?!」
「..俺…?…………………わかった」
(?!は!!!!?何許可しちゃってんの?!)
「え?!!!!ほ、ほんとに?!」
「うん….ただやり方知らないから、はい」
そういうと弦は、パスワードを開いたスマホを女子に渡した。
「ど、どうしよう手が震えて….は、早くしなきゃ…」
「いや別に…..ゆっくりでいいよ…」
(…..何か…何ッか….やだ…な)
女子達が次は私だと弦の携帯を取り合っている中で、俺はたまらず教室を出た。
少し遅れて弦が出てくる。
「真っ」
「…何?」
「え….何か怒ってる…?」
「….いや全然っ?!なーにビビったんかー?」
そう誤魔化して先に行こうとする。
理不尽な憤りを弦にぶつけるなんて可哀想すぎる。絶対に嫌だ。
すると弦は俺を追いかけて腕を掴んだ。
「….真、嘘つかない」
「は…?」
「次自習だよね」
「お、おう?」
よし、と弦は俺の腕を掴んだまま歩いて行く。
導かれるがまま、中庭に着いてしまった。
「お、おい弦お前サボっていいのかよ」
「……..確かに。あ。」
なにか閃いたかのように弦はスマホを取り出し、文字を打ち始めた。
「な、何してんだよ」
「いや…..無理やり俺が連れてきてるし真までサボりになるのはおかしいから…さっき声かけてきた子に連絡入れて先生に体調不良って伝えてもらおうと思って…」
考えるより先に、体が動いていた。
俺は手を伸ばして弦のスマホを取り、自分のポケットにしまった。
「真….?サボりになっちゃうよ」
「べっ別にいい!!!」
「….真…手、触っていい?」
「…うん..」
弦の両手に俺の両手が繋がれ、胸がじわじわと暖かくなっていくのを感じた。言い表せないほどに、嬉しかった。
「真、やっぱり今日いつもと違うよ。ずっと眉間にシワよってるし。」
「そ、そんなことねぇよ」
「……本当?」
弦に真っ直ぐ見つめられ、嘘がつけなくなった。
「….そんなこと..ある…..けど、別におまえは関係ないよ、俺の問題。」
「….それでも、言うまで離さない。」
(…それなら一生言いたくねぇよ..)
「くだらねぇよ?」
「うん、くだらなくていい」
「困らせるかも」
「既に真のことしか考えてないから問題ない」
「……俺まだ弦の連絡先知らないんだけど」
「え?」
「なんで急にみんなに笑顔見せんだよ、優しくすんだよ…そりゃ惚れちまうに決まってんだろ」
1度言葉にしてしまうと、栓が抜けたかのように抑えきれなくなった。不安や不満が口から流れ出していく。
「それにさ、お、俺のこと好きなら俺にだけ優しくすればいいんじゃねぇの…?な、なんでみんなのこと見んだよ、俺は今日お前のことしか…」
はっとして弦の顔を見ると、あまりにも優しい目で、微笑んでいた。
思えば俺が不満を垂れている間も、ずっと手を握りさすってくれていた。
「うん….真はそう思ってたんだね。気づいてあげられなくてごめんね、ありがとう」
ギューーッと、また胸が締め付けられた。
__『俺は今日お前のことしか』。
うん、俺は今日、弦のことしか見てない。
「弦、まだ不満…もいっこあった」
「うん、聞く。聞かせて。」
「俺今日ずっと、お前のことしか見てないよ。なのにお前の目には俺じゃない人が写ってた」
「….それが…不満?」
「うん。やだ。すっげぇやだ。ダセェこと言ってる自覚はあるよ。」
ちゃんと分かったよ。
大切だと思う人は沢山いても、その人の一挙一動にこんなに忙しなく揺らいだことは無い。
指先ひとつ触れるだけで、電撃くらったみたいにびりびりして、暖かくなって、幸せで。
「真、話してくれてありがとう。真は..俺の目には他の人が写ってたって言ってたけどそれは多分逆で….真しか見えてなかったからこそ肝心の真が見えなくなってた。本末転倒だ。本当にごめん。」
ちゃんと手を握りながら、真っ直ぐ目を見て応えようとしてくれる。
大好きだ。
「弦」
「ん?」
「弦、俺ね。お前のこと大好きだ。」
「…え、それって……お、俺真が思うより賢くないから勘違いするよ…?」
「してよ、勘違いじゃねぇ。俺ちゃんと、弦に恋してるよ。」
「は、え、ほ、本当に…?」
「うん….なぁ弦、俺と付き合って。」
「…..っうん…もちろん…喜んで…」
夢なのかな、と泣きながら自分の頬をつねる弦を見て、たまらなくなった。
「弦」
「なに?……っ__」
__________。
「ははっ、やっぱ抑え効かねぇもんなんだな!あん時の弦の気持ち今ならわかるわ」
「ちょっ、えっ..真ここ学校…!!!」
「俺は自慢したくてたまんねぇよ、弓矢クンは俺の恋人ですーって。」
「そ、そんなの俺だって….」
そう言って赤面し目を泳がせた弦は、俺の手を引き用具倉庫の中に入った。
「げ、弦サン?」
「…真、先に聞くけど..もう少し、触れてもいいかな…」
「は、はい….そりゃもちろん…」
「よかった」
嬉しそうに微笑む弦を見て、心臓が痛くなる。
「真、口開けて」
「ん….!?……っ…ぁ…..ぅ…っ…ん”ん..」
「大丈夫?」
「はぁっ…はぁ…息….わかんな…」
「うん、教えるから大丈夫」
「んんんんー!!!…」
________20分後。
「真….その顔で外出たらダメだよ」
「へぁ….んんっ…も…..終わり..?」
「またそうやって煽る….始めたの俺だから言えないけど…..次はちゃんと場所選ばなきゃな..」
俺だってキスだけでこんなんになるとは思ってもみなかった。弓矢 弦のハイスペックは分野を問わないらしい。
「弦…大好きだ….」
「すごい言ってくれるタイプなんだね、可愛い。俺はもっと好きだよ。」
「負けねェぞ」
そんなやり取りをしてる内に授業終了のチャイムは鳴り、俺たちは何事も無かったかのように教室へ戻った。
弦を囲う女子を見て、ちょっと優越感に浸ったのはここだけの秘密だ。