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「……アルベドの夢?」
私が聞き返せば、彼は、コクリと首を縦に振った。
何でいきなり? って思ったけど、彼が話したいと、自分から言ってくれたことが嬉しくて、そして、それがどれだけ、勇気ある行動なのかって、私は、その重さを受け止めていた。
だって、夢の話なんて人にするものじゃないから。
でも、口にしないと叶わないとか言う。けれど、言ったところで、馬鹿にされるか理解されないか、同情、実際にはそれが全てそのまま伝わっていなかったりとか。だからこそ、話すのは、怖いし、夢なんて人に語れない。
私の夢は何? と聞かれたら、まず、今の状態では考えることも出来ない。
それも、アルベドの顔を見ていると、今できた夢とかじゃなくて、ずっと追ってきた夢、見たいに捉えられたから。
私にそれを言ってくれるってことは、私のこと信頼しているんだなって言うのは、凄く伝わってくる。それしか、あり得ない。
「そうだよ。俺の夢の話」
「そう……アンタの夢の話」
「まあ、独り言だと思って聞いてくれ」
と、アルベドは、自分への理解を諦めたように、ぽつぽつと喋り始めた。
「俺は、光魔法と闇魔法が手を取り合っていける世界を作りたかった。闇魔法に生れたからじゃねえ。光魔法の貴族として生れても、平民として生れてもそうしたかったと思う。闇魔法が迫害されている現状。光魔法が、戦争で人を傷付ける現状。それを聞いてきたからこそ、魔法は何のために存在して、そして、何故二つの魔法が存在するのか考えた。まあ、人は争っていかなきゃ生きていけないってのもあるかもだけどな。女神と、混沌みたいに。相容れない存在を作ることで、平穏ばかりじゃない世界を作りたかったのかも知れねえ。人外の考えることはよく分からねえし、それが良いのかどうか、俺達には分からねえよ。でも、俺は、そうやって、憎しみ合わない世界を作りたかった」
「世界平和ってこと?」
「まあ、くくって言えばそうだろうな。世界平和。笑えるだろ?」
と、アルベドは、自笑する。
確かに、誰かがそれを聞いたら馬鹿にするかも知れない。闇魔法のひがみだろとか言われるかも知れない。それを避けてか、アルベドは、どんな風に生れたとしても、と、逃げ道を作っているように思えた。まあ、大概は、闇魔法に生れて、その現状に絶望したとかは入っているんだろうなってのは分かるけど。
(でも、世界平和とか望むようなタイプだって思っていなかったから……意外、かも)
そんな風に思って生きてきた。行動してきたっていうのが、その言葉から伝わってきた。でも、言われるまで、そんな風に思っていたんだ、っていうのは気づかなかったし、所々、光魔法に対しての、嫌味も言っていた。まあ、闇魔法がさんざん言われてきたって思ったら、そうだし、言い返したくなる気持ちも分からないではないけれど。
アルベドらしいと言うか。
でもそれは――
「まあ、異端に見られるよな。俺が、光魔法と手を組もうとか言いだしたらさあ。そりゃ、皆反対だった。母親にはぶん殴られたし、使用人からも冷たい目で見られた。レイ公爵家の使用人って、大概迫害された奴雇ってるからな。闇魔法だったから、光魔法の奴らから迫害されたって言う過去を持つ奴らばっかり。だから、光魔法に対していいように思っていなかった。大抵はそうだ。光魔法の使用人なんて雇わない。大体、迫害された闇魔法の奴らを雇うことになってる。救済とか思ってねえよ。結局は、こき使ってるんだから、そうかわらねえ。貴族は、搾取する側だからな。そこも、俺は気にくわなかったが」
「お母さんに殴られた?」
アルベドが? と、信じられないとみれば、彼はプッと吹き出した。
「そーそー、殴られたよ。あんときは、まだ俺も子供だったからな。なんで殴られたか、理解できていなかった。でもなあ、今になって思えば、ありゃ、失言だったと思うぜ?闇魔法の女性は、大抵プライドが高い奴らばかりだ。闇魔法であることを誇りに思っているっつうか、そうすることで、自分を保ってるっつうか。光魔法に生れたかったっていう、気持ちを押し殺して生きて、光魔法を蔑んでんだよ。相容れない存在として。だから、俺は、殴られた。母親なら、俺の気持ち、理解してくれるだろうって思ってたんだけどな」
と、アルベドは、悲しい目をしていった。
同情したら、失礼だから、分かるよ、なんて言えなかった。でも、その気持ちは、似ているなって思った。自分が信じてきたものを、否定されるのが、夢を馬鹿にされるのは悔しいことだと思う。私だって、気をひきたくて始めたピアノを、生産性がないからやめろって言われたときは悔しかった。もう、ピアノなんて弾きたくなって思えるほどに、私は絶望したし。
子供の頃に受けた傷って一生残るから、アルベドの中でも、残ったんだろう。
そして、母親だけじゃなくて、使用人にも変な目で見られたと。子供の頃のアルベドは、それで居場所があったのかと、不安になってきた。もし、それで孤立して、今のアルベドになっていたとしたら、それは大人が悪いと思う。
子供の時の傷は、大抵親の責任だって思ってる。
(例え、子供を亡くしていたとしても、それを当てつけるのは違う)
廻のことが頭に浮かんで、私はどうしようもない気持ちになった。親ってそう言うものって思っていたからこそ、何というか、アルベドの母親もそうなのかって思ってしまって。いい家って言い方も変だけど、一般的な家に生れてきたらどれだけ良かったか、他の可能性はあったかとか考えてしまう。
普通なんて何処にもないけれど。
「まあ、だから、俺はもう人に夢を語らないって思った。そんで、自分の置かれている現状がが、夢見がちなエゴじゃどうしようも無いものだって言うのも痛感した。明らかな格差、壁、それを感じてしまったら、もうどうしようもなかったな。光魔法と闇魔法は相容れなく作られているものって、そう世界のルールを突きつけられた気がする」
「でも、それで諦めたアルベドじゃなかったんでしょ?」
今も、私に夢を語るってことは、それを、信じているから。
どれだけ、壁があろうと、どうにか出来るかも知れないって言う希望を信じているから、アルベドは私にかたってくれたんだと思う。それが、過去形じゃなくて、現在形だから。
「ああ……信じてる。そういう世界がくるようにって……だが、そんな時だったな。彼奴に殺されかけたのは」
と、アルベドは、ぼんやりとした目で、夜空に浮かぶ満月を見上げていた。
虚無感が漂う目を見ていると、いつしかのグランツを思い出させた。
そして、そのアルベドのかたった言葉が、何となく何のことを言っているか分かってしまって、私は自分からこれだよね? と聞くことは出来なかった。
アルベドにとって、一番辛かったことじゃないかなって。
「……」
「ラヴァインの野郎に殺されかけたことか。暗殺者を仕向けられたな。なんでか今でも分からねえけど」
「……許してないの?」
「許すと思うか?」
「ま……まあ、寝込み襲われて、不眠症って……分からないでもないし。それは、ラヴィが悪いかも」
理由はどうであれ、実の兄を殺そうとしていたと。それは、大罪だと思う。
それを、親がどう受け止めたかは分からないけれど、前世の世界とはまた違って、こっちの世界の貴族というか、そういう暗黙の了解だったり、当主争いだったりは色々あるんじゃないかと思う。でも、聞く限り、幼い頃、といっているから、まだ、善悪の認識が出来ていなかったからかもしれない。けど、ラヴァインに限ってそれはなさそうだしと、考えたとき、やはり考えられるのは、意思あってそれを命令した……という感じだろうか。
(ほんと、この兄弟怖いのよね……)
「それで、人間不信に?」
「そうだな。それは、一生ものの傷だと思ってるし、彼奴を許せない一つの原因でもあるな」
「じゃあ、なんで今回、この入れ替わりを提案したの……」
「あ?」
「えっと、えっと、だから、その、アルベドだよね。多分、この提案したのって……あ、話してくれたじゃん。入れ替ろうって提案したの……だから、仲がそこまで悪くないのかなとかも思っちゃうわけで……違う?」
私は、思わず聞いてしまった。
信頼していないのに、そんなことが可能なのだろうかと。だが、アルベドは、その質問が可笑しいとでも言わんばかりに、顔を歪めていた。何が正しくて間違っているかは、分からないし、レイ兄弟については、理解できない部分が大きい。
(というか、乙女ゲームでそう言う情報がないからっ)
分かっていたら、少しは、想像できたけど、アルベドに兄弟がいるって言う情報から、私は知らなかったわけで。
私が、黙って見つめていれば、アルベドは、少し考えるように視線を逸らした後、頭を撫でた。
「俺は兄だからな、寛大な心で許してやるんだよ」
「許せてないじゃん」
「許せるものと、許せねえものぐらいあるだろ」
「……ええ…………つまり、信頼しているけど、許してはないと」
「まあ、そうだな」
分からない感情!
男の兄弟ってこんな感じなのだろうか。それとも、アルベド達がおかしいだけ!?
私には分からなかったけど、まあ、本人がこんなのだから、もう、いいやと思った。話が余計にややこしくなるって。
「お前のせいで話が飛んだ」
「私のせいにしないでくれる!?」
「まあ、んなこともあって、人間不信は募って、孤独を選んだんだよ。俺の事理解してくれる奴なんていねえって思ったし、いたとしても、同情して欲しかったわけじゃねえし」
「……同情は、分かるかも」
して欲しくないって言う気持ちは。だって、何処まで行っても、当事者にはなれないから。
「人間不信の原因になったくせに、暗殺者として働いてたのは何でよ」
私が、一番疑問に思っていたことをぶつければ、アルベドはピタリと動きを止めてしまった。
「何?」
「いや、お前よく覚えてたなって」
「何で、アンタとの出会いが一番衝撃的だったんだけど!?」
忘れもしない。暗殺現場! あれを忘れろって言う方が無理よ。
私がそう言うと、アルベドは何処か嬉しそうに、ふ、ふはっ、と堪えきれなくなった笑いを漏らした。