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「真紀ちゃん、美味しい?」
私の目の前で、ニッコリと優しく微笑む静香さん。
あの日の事などまるで何もなかったかのように、普段通りに戻った静香さん。
私はといえば、あの時見た静香さんの姿が忘れられずに、どう接すればよいのかわからなくなっていた。
(早く貯金を貯めて、一人暮らししなくちゃ。それまでは、極力静香さんと関わらずにすればいいだけだし……)
数日前に香澄に相談した私は、その時からそう考えるようになっていた。
けれど、夕飯だけはどうしても避けられない。私の為にわざわざ静香さんが作ってくれているのだし、今まで一緒に食べていたのに突然それを辞めたら明らかに不自然だ。
「……はい。凄く美味しいです」
「良かった。今日のスペアリブは、自信作なのよ」
私の為に料理を作り、私が美味しいと言えば嬉しそうな顔をする静香さん。そんな姿を前に、チクリと胸が痛む。
(こんなに、いい人なのに……)
そんな静香さんのことを少し怖いと感じてしまっている私は、一方的に避けてしまっているのだ。
今、こうして目の前で微笑んでいる静香さんを見ていると、何故、こんなにも優しい笑顔を見せる静香さんのことを怖がっているのかと、自分でもよくわからなくなってくる。
罪悪感にそっと目を伏せると、目の前にいる静香さんが口を開いた。
「真紀ちゃん? ……やっぱり、口に合わなかったかしら?」
「あっ……、いえ! とっても美味しいです!」
心配そうに私の顔を覗き込む静香さんを見て、慌てて顔を上げると小さく微笑む。
その言葉は勿論嘘などではなく、確かにとても美味しいのだ。
(……暗い顔を見せちゃ、ダメだよね)
そう思った私は、ニッコリと笑うとお皿に盛られたスペアリブに手を伸ばした。
突き出た骨を掴んで美味しそうに肉汁を垂らす肉にかぶりつけば、口の中一杯に香ばしい香りが充満する。そのまま少し弾力のある肉を骨から剥がすと、私は口の中に入った肉の味を充分に堪能してから、ゴクリと喉を鳴らして飲み込んだのだった。
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食事を終えて自室へと戻ってきた私は、携帯を開くと画面をスライドさせた。
「まだ、既読にならない……」
手元の携帯を眺めながら、ポツリと小さく呟く。その視線の先には、香澄とのメールや通話の履歴が表示されている。
(どうしたんだろ……)
バイトで顔を合わせた日以来、香澄と連絡がつかないのだ。
私の家を探すと言っていた香澄。
その日、私はバイトが終わるとすぐに香澄に電話を掛けてみた。
数回鳴らしても繋がらない電話に、諦めた私はメールを送信しておいた。それが、未だに未読のままなのだ。
『静香さん。今日って、誰か家に来ましたか?』
3日前、帰宅した私がそう尋ねると、『誰も来てないわよ。どうして?』と不思議そうな顔をしていた静香さん。
あの日——もしかして、香澄は何処で事故にでも遭ったのだろうか……?
そんな不安が、頭を過ぎる。
私は通話ボタンを押すと、手元の携帯を耳にあてた。規則正しい呼び出し音は、何度も耳に流れては消えてゆく。
一向に繋がらない携帯を耳から離すと、諦めた私は小さく溜息を吐いて携帯を閉じた。
(……明日は、確か香澄とシフトが同じだったはず)
明日になればバイト先で会える。
そう思った私は、ベットに横になると重たくなってきた瞼をゆっくりと閉じたのだった。
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