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愛の充電器がほしい

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愛の充電器がほしい

26 - 第26話 ぽろぽろと出てくるエピソード

2025年01月28日

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ビールの入ったグラスを重ね合った。


泡が落ちそうになるのを急いで飲んだ。


五十嵐部長と颯太は、居酒屋ひょっとこにいた。


ざわざわとお客さんが集まる個室ではない広場だった。


あちこちで乾杯や、ゲラゲラと笑い声が響いている。


「はいはいはい。聞きましょう。聞きましょう。颯太のうっぷん聞いてやるよ。苗字変わってわけわからんから今日から名前で呼ぶな。てか、俺も律儀に苗字で呼ぶのも変だわな」


五十嵐部長は、お皿に乗った枝豆を次々と頬張った。タブレットメニューをスワイプして、左手で好きな唐揚げも注文している。


「あいかわずですね。五十嵐さん」


「俺のことはいいんだよ。ほら、ビールの次はなんだ。ハイボールか? たまには日本酒行ってみない?」


「奢りなら、なんでも付き合いますよ?」


「おいおい、今日は颯太のうっぷんばらしだろ? 俺に付き合うのもその一つだよな。よし、ポチッとな」


五十嵐部長は、タブレットの日本酒をタップしては、注文ボタンを確定させた。


「いや、本当、ここの居酒屋も便利になったよな。前までは、個室だけだろ? タブレット注文は。確か、こっちの広場では店員に言ってた気がするけど……」


「そうっすね。でも、いいじゃないですか。便利になって……。儲かってるんですかね」


「あぁ、そうだな。メニューの文字も洒落てるし。ほら、垂れ下がってるの。筆文字、味あるよな。手書きのような……。馴染みもあって、俺のお気に入りだわ」


厨房の脇にたくさんのお札ように垂れ下がったメニューを指さしていう。トイレ側の壁にはクリームソーダのイラストが描かれたポスターも飾られている。さくらんぼもあって、古き良き喫茶店を連想しそうなイラストだった。


「あのデザインいいですよね。確かに垂れ下がっているメニューも読みやすいですし。どこか委託で頼んでるんですかね。

まさか居酒屋のスタッフがやってるわけではなさそう……」


「……ってそんな話をしに来たわけではなくてどうなんだよ。最近の状況は」


注文していた日本酒がテーブルに運ばれてきた。正方形の枡に小さめのグラスが入っていた。その中にはサービスよすぎるだろうくらいにお酒が注がれていた。


「おっとと……こぼれそう」


話をする前に飲むことに夢中になる。


「えっと、飲んでからにしましょう」


颯太は、枝豆をつまみながら、日本酒に手をつけた。


「よし、飲んだぞ。さぁ、話して」


「本当のことを部長に言ってなかったんですけど、実家の母が倒れたのは事実ですが、お見舞いに行ってないひどい婿です。むしろ、行ける状況ではありませんでした」


「は? だってあの時、入院になったからって電話で言ってただろ。でも、出勤して数週間後に名義変更手続きしただろ? というか離婚な。んで、ちょ待って。時系列が思い出せない。俺だって、いろいろ毎日あるからなぁ。颯太ほどのドロドロはないけど、あの時、嫁のマグカップを壊して喧嘩してたって、つまらない話だけどな」


颯太はその話を聞いてため息の深いのが出た。


「そういう平和な話ができるってうらやましいっす。俺なんて、カップすらも割らない距離ですしそもそも一緒に住んでないですから、喧嘩にもならない。生身の人間と暮らす感覚を忘れていきますよ。それに今、マジでドロドロなんですって」


「お? お? ぐいぐい来るね。てか、俺にそんなに話して大丈夫? 一応上司だけど、深いところまで話すのは今日が初体験になる?」


「この際、部長しか話相手いないので聞いてもらっていいですか?! もう、アウトプットしないとどうにかなりそうで……」


「いや、もうすでにどうにかなってるだろ。フラフラじゃん、最近」


「まぁ、そうですけど、話せばすっきりすると思います」


「おう、いいけどな。んで? なんの話?」


「……い、いや、でもやっぱ、やめようかな」


颯太は過去に美雨と会っていて五十嵐部長に目撃されたことを思い出した。そして、彼女を従妹と言ってごまかした。相談したかったが、この流れも変えなくてはいけない。


面倒になるなと思い、立ち上がったが、すぐに座っては、チビチビとお酒を飲んで、紙タバコに火をつけた。


「おいおいおい。そこまで言っておいて言わないの? ちょっとやめてー、気になって眠れなくなるって続きが気になるドラマみたいじゃん。ねー、ちょっとぉ」


「オルゴールの音楽を聴いて眠ってはどうですか? ひつじ数えてください」


「いや、ちょっと、急に方向転換?! 颯太、俺を眠らせないで、話をしなさいよ」


「状況が変わりました……」


五十嵐部長は、颯太の顔をじっと見てから居酒屋のお店の中をぐるりと見た。


「……わかった。なんとなく、わかったぞ。思い出した。いつだか、女の子とここの居酒屋の個室で飲んでいたよな。確か、その時、従妹だとか言ってたけど、嘘、なんだろ?? そら、どーだ。俺の記憶力?!」


突然沸き出る五十嵐部長の記憶力。お店を見渡して、いつかの出来事が蘇ってきた。仲睦まじいそうに奥の個室から出て来た颯太を鮮明に覚えている。あの時の表情は、いつも仕事するより穏やかで柔らかい顔をしていた。よほど、隣にいる女性が影響しているんだろうと感じていた。それを従妹と言っていたため、五十嵐部長は疑問を抱いていた。


羽目も外したくなるよなぁと他人事として捉えていた。


颯太は、五十嵐部長に的入ることを言われた瞬間、何も言えなくなって、耳まで赤くした。


「ず、図星だな。そして、俺に見られたことあるから、詳しくは話したくなくなったってこと? 浮気してるってバレるから? え、ちょっと待てよ。颯太の不貞行為で離婚になったわけ? スパンが早すぎない?」


「いや、俺は振られた側です。むしろ、前から嫌われていましたから、元嫁には。あっちもお相手がいるようで、うまくいってるからと郵送で離婚届送られました。でも、スッキリしましたよ、それは。わだかまり消えて……」


「でも?」


「でも、娘が1人でこっちに来るとは思わないですよね。まぁ、いいんです。そこは。……その後の話で」


「え? 続きがあるの? 待って、来週まで温めてもいい?」


「いや、ドラマじゃないから。話させてくださいよ、ここまで言ったら」


「待って、鶏の唐揚げ食べてなかった。レモンかけないと……」


五十嵐部長は、ずっとおいてあった唐揚げを忘れていたようで、レモンを絞って、爪楊枝でパクッと食べた。


「え、話していいですか?」


「あ、待って、トイレにも行っておく」


なかなか本題に入れずにハイボールをぐびっと飲んで気持ちを紛らわした。相変わらずお店はガヤガヤと混んでいた。


1人座席に残った颯太は、紬は大家さんとおとなしく過ごしているかなと心配になった。腕時計の針は、午後8時をまわっていた。

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